幕間:悪魔は異界に降り立つ
日本の神に呼び出された時点でろくな用件ではないと思っていたが、まさか異世界に召喚された少女の守り役とは。
悪魔を頼るとは、日本の神も堕ちたものだ。
かつては神と崇められた者が多い悪魔だが、今ではその性質は善とは言い難い。
歪められ、その在り方まで大きく変えられてしまった。
とはいえ、異世界の神とやらに好き勝手にされるのを由とする訳ではない。
少しくらい様子を見てみようと、少女の魂が吸い寄せられた痕跡を辿り、その世界に辿り着いた。
文化の程度は、地球で言うところの中世くらいだろうか。
地球ほど科学は発達していないが、そのかわりに魔法が存在する世界。
そんな世界に、少女は放り出された。
そう、文字通りに放り出されたのだ。
流石に一瞬焦ってしまった。
別に日本の神に頼まれたからといって、言われた通りに保護する義務はない。
ない訳だが、召喚早々に見失ったとなれば、何をしていたのかと思われるであろう。
私は眷属である蝿達を無数に解き放った。
その羽音は大気を震わせ、夜闇に紛れて瞬時に広がっていく。
「……どこだ、私の大切な荷物は」
眷属を四方に放ち、少女の魂を探る間も、妙な苛立ちが胸を満たしていた。
やっと発見したのは、森の一角。
転生したばかりの少女は、自分で動くことも話すことも出来ない赤子の姿だった。
何も出来ない赤子を一人放置するなど、この世界の神は何を考えているのか。
少女の無事を知り安堵すると同時に、怒りがこみ上げてきた。
決して、この世界の神の好きなようになどさせない。
この少女を自分達の良いように利用するならば、それを阻止してみせる。
我が蝿の王の名にかけて、必ずこの子を守ってみせよう。
少女の未来を弄ぶ異世界の神よ、これ以上貴様の好きにはさせん。