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11.子猫とのじゃれ合いは楽しいです!

 

 今日も僕は可愛い子猫、もとい弟に観察されています。

 レオと一緒に植えた花壇にお水を上げている僕を、生け垣の影に隠れて見ている。

 これだけ見られたら、気になってイヴくんの方を見たいけど、それはダメ。



「ねぇ。まだいる?」


「国学の講師の方が先程迎えに来られ、お屋敷に戻られました」



 花壇の前にしゃがみ、雑草をブチブチ無心に取りながらエリアスに聞いた。

 初夏は雑草の成長がとても早い。1日取らないだけでもすぐに出てくる。

 間違えてお花の苗を抜いている訳じゃない。本当に。



 やっと雑草を抜き終わり立ち上がる。腰に両手をあて、ぐいーと後ろに逸らす。

 なんかエリアスが先に手を拭けっていう小言は無視して、休憩の為に椅子に腰掛けた。



「……椅子持ってきたんだ。テーブルもあるの……」


「ラズ様が気にせず地べたに座ろうとするので、レオン殿下が贈ってくださいました」



 何故かエリアスはレオの話題になると声のトーンが下がるんだよね。表情は相変わらず無だけど。

 謎に最近メガネも掛け出すしさ。その理由が僕の側にいるためらしくて、レオがアドバイスくれたらしいよ。


 泣きそうなお顔でそんな当然のことを言うし、よくわかんないよね。エリアスにはずっといてもらうつもりなのにさ。


 テーブルの上にはいつの間にか休憩用のティーセットが。エリアスに手を拭かれながら気づく。

 少し暑くなって来た気温に合わせて、エリアスが入れたほんのり冷たい紅茶に手を伸ばす。



「どうしたらイヴくんと仲良」


「無理して仲良くされなくても良いのでは」


「……僕がしたいの!」



 僕に興味はあるみたいなんだけど、遠くから観察するだけ。

 その視線に気づいて、ぱっと振り向いちゃうともうダメ。イヴくん(子猫ちゃん)はびくっと身を竦ませ、ぴゅーっと去っていくのだ。



 可愛いよねぇ。お兄ちゃん今度猫じゃらしでも買おうかな。


 僕は一緒に遊びたくてウズウズしているのにさ。


 でもね、あちらから来るようになるまで待たないと、嫌われちゃって遊べ無くなるから我慢。


 子猫をお迎えする時の基本です。



 その子猫ちゃんが来て、もう2週間が経つけれど、挨拶以外に会話したいな。

 あの変なウインドウがまた変な指示を出す前に。切実だよ。



 そう思いながら見上げた空は、もくもく雲が泳いで猫の肉球に見えたにゃん。


 





「兄様! このクッキー、全部イヴにくれませんか?」


「うん! いいよー! あーん」



 わわっ! イヴくんが僕にすっごーく甘えてくれるようになったよ!

 僕がお部屋でお茶をしていたら、いきなりイヴくんが真剣なお顔で入ってきてね。

 警戒心出しながら、お部屋をキョロキョロと見渡していたから、一緒にお茶に誘ったんだ。

 おずおずと向かいのソファーにイヴくんは腰掛ける。


 座った途端に座面にお尻が沈みこむのがびっくりしたみたいで、わっと小さな声を上げた。

 瞳をきらきらさせながら、「柔らかい」って言いながら数回ぽんぽんお尻を座面に弾ませる。



 僕はその無邪気な可愛い姿に頬は緩みっぱなし。



 イヴくんはエリアスと僕の生温かい視線に気づいたら、バツが悪そうにお顔を真っ赤にして俯いちゃったんだ。

 お兄ちゃんとしては弟にそんなお顔してほしくないから、お気に入りのクッキーを勧めたよ。

 美味しいもの食べたら元気でるよね。


 そうしたら、イヴくんもすっごく気に入ったみたいで、おねだりされちゃった。

 お兄ちゃんはこういう触れ合いを待っていたよー。



 お皿に並ぶクッキーを一つ摘みあーんとイヴくんの口元に持っていけば、イヴくんは目をまんまるにする。

 眉間にシワを寄せ、本紫の瞳をゆらゆら揺らすと、お口をゆっくり控えめに開けた。

 僕はうきうきとその小さなお口に、次々とお皿のクッキーを全部入れていく。

 お顔を真っ赤にしながら、もぐもぐクッキーを食べる弟最高に可愛いよー!



「……クッキーごちそうさまでした。」


「お粗末さまですっ。紅茶もどうぞー!」


「……いただきます」

 

 クッキーでお腹いっぱいになったイヴくんに、まだまだお部屋にいて欲しいから、紅茶をすすめる。

 一口紅茶を飲んだイブくんは、ほっとしたように口元を緩ませ、両肩に入った力を抜いた。


 エリアスの淹れてくれた紅茶のおかげで作戦成功です。

 わずかに緊張が解けたのか、イヴくんはカップを傾げながら、大きな瞳をくるくる動かしお部屋の中を見回す。

 そして、窓際の机の上、万年筆を見ながらチラチラ見て言った。



「……あ、では、あの、その、そこの万年筆も……く」


「あげるー」


「え? あ、くっ、ありがとうゴザイマス」



 お兄ちゃんに甘えるのが緊張するのかな。さっきから真正面に座るイヴくんと視線が合わない。

 心配いらないよ、イヴくん。お兄ちゃんは空気を読むことに長けた国出身だからね。

 にこにこ笑顔で、速攻で了承のお返事ですよ。



 机の上から愛用万年筆を取って来て、イヴくんに「はい!」と手渡すと、恐る恐る小さな手で受け取る。

 万年筆をいそいそとポケットに仕舞うイヴくんは、なぜかやっぱり目が合わない。



 ふふ、お揃いにしたかったのかな? 嬉しー。兄弟でお揃いって仲良しさんの証みたいで良いよね!



 その後も何故かイヴくんがお部屋にある物を可愛くおねだりするから、全部あげた。

 あげながら、アイドルさんに課金する気持ちが少しわかっちゃった。喜んでくれるならあげちゃうよね!

 でも何故か、あげる度にイヴくんの顔色が青くなり元気がなくなるし、エリアスの纏う空気が冷えていく。



 なんで、と首を傾げ始めた頃、イヴくんのお勉強の講師の方が迎えに来た。



「あ、の、……いっぱい……ありがとうございました……」


「うんっ!またぜひ気軽に来てねー!イヴくん!」


「……お邪魔しました」



 イヴくんが両手いっぱいにプレゼントを色々抱え、背中を丸めながらお部屋からいなくなる。

 笑顔で見送り、扉がパタリと閉まった途端、エリアスのため息混じりのお小言が真顔で落とされた。



「ラズ様は絶対に一人で買い物に行かないでください。詐欺にあいます。必ず!」



 失礼だぞ!



 僕はエリアスに向かい抗議のためにぷくっと頬を膨らませた。

 

 

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