プロローグ
この世界には【掟破り】と称される八人の“超越者”が存在している。
【掟破り】とは【異能者】と称される文字通り魔法や魔術、霊術に呪法など様々な人智を超えた異能を有する者達に君臨する、まさしく“神”だ。
【掟破り】は、【異能者】達からすれば“神”や“王”など偉大なる存在、又は至高の存在として敬い、崇拝し、畏怖される。
が、実際は【掟破り】を知る者達は各国の上層部か一部の【異能者】のみだ。
しかし、【掟破り】でもあまり人に知られていない存在もいる。
―――――――では何故、【掟破り】と認知されているのか。
理由は簡単だ。
「ま、まさか、こんな―――――」
「に、ニンゲン如きに―――――」
「ば、バケモノ――――――――――」
「バケモノにバケモノ呼ばわりされるのは癪ですね」
その刹那、異形の姿をした人型はたった一閃で崩れ落ちてしまう。その異形の姿の人型は、自我を持つ牛の顔を持つ者、様々な動物の部位をくっつけたキメラの様な者、人の形ではあるが腐敗した死人の身体の者。
何れもこの世で【異能者】や人々から恐れられ最も危険視されるバケモノ。或いは妖怪やモンスター、怪異とも称される存在だ。
「まあまぁっ♪他においたをする子は何処かしら?」
その存在をたった一振りで葬る者、一人ありけり。
長い髪を靡かせ、右手に持つ身の丈を超える大太刀を振るう天女。しかし、葬られた彼等からすれば死神だ。酷く整った端正な顔立ちに、闇夜に広がる景色に月を連想させる瞳は老若男女問わず魅了されるだろう。
「ぉっ、お許しを………」
唯一、バケモノ共の中で生き残った一人の女が一人。しかし、この女はバケモノの中でも白く美しいバケモノであった。
「あら、随分と可愛らしいバケモノね。その姿とその氷の能力――――――あぁ、“雪女”ね。初めて見ました」
「【掟破り】様、どうか―――――」
「【掟破り】……それが私の異名、ですか?まあいいでしょう。今私が貴女の命を握ってるの。わかりますか?貴女が命乞いしようと、私の命を狙ったのは事実―――――どうなろうと私の気分次第なんですよ」
「ぁ、ぁぁ……」
「まあどうせ小者ですし―――――そう言えば、巷て物怪や妖怪を使役する陰陽師がいましたね。少し、憧れます」
「あ、あのっ!こ、この雪女、貴女様にお仕えしたく―――――」
「あらそう?なら…………お言葉に甘えましょう。では、これから貴女の名前は【雪凪】。そう名乗りなさい」
「あっ、ありがたき幸せっ!」
【掟破り】は文字通り、掟破りな性格だ。
全員が全て、ではないものの【掟破り】の特徴は人間離れした価値観と己以外に興味はない。或いは趣味趣向以外に興味が無いのだ。
人を人とも思わず、中には人もバケモノも同じ生物として認知する者もいる。そして自分勝手であり、自由奔放だ。
「ときに雪凪、何故私は【掟破り】というダサい異名?みたいなので呼ばれているのかしら」
「そ、それは、私達―――――貴女様からすればバケモノ達にも組織があって、特に極めて危険存在八つ。つ、つまり――――――」
「私と同じ、危険な存在【掟破り】は八人いるのですね。いえ、八つですか。人以外にも含まれるのですね。ですが、所詮は有象無象。興味はありません」
そう言うとその者は月夜に照らされながら、まるで筆を振るうように大太刀に付いた血を振り払った。払われた血飛沫は闇に消え去ってしまう。
「それにしても、最近バケモノ共の襲撃が多いですね――――――あぁ、そうだ。目には目を歯には歯を、バケモノにはバケモノ、ですね」
そう微笑みながらその者は闇夜に紛れていく。そしてその者に付き添う様に慌てて走り付いていく雪凪は恐怖心に蝕まれていたが、生き残る為に己の身体にムチを打つのであった。