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30.学院訪問ツアーはきらきら王子様と凛々しい騎士様とともに

お読みいただきありがとうございます!

※この作品は全年齢向けBLです!そのことご理解いただきお読み下さい。


久々に登場!婚約者候補達!


「れお! あっしゅ! 僕はここです!」



 ピシっと手を上げ、お顔の壁向こうにいるはずの3人に呼びかけた。

 すると、お顔の壁、もとい人垣がざっと2つに割れて道ができた。

 軍隊さんみたいにとっても統率が取れた動きだ。



 人垣の影が消え、突然明るくなる視界に、ぱちぱち瞬きを繰り返し慣れさせていたら、再び暗くなる。

 顔を上げると、そこには、きらきら眩しい王子様と凛々しい騎士様が仲良く立っていた。



「ラズ?」


「……久しぶりだな。ラズ」



 眉を下げ僕を覗き込むように首を傾げるレオだ。

 真夏の太陽みたいに眩しい色をした髪がさらり、と顔に落ちる。

 黄金色に輝く髪の間から見える濃い蒼色が気遣わしげに曇っていた。



 その華やかな美貌と麗しい姿は断罪シーンで見た、制服をさらりと着こなした彼だ。

 背もいつの間にかもっと高くなり、心なしか筋肉も付きたくましくなった気が。

 かっこいい。かっこいいし、眩しいくらい完璧な王子様な彼。



 隣に立つアッシュはとんでもなく背が高くなっている。

 筋肉も手もすべてが雄々しい見た目。



 でも、僕を見つめる切れ長なエメラルドグリーンの瞳はいつも通り。嬉しそうにとろり、と細まっている。

 甘く艶めくバリトンも一緒だ。

 いつも頭を撫でてくれる大きくて硬い手のひらも。

 凛々しくも優し気な僕の騎士様がそこにいた。



「…………」



 嬉しい。

 胸に迫る気持ちに、喉が、言葉が詰まり声にならない。



 怖かった。



 会った瞬間に今まで過ごしてきた時間を否定するように、レオやアッシュに冷たくされるんじゃないかって。

 そんな薄情な人達じゃないことは知っていたけど。

 この目で確かめるまでは安心できなかったんだ。



「あ! 頭蓋骨の形をアッシュが褒めたのが気に入らなかったんじゃないのか?」


「は? レオン殿下が呼吸音とか気持ち悪いこといったからだよな?」


「……どっちでもないよ」



 僕が感情の波が収まるまで黙っていたら、2人が睨み合いお互いを指差し始めた。

 いつもの仲良しの2人だ。よくわからないことで喧嘩し始めるのも同じ。



「えへへ」



 思わず顔中ゆるゆるになりながら、ふにゃけた笑いが漏れた。

 途端に、時が止まったように動かず僕らへ視線を送っていた周囲がざわつき出す。



「可愛い。え? ここって天国でしたっけ?」


「あの、殿下。失礼ですが。その紺色の髪のおきれいな方は?」


「お知り合いですか? ぜひご紹介していただきたいです!」


「ま、まさか! この方が学院を代表する美々しい3人が常に話題にしているあの方?!」



 騒がしい。またまた良くわからない状況に陥っている。

 学生たちのこのざわめきの正体もよくわからないし。

 周囲の尋常ではない剣幕に恐れをなした僕。

 助けを求めるため、挟むように両隣へ立つ2人の手を握ろうとそっと手を伸ばす。



 ピコン!



『Lv4 step4 「他の薄っぺらい人間と仲良くしないで、僕のことしか見ないでね」と言いながら婚約者候補に抱きつき、周囲の人間に見せつけよう!』



 軽快な音とともにウインドウが視界を埋めた。

 このタイミングでしろと?!

 こんなに人が集まっている場所で、ラスボス感満載かつ執着めいたセリフをいえというのか。神様?!



 ピコン!



 急かすようにウインドウが音を立てる。

 このウインドウがピカピカ点滅しだしたら、死にかけるカウントダウン開始だ。



 ピコン!

 ウインドウが一際眩しく光る。



 まずい!

 耳鳴りがキィーンと頭全体に響きだし始める。

 このままだと危ないから、咄嗟にレオへ手を伸ばし、腰に腕をぎゅうっと巻きつけた。



「ら、らず?!」


「屈んで! レオ!」



 必死な僕の声に上体を屈めたレオだ。頭の痛みで俯いた顔を上げると思いの外、物理的距離が近い。

 額と額がくっつきそうな距離で、レオのきらきら輝くまつ毛の数までわかってしまうくらい。

 きらめくまつ毛に囲まれた夏空色の瞳は戸惑いに揺れている。



 その瞳に映る自分を見つめ、いつかのようにセリフを息を乱しながら小声で紡いだ。



「他の……関係の……薄い、ぺらい人と仲良くしないで。今だけ、僕のことしか見ないで欲しい……です。」



 もう視界のウインドウの点滅や耳鳴りも嘘のように消失する。初対面のときのように。



「私はずっとラズしか見ていないし、薄っぺらい他の人間なんてこれからも必要ないよ」



 コツンと額を合わせたレオは奇遇にも「清く正しく美しいヤンデレ」さんのセリフを僕に返す。



「ふふ。嬉しいな。他でもない君に求めてもらえるなんて。……私のラズ」



 恥じらうように頬を染め甘く微笑む王子様の瞳に昏い熱がともる。

 レンズ越しなのに僕を絡め捕るような昏い熱。

 ぞくり、と背筋に悪寒が走り固まる僕を、レオは腕の中へ閉じ込めるようにぎゅうっと抱き締めた



「うぎゃ! は、はなして!」


「んー? ラズから抱きついて来たのに?」


「そ、それは……」



 今更ながら、公衆の面前で抱きしめ合う姿を晒すのはきつい。

 僕は必死に抜け出そうと身じろぎをするけど、レオは楽しそうに腰に回る腕に力を込める。

 そのせいか、レオの胸板にもっと頬を寄せることになり、細身に見えたのに太い骨や立派な筋肉を感じてしまう。



 ん? レオって僕と一緒で読書や花壇の世話が好きな根っからのインドア派だったはず。

 なんで、こんなに筋肉ついているの。



 すぐさまレオの腰に回した手を背中に移動させ、ぺたぺたと数カ所触り背筋を確認。

 前よりも硬いし、ハリがある気もする。

 衝撃だ。裏切られた。



「筋肉ついた! ひ弱仲間だったのにレオだけずるい!」


「あー。鍛錬バカに張り合っていたら、いつの間にかにね。ラズは相変わらず小さくて柔らかいね」


「え?」



 レオはそう言うが早いか僕の脇に手を差し入れ、軽々と抱え上げた。

 まさかのお子様を抱っこするときのタテ抱っこですよ。

 突然、視界は広々、高くなり、僕達を中心に人の輪が形成されている様子を見せつけられる



「お、おろして! レオ?! 重いよ?!」


「あはは! 大丈夫!」



 いつかラズをこうしたかったんだよね、と言いながらわざとらしく僕を高く持ち上げるレオ。

 確かに腕だけで持ち上げているのに安定感抜群だが、恥ずかしい。

 しかも本当に、今ごろになって、レオとこんなに密着するのは初めてと気付く。

 レオからいつもするお花のいい香りとか、伝わる体温に心臓が飛び出そうなんだよ!



「だ、あ、あっしゅ! 助けて!」



 隣で目を丸くして立ち尽くすアッシュに助けを求めた。

 アッシュなら安全、安心かつ信頼できる!

 むしろアッシュに抱っこされる方が!



「わかった!」



 腰に響くような色香を纏う頼もしい声が聞こえた瞬間、ぐいっと力まかせに持ち上げられ僕はアッシュの腕の中。

 レオの舌打ちが聞こえたが、気のせいだな。



「ありがとう! アッシュ!」



 さすが僕の頼もしい騎士様だ。

 さっきよりも視点は高くなったけど、アッシュの爽やかな匂いとか鍛えられた腕のたくましさに落ち着くよ。

 アッシュの首にぎゅっと腕を巻きつけた僕はほっと一息。



「あ、お降ろすか?」



 上擦った小さな声に、いつもは見上げるばかりのアッシュのお顔を見下ろす。

 きりっとした眉が珍しく今は困ったように下げられていた。

 なんだかアッシュの優しい性格が表れた姿に、つい嬉しくなって。

 目の前にある、いつもなら絶対届かない場所に手を伸ばし、頭を撫でた。



 意外にもアッシュの真紅の髪は柔らかかった。

 指の間を滑る短い髪の指通りの良さに、夢中で何回も撫で続けてしまう。

 手を動かす度、柔らかな髪の感触に、じんわりぽかぽか心が温められる。

 アッシュも僕の頭を撫でる時は、こんな気持ちなのかな。だったら嬉しいな。



「ら、ラズ?!」



 今度はひきつったアッシュの声がかかる。

 そこには涙目で髪色と同じく顔中真っ赤にさせた彼。

 凛々しい騎士様がこんな弱々しい姿になってしまうなんて。



 驚きとともに、温まった心に彼の人柄みたいな優しい気持ちがほっこり満ちる。



「アッシュって可愛いね」



 うっかり心の声が漏れてしまった。



「「「ラズ(あなた)のほうが絶対可愛い!!!!」」」



 即座に、耳をつんざくような大声で、周囲の皆からよくわからない理由で否定される。



 やっぱり学院こわい。







「えっ?! イヴいないの?」


「うん。せっかくラズが来るのにね。明け方、いきなり聖女様に会いに行くと言い出してね」


「珍しくかなり動揺していたぞ。イヴくんがラズより優先させるなんて、かなりの緊急事態だよな」


「……そうなんだ」


 イヴがここにいないことを、ほんの少しだけ安心し喜んでしまった。

 断罪劇の主役が不在であれば、悪役令息(仮)断罪劇が起こる可能性は限りなく低いからだ。

 会いたかったけど、侮蔑を含む悪意に満ちたあの空気にもう二度と晒されたくない。

 嫌なお兄ちゃんだよね。ごめんなさい、大切な弟のイヴ。



 それにしてもイヴはおじさまに早朝から会いに行くなんてどうしたんだろう。

 なぜかイヤな予感がする。



「私の温室があるからさっそく案内するね。藤棚もあって、満開で綺麗だよ!」


「俺達は今日ずっと一緒にいられるからな」



 僕のしょんぼりした様子に気づいたのか。レオは明るい声で意気揚々と僕の手を引きながら歩き出す。

 アッシュも僕を励ますように背中にそっと大きな手をあてた。



「うん!」



 大好きな婚約者候補である2人からの気遣いが嬉しくて。

 せっかく来たんだから、めいっぱい学院見学を楽しもう! と気持ちを切り替える。

 僕の手に繋がった両隣の頼もしい手をぎゅうっと握り返すと、2人も笑顔で握り返してくれた。


 





「ここは剣術訓練に使用される訓練場だ」


「私とアッシュは先日この場所で開催された剣技会にも出場したんだよ」


「レオが剣術?! スコップ以外持てたの?」


「……ラズの中での私がよくわかったよ」



 アッシュが指差した先には本格的な円形闘技場風な建物。

 ふと前世で見た世界史資料集でローマ帝国に関連するページが頭を掠めた。

 がっしりした体格のアッシュなら理解できる。細身な貴公子然としたレオが剣術をし、剣技会へ出場するなんて信じられなさ過ぎた。

 ポロッと本心が漏れ出てしまった。 ちゃんと2人の耳にも届いてしまったらしく、落ち込んだレオと対照的に吹き出したアッシュだ。



 その後も、2人と手を繋ぎながら、てくてくご機嫌に学院内を案内されながら歩く。

 王立学院の敷地はとっても広大で、学舎も学ぶ教科ごとに数カ所に分けられている。

 生徒は自らが学びたい教科を選び、カリキュラムを組む。仕組みとか諸々含め、前世の大学みたいだった。



 初めて見る学院の施設に、好奇心からついキョロキョロしてしまう。

 だって、かの有名な『魔法学校』みたいに、巨大尖塔が特徴的な荘厳な学舎や、魔法専用競技場だよ?!

 ドンピシャ世代の僕としては、ワクワクしちゃうのは仕方がないよ。



 エリアスは無表情で一歩後ろに控え付いてくる。足音もたてず、あまりに静か過ぎて背後霊みたい。

 でもね、4人でただ会話しながら歩いているだけなのに、僕に多数の視線がブスブス突き刺さっている。

 こそこそ『白髪』を見られないよう日陰の中で生きてきた僕には刺激が強過ぎる。

 マントやヴェール越しに向けられる視線とは段違いに、鋭さも、読めてしまうくらい感情が篭っているから。

 いや、頭ではその理由を理解できるんだけどね。



「あのレオン殿下がにこやかに笑っている?!」


「剣技会覇者であるアッシュ兄貴のはにかみ笑顔いただきました!」



 どちゃくそ美々しい2人と従者を侍らす僕はかなり注目を集めるってさ。

 頭では理解していても、ひそひそと小さな声で囁かれる反応は、例の断罪劇を僕に思い起こさせた。

 気まずさよりも若干の恐怖が勝る。

 自然と足元に視線を落とし、背が高い両隣の2人の後ろにこっそり隠れようと歩調を緩めたその時。



「私の大切な婚約者であるラズは疲れたよな?」


「ふぇ?」



 突然レオがわざとらしく声を張り上げ話しかけて来た。

 なぜか顔は僕を見ずに睨めつけるように視線を巡らせている。

 レオから堂々と発された「婚約者」という言葉に周囲がさらに声を上げ色めき立つ。悲鳴混じりです。

 控えめに向けられていた好奇な視線がさらに真っ向から僕達に集まってしまう。



 集まる視線の強さに肩をビク、と揺らした僕にレオは抱き寄せるように腰に腕を回した。

 レオがアッシュに目配せをすると、アッシュは支えるように僕の背中にまた手を当てたよ。

 訳がわからない僕は目をぱちくりしながら2人を見上げると、アッシュも人だかりを鋭く見据えている。

 切れ長な瞳が放つ噛みつきでもしそうな眼光の鋭さは凄みが桁違いだ。

 その鋭利なエメラルドグリーンの瞳は、ぞっとするほど低い押し込もった声を出す。



「俺の可愛い婚約者がとても魅力的なのはわかるが」


「「見るな。減る!」」



 レオとアッシュが同時にきっぱりと断罪するように言い放った。



 その心強い声がこだまするくらいシーンとした異様な沈黙が周囲に広がっていく。



「もう昼食にいたしましょうか。麗しの我がご主人様」



 感情の読めないエリアスの声で、張り詰めた空気が和らぐはずだった。



「こちらで召し上がるクレイドル公爵家より持参した特製ランチはさぞ美味でしょうね」



 朗らかな言葉とは反対な声色。

 そして、いつもの如く絶対零度の眼差し付き端正な笑みを浮かべていた。



「く、クレイドル公爵家ってイヴさまのご家族?!」


「あゔあぁー、あそこがまたもがれるっ!」


「ひぃっ! 誰か助けて……」



 イヴの関係者だとわかった途端に、突如として阿鼻叫喚が発生。

 え? イヴはここで何をやらかしているの? 断罪劇よりもひどい仕上がりなんだけど?



「大丈夫だよ。イヴの被害者なだけだからね」


「イヴくんはこの学院で一目置かれる存在だからな」



 唖然としていたらレオとアッシュが腰や背に手をあて、僕をエスコートをしながら再び歩き出す。



「え、エリア」


「すみません。想像以上でした。まあイヴさまなので、ラズ様は気にせずとも良いですよ」



 良くわからずにエリアスに助けを求めたら、強引に声を被せ気味に謝罪される。

 最後には、にっこり美麗な微笑みいただきました。有無を言わせないやつです。

 両隣に支えられすぎて、荷物みたいにほぼ担がれた状態で阿鼻叫喚の空間を後にしたよ。



 

 

 


 

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