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転生少女は悪魔と共に ~異世界は神より悪魔頼み!?~  作者: 黒猫ている
2章:王城は鬼門です

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幕間:兄は妹を想う

妹が生まれたあの日、公爵邸は悲しみに包まれていた。

真っ先に思い出すのは、憔悴しきった母上の姿。

いつも美しい母上が目は落ち窪み、まるで話に聞く骸骨のようだった。


部屋に控えた侍女達は、皆目元を押さえるハンカチをぐっしょりと濡らしている。

しきりに恐縮する医師より先に、年老いた産婆が口を開いた。


「申し訳ございません、最大限手は尽くしたのですが、我等の手が及ばず……」


ワッと、侍女達が声を上げる。

だが、母上は涙を零すことも無かった。


生まれてくるはずだった新しい命を亡くした母上は、あの時確かに全ての感情を失っていた。




それが、どうだ。

翌朝起きた時の我が家――公爵邸は、お祭り騒ぎだった。

前日の悲しみが、全て嘘だったかのように。


事実、嘘だったのだ。

母の手には、生まれたばかりの子供が抱かれていた。


嘘なのは、この景色か。

それとも、僕の記憶の方か。


屋敷中がこの子供に騙されているのではないか。

最初はそう思い、赤子を警戒した。


しかし、赤子は赤子。

ベビーベッドから出ることも、動くことも出来ない。

何の力も持たない、非力な子供だ。


赤子に手を伸ばす。

驚くほどに小さく、そしてか弱い。

もしこの小さな身体を抱いたまま、うっかり手を離してしまったら――この命は、あっという間に地に落ちてしまうのだろう。


僕みたいな非力な子供にも、簡単に摘み取れそうな命。

それがまるで恐ろしい化け物であるかのように感じていた自分が、少しおかしかった。


伸ばしかけた僕の指を、赤子が掴む。

指一本を掴むのがやっとなくらいの、小さな掌。


あの記憶を、憔悴しきった母上の姿を、忘れることは出来そうにない。

出来ないはないが、赤子と接するうちに、少しずつ恐怖が薄れていくのを感じる。


僕の妹と言われているこの子が、一体何者なのか。

僕には分からない。

ただ、一緒に居るうちに少しずつ情が移っているのは、間違い無さそうだった。




そんなルーシーが王太子殿下の婚約者にと求められたのは、彼女が六歳、僕が九歳の頃。

六歳の子供とはいえ、ルーシーの可愛さは群を抜いていた。

長い黒髪は艶やかで、彼女が動く度にふわりと舞い上がる。

子供とは思えぬ知性を秘めた夜色の瞳は、年相応の大きさ、(つぶ)らさでもってくるくると表情を変える。


気付けば、僕の目はいつもルーシーの姿を追っていた。

別によこしまな気持ちがある訳ではない。

可愛い妹として、守るべき対象として、目が離せないだけだ。


そんなルーシーを、マモン商会とのパイプ欲しさに婚約者にするだって?

ふざけるな。

僕は従弟であるライオネル殿下に、初めて怒りを覚えた。


どんな令息も、ルーシーを知れば我が婚約者にと望むことだろう。

彼女には、それだけの魅力がある。

それは分かる、分かるのだが、圧倒的な権力を持って強引に彼女を手に入れようだなんて。


実の兄と言われている僕には、その資格すら無いと言うのに。

それが酷くもどかしい。


せめて、これ以上彼女に悪い虫が付かないように。

兄ならば兄として、出来る限り彼女の傍に居よう。

相手が王族だろうが何だろうが、ルーシーの笑顔を奪われる訳にはいかない。


此度の婚約騒動で、僕はそう誓ったのだ。

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