第一話『目を覚ました不良男』
「――あ? ここは……って冷た!」
意識が戻った時、俺は何処かも分からない河原に立っていた。
足首に異常な冷たさを感じて足元を見ると、そこには水が流れており俺が川の中に立っているのが分かった。
なんで俺は川の中に居るのでしょう……?
「……まぁ、どうせアイツ等が気絶した俺を川に投げ捨てたってとこだろうけどな。全く、容赦のねえクソ共がよ」
ブツブツと愚痴を零しながら、俺は川から上がる。
とりあえず、今日はもう喧嘩をする気力もないし、さっさと家に帰るか。
――って、ここが何処か分からねえんだった。
濡れているズボンへと手を伸ばし、中に入っていたスマホを取り出した。
水没して故障していない事を期待し、俺はスマホの電源ボタンを押して――無事、画面が明るく光った事に胸をなでおろす。
そのままスマホを操作してマップを開き、家の住所を検索してスマホの示す道を歩いて行った。
「え? 男の子が一人で外出って……」
「あの子濡れてるよ!? 拭いてあげなきゃ!」
「待ちなって。“そういう”事情の子かもしれないだろ?」
「し、しかも結構イケメン……!」
この時、周りの視線にもう少しだけ気を回していたなら、どれだけ良かっただろうかと後に後悔する事を、この時の俺はまだ知らない。
*
家の前に辿り着いた俺は、この後の親父とお袋の反応を想像して玄関ドアにかけていた手をピタリと止めてしまった。
俺が不良になり、偶に怪我をして帰ると心配性のお袋は泣きながら俺の傷口に消毒液をかけ、親父は古臭い説教をかましてくるのだ。
正直、面倒臭い。
大体、あの人達は俺の強さを知らんからああやって心配してくるんだよ。
手っ取り早く、俺の喧嘩の強さでも見せてやろうかな。
……いや、止めておこう。多分お袋が泣く。
「しゃあねえ、ネカフェに泊まるか」
幸い、財布にはそれなりに金が入っている。これならば一晩は泊まれるだろう。
そう思い立った俺はすぐにネカフェへと向かい、一夜を過ごした。女性の店員が何故か凄い目力で見てきたのが気になったが、それはまぁ良しとしよう。
朝日が空に広がり、街を照らし始めた頃。俺は、家の玄関前へと戻ってきていた。
俺が不良である事は親父たちも知ってるだろうが、それでも朝帰り何てのは滅多にしない。お袋が心配するからな、そういう時は事前に知らせておく。
だからこうして、お袋が起きる前に帰ってきたというわけだ。これなら、お袋も俺が夜のうちに帰ってきたと思うだろ。
そう考えた俺の思考回路は、ぶっちゃけ言うと――甘かった。
ドアを開けた瞬間、視界に入ってきたのは目の下に酷い隈を作り、涙目で俺を見つめている若い女性だった。
……誰?
「てっちゃん!」
お袋が俺を呼ぶときの名で俺を呼び、女性は俺に抱き着いてきた。
予想外の出来事に一瞬固まる俺だったが、次の瞬間にはその女性を引き剝がし、真正面から女性の顔を覗き込んだ。
そして、俺は恐る恐る口を開く。
「あの……ひょっとしなくても、お袋?」
「? ええ、私はてっちゃんのお母さんよ? 急にどうしたの……やっぱり、どこか怪我してるんじゃ」
「いや、これは怪我とかじゃねえから……」
「そんなの分からないでしょ!? 待ってて、今救急車を――」
「ちょいちょいちょい、待てよお袋。流石に心配し過ぎだぜ」
最初は目の前の女性をお袋だとは信じられなかったが、こうして話をしていると確かに相手の女性が長年一緒に暮らしてきたお袋なんだと分かる。
その事に少しばかり安心して頬を緩めた。
「っていうか、そろそろ家ン中に入りたいんだけど?」
「ああ! 御免なさいね。男の子を外に立たせたままだなんて、いくらお母さんでも駄目よね」
ん? 今のちょっと文章可笑しくね?
と思ったが、結局俺はそれを聞き返す事無く家の中へと入っていった。
「――後、なんでこんなに遅く帰ってきたのかも聞かせてもらうから」
「……はぃ」
消え入りそうな声で、俺は返事を返した。
だって怖いからね!




