7.ラスボスのお父様は魔王?
善は急げ。
日本の義務教育の成果だね。僕は、エリアスの協力のもと、すぐにお父様攻略作戦を練った。
途中でとっても頼れる執事長も加わり、よくわからない攻略法を伝授され、いざ出陣!
夕食後、大きな木製の硬い扉の前でむんっと小さくガッツポーズをして気合を入れる。
背後のエリアスからぐぅ、と変な声の気配がしたけど、緊張しているのかも。
お父様の執務室の扉をノックする。
「お父様。ラズです。少しお時間よろしいでしょうか」
あらかじめ連絡しておいたから大丈夫だと思うけど、第一印象は大事。
返事とともに執事長が扉を開けてくれた。
僕と目が合うと片目を瞑り、微笑んでくれたイケおじ執事長だ。少し勇気が湧いたよ。
お父様は執務机でペンを走らせていた手を止める。
お父様の藤色の瞳と視線が重なるけど、表情は相変わらず無。
「何の用だ」
声の冷たさに一瞬怯み、ゴクリと喉を鳴らしてから、いっぱい練習したセリフをなぞるように声に出した。
「レオン・リューグナー殿下をこの公爵邸にお招きしたいです。……友人として」
レオの名前を出した途端にお父様は表情は変えずに、瞳の温度をぐっと下げた。
付け足した「友人として」と「レオ」とお父様の前で呼んではいけない、は執事長のアドバイスだ。
効果を一切感じないよ。イケおじ執事長。魔王様が出現したよう。
「なぜ? ラズとそいつの婚約は……保留になった。そいつに……ほれ……す、き、になったのか?」
「……?」
お父様にしては珍しく、歯切れの悪い反応だ。ペンが握りこまれ過ぎて折れそうなミシミシ音を立てる。
それに、なんでそんなことを気にするんだろう。
「友人になりたいだけです……」
これもアドバイス通りに答える。
レオに対し『友人』としての気持ちしか持っていない、というのを必ず主張する。
よくわからないアドバイスだけれど、目の前の魔王様の凍てついた瞳を見据え答えを待つ。
「そうか」
ほぅ、と短く息を吐いた魔王様は、周囲に撒き散らしていた威圧感を消失させお父様に戻った。
良かった。でも、そう言った途端机の書類に視線を戻し、無言になるお父様。
文字を追う視線は、何を考えているのか。
どうしよう。このままこのお話が流れて行きそう。
また、いつものようにお父様が難聴になって、レオが来れないと僕は死にかけるのに。
困りに困って、お父様の脇に控えるイケおじ執事長にすがるように視線を送る。
すると、作戦最大の謎行為のゴーサインがまさかのこの時に出たんだ。
お父様に絶妙に見えない位置で、小さく親指を立てるイケおじ鬼畜執事長。
執事長のお顔を見てみると、謎に自信満々なにっこり笑顔なの。
えぇ? ほんとに、今そのタイミングであっているかな?
しかし、もう打つ手がない僕は、ノリノリな執事長と沢山練習したアレをすることに。
とてとて若干震える足を動かし、お父様の執務机の前までなんとかたどり着く。
僕が近づいた気配で顔を上げたお父様の無防備な大きな片手を取り、胸元でぎゅっと両手で握る。
「パパっ! お願いっ!」
執事長にしたら、蕩けるようなすっごくにこにこ笑顔で、お菓子沢山くれたけど。なにこれ。
自分でもよくわからない行為に疑問を持ちながら、クレイドルの紫色の瞳に映る僕のお顔をじっと見続けた。
大きく見開いた瞳のまま固まるお父様。
無言で10数秒2人で見つめ合う。
そういえば、こんなに近くでお父様と見つめ合うことも、手を握るってこともしたことがなかった。
ふわふわ擽ったいような、でもこの前馬車で感じたのと同じぽかぽかな温もりに自然と顔がほころぶ。
「……だいすきです」
心からの本音をぽろりと漏らし、照れくさいからえへへ、とはにかみ首をこてり。
瞬間、お父様は崩れるように机に突っ伏した。
なんで?




