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7:地霊殿

 

「博麗の巫女さんが、こんなところで黄昏てるなんて珍しいじゃない」

 霊夢が振り返ると、地底の主の妹、古明地こいしが立っていた。

「神出鬼没のアンタに言われたくはないわ。

 あと、黄昏てない。

 アンタの家に行こうとしてただけよ」

「えっ、地霊殿に?

 なに、お姉さまに会う約束でもしたの?」 

 わくわくした目でこいしが霊夢を見る。

 こうしてみるとフランドール同様、この子も子供にしか見えないな…そんなことを思いながら。

「いいえ、約束はしてないけど…紅魔館の動けない大図書館に匹敵する、地霊殿の動かない幼女だもの。

 地霊殿に行けば会えるでしょ」

「動かない幼女か…あはは、さすがだね。

 うん、多分いると思うよ」

「アンタもいく?」

「行く行く~」

「よし、入ろうか、洞窟」

 そう言って霊夢とこいしは洞窟に入る。

 

「おや、客人とは珍しい…って、博麗の巫女じゃないかね。

 なんかあったのかい?」

 洞窟に入って最初に霊夢達が会ったのは、土蜘蛛の黒谷ヤマメ。

「よっす。

 いや、散歩がてらさとりのご機嫌伺いに来ただけよ。

 ちょうどこの子もいたし」

 そう言ってこいしを見せる。

「ヤマメー久しぶりー」

「おやまぁ、久しぶりだねぇ、こいし。

 今回はゆっくりしてくのかい?」

「えーっとねぇ…わかんない!!」

 明るいなこいし。

 霊夢が心の中で突っ込む。

「そっか…さとりも最近はさみしそうだったぞ?

 今回はゆっくりしておいき…霊夢もね」

「わかったー!!」

「ありがとう、またね、ヤマメ」

「はいはいー…さてもう一仕事したら、勇儀たちの宴会に混ぜてもらうとするかね」

 地底の異変の時も、こんな感じだったなーヤマメは。

 霊夢はそんなことを思いながらこいしとともに洞窟を進む。

 そして旧都に差しかかる。

「うぉらぁ!!」

 ごくごくごくごく。

「わぁー勇儀すごーい」

「一気に飲んじまったぜぇ!!

 ワイルドだろぉ!!」

「雲山の真似もうまいわね、妬ましい」

「…あーあ。あれか、ヤマメの言ってた酒席ってのは」

「あー勇儀だぁ!

 パルパルにお空にキスメもいるぅ!!」

 どうやら星熊勇儀を囲って飲んでいる様子。

「陽気で結構ね」

「ん? …あぁ、博麗の巫女…ってなんであんたがここにいるのよ」

 近づいて行って話しかけると、最初に気付いたのは水橋パルスィだった。

「いや、さとりんとこでも行こうかなと思ってね。

 向かってたらあんたたちの酒盛りが見えてね…ずいぶん出来上がってるじゃない」

「あぁ…勇儀はいつもこんなんよ」

 しっとりしたパルスィの話し声の裏では、勇儀・霊烏路空とこいしが再会を喜んでいる。

「キスメ、久しぶりね」

「…はい」

 霊夢がほほ笑むと恥ずかしそうにキスメは桶に顔を沈めた。

「キスメは人見知りね…地底のメンバー以外にも心を開かせないとね」

 パルスィがため息をつく。

「…パルスィ、あんた優しいわね」

 そう霊夢が素直な感想を漏らすと、パルスィははっと顔を上げ、みるみる赤くなった。

「なっ、なによ、そんな感想を素直に…妬ましいわね!!」

「おいおい博麗のぉ、パルスィいじめてんじゃないよ」

 そんな会話をしていると、勇儀が割って入ってきた。

 それを聞いてパルスィの顔が明るくなる。

「はいはい、お熱いことで。

 次はアンタとパルスィの結婚式かしら?」

 幻想郷は仲のいいメンバーが多いな本当に。

 私が妬ましいわ…そんなことを霊夢が考える。

「ハハハ、酒席になるんならそれもいい」

 ぐいっ。

「はぁ…男前なあんたらしいわ。

 ただの酒飲みの萃香とは対照的なお酒の飲み方ね」

「萃香か…どうだ、あいつは元気でやってるのか?」

 そういうと、よっこいしょとばかり霊夢の前に勇儀は腰掛け、霊夢に酒を勧めた。

「おっとっとっと。

 萃香? ええ、元気よ、相変わらずお酒飲んでるわ」

 返答してから、霊夢は酒を注がれた猪口をぐい飲みする。

「そりゃしょうがないだろ。

 アタシたち鬼は、酒飲まないと何にもできないからな」

 がははと勇儀は豪快に笑う。

「そういうことのようね。

 からまれる方は迷惑だけど」

「からまれたら酒を楽しめ。

 それがアタシが言える、酔っぱらいの対処法だ」

「ふふふ…さすがね」

「そういえば…なんで急に霊夢が地底に来たんだ?

 なんか異変か?」

「あ、それは私も気になってたわ」

 勇儀の問いに、隣で静かにしていたパルスィも応じる。

「…この幻想郷では巫女さんの散歩は異変扱いされるみたいね」

 そういって霊夢は頭をかきながらさとりの様子を見に来た、と応じた。

「へぇ…あのさとりに自分から会いに来るやつが居ようたぁ、信じがたい事態になったもんだ」

 勇儀はおかしそうに笑った。

「異変を起こした連中の様子うかがいのついでに、よ」

「それでも、さとりに会いに来るやつなんてこいつら以外に見たことがねぇ」

 そう言って勇儀は、お空とこいしを指差した。

「うにゅ?」

 その声に空が勇儀を振り向き、ようやく霊夢に気付く。

「あぁ、えっと…博麗の…博麗ミク?」

 ずこっ。

 その場にいた空以外の面々がこけた。

「どこぞのバーチャル歌姫か私は…巫女よ…博麗の巫女、博麗霊夢。

 久しぶりねお空」

「うん、久しぶりー。

 今日はどうしたのー?」

「霊夢はね、おねーちゃんに会いに来たんだよー物好きだよねー」

 霊夢ではなくこいしがその問いに答え、おかしそうに笑う。

「物好きって…あんたその言葉好きねぇ…」

「えっ、さとりさまに!?」

 空が固まる。

「そうよ。

 異変を起こした連中がおとなしくしてるか、パトロールして回ってるところよ」

「ほう…で、おとなしくしてなかったらどうする?」

「寝首をかいて夢想封印してやるわ」

 ニヤリとしながらそう返すと、勇儀は「ははは、アンタらしい」と笑ったものの、パルスィがドン引きしていた。

「さて…それじゃそろそろ、パトロールを再開しますか。

 こいし、アンタどうする?」

「私はもう少しここにいる~地霊殿はもうすぐだし、終わってからお空と一緒にいくよ~」

「そう…じゃぁ、私はお暇するわ。

 勇儀、パルスィ、キスメ、お空、お邪魔さんね」

「あぁ、またいつでも来な」

 そう言って勇儀は微笑んだ。

 

「さて、地霊殿についたわけだけど…」

「ん? あれ、霊夢、なんでこんなところに?」

 地霊殿についた霊夢の背後から聞き覚えのある声がした。

 火焔猫燐である。

「あぁ、お燐。

 さとりはいるかしら?」

「さとり様?

 うん、中にいると思うけど…どうかしたの、さとり様に用事なんて。

 勇儀さんが博麗神社でやらかしたの?」

 呆れ顔でお燐が聞き返す。

「ははは、だったら面白いんだけどね。

 今日はさとりとお茶でも飲もうと思って散歩がてら来てみたの」

「え゛…さ、さとり様とお茶!?」

 さとり、アンタどんな生活してんのよ。

 ペットにアンタとお茶しに来たって言っただけなのにドン引きされてるわよ。

 心の中で霊夢が突っ込む。

「そ。…あとその反応、さっきお空もしてたわ」

「そりゃそうなるわよ…普通の人なら絶対にしないわよ、さとり様とお茶なんて。

 でも…」

 そういってお燐はいたずらっぽく笑いながら続けた。

「霊夢ならあり得そうだから、困ったものね」

「コラ、私はいったいなんなんだ」

 そんなバカ話をしながら二人は地霊殿の中に入る。

 そして階段を上がり、さとりの部屋に着く。

 Knock Knock。

「失礼します、さとり様」

「ええ、どうぞ…いらっしゃい霊夢」

「…さすがね、さとり」

 入った瞬間に誰がいるかわかるという、「心を読む程度の能力」をもった古明地さとり。

 その能力とそこから読み取った痛いところをつく性格で忌み嫌われているものの、八雲紫やその式神・八雲藍は「そこまで悪い妖怪ではない」と評している。

「散歩のついでに寄るなんて場所じゃないけど…そう、ご飯を食べにね。

 お燐、食事の用意を」

「あ、ハイ、さとり様」

 火焔猫燐がその言葉に部屋を出る。

 後ろを向いた瞬間、噴出したのが分かった。

「…そりゃアンタ嫌われるわ、さとり。

 一応建前では、散歩ついでに異変を起こした妖怪の監視をするってことにしてんだから」

「…すいませんね、心が読めて。

 まぁ…どんな理由があるにせよ、よくいらしたわ、歓迎するわよ霊夢」

「ありがとうね。

 でも…」

「…ふふ、空や星熊さんがそんなことをね。

 二人とも正直だから」

 すかさず心を読んで苦笑するさとり。

「その性格よね。

 先回りするの楽しんでるでしょ?

 ま、勇儀は正直者が好きだから、そんなさとりを信頼してるのかもしれないけれどね」

「…そうでしょう。

 星熊さんもそう思ってましたし」

「萃香とかもアンタとは気が合うかもね。

 アイツもうそつきを何より嫌うから」

「どうでしょうね。

 まぁ私の前ではうそつきがうそをつけないだけだから…。

 ほかにも…四季様などはお話ししていて疲れないですね」

「あぁ、なるほど」

 先ほどあったばかりの地獄の閻魔の名前に、霊夢は妙に納得した。

 映姫や勇儀、萃香といった嘘が嫌いなタイプや、チルノ、お空のような何も考えていない連中には心を読まれても、困ることがないから、案外さとりと仲良くできるのではないか。

 逆に、紫や永琳なんかは本心を隠したがるから、恐ろしい存在になるかもしれない。

「あなたも正直者ですからね、私を嫌がったりしないのでしょうね」

「まぁ…うちは萃香がいるから、嘘は言わなくなったわね…って心を読んで返答するんじゃないわよ」

「はいはい、善処しますね」

 絶対善処しない奴だ。

 

 御多分に漏れず、さとりの家でちょっと高級なお茶をいただいた霊夢は、地霊殿を後にする。

 地底から地上に戻り、そろそろ家に帰ろうか…と思ったのだが。

「…行くか、あそこ」

 いろいろな場所に散歩に行ったが、そういえば一つまだ行っていない場所がある。

 商売敵だけど…まぁいいか、と思いつつ、そちらへと霊夢は足を向けた。

 

  ~To Be Continuied~

 

この話をアップする前後に、友人から「お前の霊夢は独特だな」と言われました。

考えてみると、こんなに友人たちをからかったり、優しげな表情したりする霊夢は魔改造が過ぎるなぁと思いながら…。

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