5:魔法の森
ここから新章です。
「イーヒッヒッヒッヒヒ。イィーヒッヒッヒッヒッヒヒ」
鍋を前にした白黒の衣装を身にまとった人物が、それをかき混ぜながら不気味に笑う。
霊夢が再びぶらり旅に出発し、一番最初に見たのはそんな姿の友人だった。
「…魔理沙?」
「さて、キノコ鍋が煮えたZE☆ …って、霊夢?」
この一言と、自分を確認したキョトンとした魔理沙の顔に、霊夢は思わずコケそうになる。
そりゃもう、いまどき○GKのお笑いライブでも見られないような見事なこけっぷりを披露するところを寸前でこらえた。
「お前、何してるZE?」
「いや…ちょっと散歩がてら友人の家に寄ったら、外から呼びかけても返事がないし、中で何してるのかと思ったら鍋の前で奇声を上げてる魔女を見つけてね…」
「そりゃ災難だったな」
こともなげに魔理沙はカラカラと笑う。
「ちょうどいい、これからアリスとお昼の約束してるんだ。
一緒にどうだ?」
「え? いいの?」
魔理沙がしまったと思ったときに霊夢は、そりゃもう満面の笑顔に包まれていた。
「…まぁ、仕方ないZE。
よし、アリスんとこいくぞ。
鍋持つの手伝ってくれ」
「よっしゃ」
そういって、魔理沙が用意した台車に二人でキノコ鍋を下ろす。
ドンだけ大きな鍋で作ってるんだ。
「アリスー来たZE~」
「こんにちはー」
「いらっしゃい魔理沙…あら、霊夢も?」
魔女の昼食会が開かれるアリスの家は、魔理沙の家からそう離れていない。
「ああ、さっき急のご訪問だZE」
「そう…お昼一緒に食べてく?」
「そのつもりよ。
魔理沙が誘ってくれたし」
そっか…とアリスが魔理沙を見る。
魔理沙はカラカラと笑いながら、そんなわけだ、とアリスに答えた。
「よし、じゃぁ魔理沙、テーブル出しといて。
霊夢も手伝ってあげてね」
「おうよ」
「分かったわ…ってどこにテーブルを出すの?」
返事はしたものの、アリスの指示の内容に若干の疑問が残る。
「テラスだ。
今日は天気がいいからな」
キッチンに向かったアリスの変わりにその疑問に答えたのは魔理沙であった。
「なるほど…今日あたり気持ち良さそうね」
二人は、アリス邸からテーブルをテラスに出して、椅子を並べる。
アリス専用の肘掛の付いた椅子と、その隣に魔理沙お気に入りの椅子、そして霊夢用にもう一脚。
魔理沙の持ってきたキノコ鍋をテーブルの真中に置くとアリスがバスケットにパンを持ってやってきた。
鍋にパン…。
いかにも、和食好きの魔理沙と、洋食好きのアリスのミスマッチ…のように感じたが、魔理沙のキノコ鍋は、シチュー風味に味付けされていた。
「いただきます」
「いただくZE☆」
「いただきます」
3人仲良く手を合わせ、アリスはナイフとフォーク、魔理沙と霊夢は割り箸でキノコシチューに手を伸ばす。
(アリスはさすがね…なんで魔理沙といいコンビなのか…)
フォークで上品にパンを口に運ぶアリスと、パンをシチューに浸して食べる魔理沙。
上品なアリスとガサツな魔理沙。
まぁ友人とはこんなものと見られなくもないし、霊夢に馴染み深い言葉で言えば、陽の魔理沙と陰のアリス。
そう考えれば、「相性がいい」という言葉で片付けられそうであるが…。
「それにしても…いいコンビよね、あなたたち」
そんな考えがふと霊夢から口をついて出る。
「どういう意味よ?」
アリスが怪訝そうに霊夢を見る。
「いや、なんていうのかしら。
いうなれば、おてんばな妹とそれに手を焼く出来る姉、って感じの関係よね?」
ぶっ。
それを聞いて噴出したのは、魔理沙。
アリスも何とか口の中のものを飲み込もうとしたが、のどに詰まらせたらしい。
「ちょっと、汚いわね、魔理沙…アリス大丈夫?」
「…げほげほ…もう、何を言い出すのかと思えば…」
アリスは呆れ顔になっているが、それほどいやそうでもなかった。
対して魔理沙は、おてんば娘扱いされたことに多少不満のようである。
「なんでアタシがアリスの妹なんだ…まぁアリスが出来る女ってのは分かるけど」
魔理沙も口では不満そうだが、アリスをほめられまんざらでもなさそうである。
「でしょ? こないだ結婚式挙げた後、前より仲良くなったみたいだし。
って、そういえばアンタたち、姉妹じゃなくて夫婦だったわね。
やっぱり私の目に狂いはなかったわ」
そういって先日博麗神社で執り行った、魔理沙とアリス、慧音と妹紅の結婚式に話題が移る。
「不意打ちのあーゆーのはもうなしにしてくれ…」
「いいじゃない。でも、アレが最後ね」
楽しそうに思い出す霊夢に対し、二人は若干頬を赤らめながら反論する。
「あはは、はいはい、あんたたちが離婚しなければ最後になるわよ」
冗談めかしているが、これは霊夢の本音。
そんな事を思いながら、霊夢は少し昔の事を思い出す。
考えてみればアリスと最初に顔を合わせた覚えがあるのは、春雪異変だった。
最も、そのとき既に、アリスとは面識があったらしいしけど、最初思い出せなくて。
後々思い出したけど、それは別の話。
それ以降、アリスと魔理沙はご近所づきあい…というか、アリスが魔理沙に惹かれて行ってるのが目に見えてた。
でも、元来のアリスの性格が素直じゃないのか、魔理沙とはいがみ合ってるようにも見えた。
人間の里を飛び出し、ひとりで生活している魔理沙にとっては、私と並んで頼れる友人となったはずなのに。
でも、アリスが素直になっていくに従って、それも自然解消。
ついに結婚式をあげるほどの仲になりました。
めでたしめでたし…。
と、霊夢はまるで二人の姉にでもなったような気持ちで、二人の事を回想する。
「結婚式といえば」
そんな回想を中断させたのは魔理沙だった。
「あの結婚式の司会、指名したのは誰だ?」
「司会? 妖夢と藍だったわね」
「ああ。その二人にしたのは…」
「紫と幽々子」
「…だよな。あいつら、妖夢にやらせたら噛みまくることくらい想像できなかったのかね」
どうやら、結婚式の最中、司会の一人、魂魄妖夢が噛みまくることを魔理沙は苦々しく思っていたようである。
「まぁ、紫や幽々子にとっては結婚式は余興みたいなもんだからね。
アンタたちにとっては一世一代のものでしょうけど?」
いたずらっぽい顔で霊夢が答える。
「…アリス」
「何?」
妖夢の話で盛り上がっている最中、微笑みながらも我関せずとキノコシチューを口に運んでいたアリスは、突然魔理沙に呼ばれてキョトンとする。
「絶対、離婚するとか言うのやめような。
また私達を肴に、酒飲む気だぞ、アイツら」
今度は盛大にアリスが吹いた。
「さて、ご馳走様」
「おー、お粗末様だぜ」
アリス邸のキッチンで三人分の食器を洗った後、霊夢は次の目的地に向かうことにした。
「霊夢、これから神社に戻るのか?」
「いえ、ちょっと…幻想郷を見て回ることにするわ。
あぁ、そうそう、最初にここに来たのはアンタにそれを伝えるためだったのよ」
「…見て回る?」
魔理沙が怪訝そうな顔をする。
「ええ。
異変パトロールとでも言っとこうかしら」
「ふうん…パトロールね…まぁいい。
異変があったら私にも教えろよな?」
「いやよ、アンタ、また私の手柄を横取りしようとするつもりでしょ?」
「ばれたZE」
「バカ…あ、アリスもまたね。
また神社ででも合いましょう」
「ええ、またね」
そういって、アリス邸を後にした霊夢は、次の目的地に向かって空を飛びはじめた。
to be continued....
ここから最初に書いていた分では「2」です。
前回迷惑?をかけたので、魔理沙に声をかけてから行く霊夢のやさしさ。