1:お約束の展開と思いきや
5話以降は1~2日に1話ずつ投稿予定です。(全6章)
のんびりお付き合いください。
「ん……」
気付けば、目映い光に包まれていた。
目が眩み、身体は重い。
起き上がることも出来ずに、暫し状況把握に努める。
私は……どうしたんだっけ。
記憶を遡ること数秒。
少しずつ意識がハッキリとしてきて、最後に見た映像が鮮明に蘇る。
迫り来る、車のボンネット。
耳に響く甲高いブレーキ音。
鈍い衝撃。
周囲の人達の悲鳴が少しずつ遠くなっていって――…
ああ、そうか。
私は死んでしまったんだ。
そうと気付けば、今の状態も飲み込めた。
身体が重いんじゃない。
指先も、手足も、どこかに溶けて消えてしまったように何も感じられない。
身体そのものが無いんだ。
日本に生きて、二十数年。
思えばあっという間だった。
未練がないと言えば嘘になるけど、今更どうこう言っても仕方が無い。
せめて、PCの中身だけ誰か消去してくれれば……。フォルダの中身、ブラウザのブックマーク一覧、ここら辺は誰かに見られる前に消し去ってしまいたい。
いや、SNSのアカウントも全部ログアウトしておくべきだった。
本棚と押し入れの中身も、結構見られたくない物が沢山……。
あああああ、そう考えたら心残りばかりじゃない。
結婚適齢期の娘が東京で一人暮らしを始めて、良い人を見付けるどころかやっていたことがオタ活だなんて、両親が知ったらなんと言うだろう。
……案外、笑い話にされるかもしれないなぁ。
オタクな娘に、理解ある両親だった。
私には勿体ないくらい。
もう会えないのかな……そう思ったら、身体もないのに不思議と涙が零れそうな気がした。
「あら、気が付いた?」
「!?」
突然、声が掛けられた。
え、ここって死後の世界だよね?
ってことは……、
「死神?」
「どうしてそうなるのよ!」
呆れ混じりな声の主は、和服姿の美しい女性だった。
長い艶やかな黒髪。
仰々しいほどの髪飾り。
見ている分には良いけど、実際に着たら重いんだろうなって思える十二単みたいな着物。
「ごめんなさいね。貴女は死ぬべき運命ではなかったと言うのに……」
「え?」
目の前の女性は、悲しげに目を伏せた。
死ぬべきではなかった?
確かにあの時は突然車が暴走して突っ込んできたように思えたけど、一体どういうことなのだろう。
「貴女の魂は、異世界から召喚を受けたの」
「異世界……召喚?」
これ、ラノベで良く見るやつだーーーーー!!
なるほど、なるほど。
異世界から呼び出された為に、日本での肉体は死んで、魂だけが異世界で転生する……ってことなのかしら。
いやいや、ちょっと待って。
普通に考えたら喜ぶべきかもしれないけど、私の場合はどうなの!?
剣も魔法も使えない、ただのオタクなんですけど!?
「本当、迷惑極まりない話なのよねぇ」
目の前の女性が、深々とため息を吐いた。
あ、私の考え全部筒抜けでしたか。お恥ずかしい。
あんまり変なこと考えないようにしておこう……。
「あの世界は度々こちらの世界の住人の運命を捻じ曲げて、召喚を繰り返しているのよ」
「捻じ曲げ……ですか」
私の呟きに、女性が頷く。
捻じ曲げられた結果が、あの交通事故か~。
確かに不自然な動きだったけど、私だけじゃなく、車を運転していた人も大迷惑だよね。
殺人者としてのレッテルを一生貼られることになる。
「しかも、我々神は他世界には関与出来ないことになっているの」
ああ、やはり神様でしたか。
こんな風に死んだ後にお話が出来る相手なんて、それしかないよね。
ん?
関与出来ないってことは、私はラノベみたいなチート能力とかそういうの何も無しに異世界に放り出されてしまうのかしら。
「流石に、可愛い我が子をそんな目に合わせられないわ」
可愛い我が子と言ってくれるんだ。
初めてお話する神様だけど、そう言ってもらえると、こちらからも親近感が湧くし、ちょっと嬉しい。
「でも、関与出来ないんですよね?」
「そう、私達はね」
彼女が悪戯っぽく笑うと、漆黒の髪がはらりと揺れる。
「だから、貴女には彼等と一緒に行ってもらおうかと」
「彼等?」
「そう」
気付けば、神様との距離が少しずつ離れていった。
まるで私の身体がどこかに引き寄せられているような――あ、身体は無いんだった。
魂が、吸い寄せられている?
「神と同じだけの力を持ちながら、神の座を追われた者達……貴女には、地球の悪魔が力を貸してくれることになっているわ」
「あ、悪魔ぁ!?」
話をする間も、神様との距離はどんどん離れていく。
「覚えて……て。貴女は日本で生を受けた、この私――の、愛し子なんだから……」
声もすっかり遠くなってしまって、神様の言葉も断片的にしか聞き取れない。
(悪魔って何!? 神様と別れて、今度は悪魔頼み!? いくらなんでも展開が急すぎ――!)
必死に声を上げようとするけど、意識は濁流に飲み込まれるように薄れていって……。
気付いた時には、夜の森に一人放り出されていた。









