3:守矢神社
迷いの竹林を後にした霊夢は妖怪の山へと向かっていた。
昨日はゆっくり休んだし、気合十分とばかりに飛んでいると、その途中…。
「あやややややや?」
聞きなれた、天狗の声が聞こえた。
「…なによ」
振り返ると予想通り、自称「清く正しい幻想郷の伝統ブン屋」・射命丸文であった。
「おやおや、つれないですね。
久々に会った愛人とも言うべき存在じゃないですか」
「な、なによそれ、霊夢、この泥棒猫!!」
「…えっ…あら、誰かと思えば…レミリアの妹じゃない。
文、あんたこんな幼女をさらって…何をしようというの?」
「わかりました、とりあえずさらった前提で話すのはやめませんか?」
珍しく困ったように返答する文と、霊夢をにらんで文と腕を組むフランドールとそんな話をしながら、霊夢は目的地に向かう。
「ところで、博霊の巫女殿、どちらへ向かっておいでですか?」
「別に、アンタには関係ないでしょ? まぁもっとも…」
つん、と向かっている方向に視線を移しながらも、いたずらっぽく笑う霊夢。
「もっとも?」
フランドールがつまらなそうに聞いた。
「来るな、そう言ってもアンタらのことだもん。
ついてくるんでしょ?」
「あやややややや。読まれてますね。
もちろん、ついていきますよ?
博霊の巫女殿が妖怪の山に向かうなんて、事件に違いありません!」
「さっすが、お姉ちゃん!」
こうして、霊夢はオマケ二人を引き連れ、一路山の中腹にある湖のほとりの神社へと向かいました。
「っと…あ、霊夢さん! …と、新聞屋さん?」
「よっす、早苗。神さんたちははいるかい?」
「ええ、中にいますよ。でも、なぜ新聞屋さん?」
二人のオマケをしたがえて、守矢神社に到着した霊夢の目に入ったのは、参道の掃除をしていた東風谷早苗だった。
「ええどうも、毎度おなじみ、清く正しい幻想郷の伝ちょ…」
「「「(噛んだ)」」」
何ということでしょう。
伝統ブン屋が、セリフを噛んでしまう失態。
「…伝統ブン屋、射命丸文、と」
「その助手のフランドール・スカーレット!」
「私たちに書けぬ記事など…」
「あぁ、やめてあげて、二人とも」
人のネタをやろうとした二人を、あわてて霊夢が遮る。
「なんで、霊夢が止めるの?」
不思議そうな顔をするフランドール。
「…後で作者が困るからよ。やめたげて」
「あやややややや、メタ発言で決め台詞を止められてしまいましたよ?
まぁいいでしょう、神様たちにごあいさつしましょうか」
「こんにちはー」
「ん? あぁ、霊夢? …オマケ付きでどうかしたの?」
中には洩矢諏訪子、八坂神奈子の二柱がおり、霊夢の姿を認めると少し顔が引き締まった。
「はぁ…どこ行っても私の顔見ると異変でも起きたみたいに言われるのね」
「えっ、違うんですか!?」
意外なことにその言葉に反応したのは、霊夢の後ろにいた文だった。
「ブン屋、うるさい。
異変がないなら、どうかしたの?」
話を進めたのは、諏訪子だった。
「神さんまで、異変がないと私が来ちゃいけないみたいに…。
別に遊びに来ただけよ?」
「へぇ…珍しいじゃない。
それじゃぁ…早苗ー早苗ー」
「はい、神奈子様」
神奈子が呼ぶと、すぐに早苗が参上する。
「霊夢たちにお茶を。
あ、私と諏訪子、それからアンタのも忘れずにね」
「あ、はいただいま…」
早苗が下がると、神奈子、諏訪子と霊夢が雑談をし始め、文とフランは手持無沙汰になる。
「お茶が入りましたよ」
そう言って早苗が戻ったのはそれからほどなくしてである。
早苗がお茶を入れに行っている間、文は相変わらず手持無沙汰だが、フランは諏訪子と境内に遊びに行っている。
「あーあれって臭いよねー」
「そうなの、臭いの…あ、早苗、御苦労さん。
さぁ、霊夢、どうぞ」
そう言って神奈子は霊夢+αに茶をすすめる。
「ありがとう」
ずずっ。
「はぁ…やっぱりお茶ね…落ち着くわ」
「ですよね?」
独り言のつもりでつぶやいた霊夢だったが、意外にも返事が返ってきた。
声の主は、早苗。
「人間の里の特産品らしいですよ?」
「そう…」
ずずっ。
実はこの博麗霊夢。
お茶には結構うるさい。
しかしこのお茶は確かにおいしい。
「ふぅ…」
「ところで、霊夢」
お茶を飲んで一息つくと、神奈子が声をかけた。
「例の話、腹は決まった?」
霊夢が振り向く間もなく、神奈子が本題を話し始める。
「…何度聞かれても無駄。
博麗神社は私が巫女…守矢神社の分社にするとか、絶対ないわ」
「そう? ウチの分社になれば、信仰は私と諏訪子、それから早苗が総力をあげて盛り上げるわよ?
そしたら、今の生活ともおさらばよ?」
相変わらずの商魂たくましい神様ぶりをみせる神奈子に、霊夢は答える。
普段賽銭のこととなると目の色が変わる霊夢も、この話だけは頑なに断り続けている。
「別の神様入れるなんてそんな簡単にはできないの。
本当の神様であるアンタには簡単なことかもしれないけどね」
「…残念ね」
これが実は二人のお約束だったりもする。
実際には、博麗神社に参拝者が来なくなった背景には、守矢神社の存在もあったりするので、分社になれば、参拝客は見込める。
しかし、霊夢が最後のプライドでそれを拒否するのは、先代巫女との約束が関係あるようだ。
神奈子も先代巫女のことは全く知らない。
「…それと、そこのねつ造ブン屋さん」
「…はい?」
一心不乱にメモをとり続けていた文に霊夢が水を向けた。
「このことは記事に書かないようにね。
まぁ、書いてもそのこと、さらに書いた人物をなかったことにするくらい、何とかできるけど」
その時、霊夢の頭の中には一人の友人の姿が浮かんでいた。
「あややややや…お見通し、ですか。
まぁいいでしょう…」
こんなやり取りが、しばらくの間続くことになる。
「あ、もうこんな時間ね。
そろそろ失礼するわ」
それから1時間ほどで、霊夢は守矢神社を後にする。
文とフランドールは、霊夢が完全に異変解決に歩いているわけではないことを確認し、先に帰って行った。
「また来てくださいね。
これからどちらに?」
鳥居まで見送りにきた早苗に霊夢は答えた。
「そうね…さっき見かけた子の姉のところにでも行ってみようかしら」
「あぁ…いいですね、よろしくお伝えください」
「そうするわ…じゃぁ、またね」
そう言って霊夢は飛び立った。
湖のほとりにある、夜の女王の基に向かって。
to be continued....
このシリーズ、書いていた当時によく見ていたニコニコ動画の二次創作動画をリスペクトしながら書いていました。
最初の八雲一家は「ちぇんちぇんミニ東方」(よんのき様)、2話の永遠亭は永遠亭訪問委員会様の動画、そして今回3話は「それいけ!文々。新聞」(コゲ味様)をリスペクトして書いていました。
ニコニコ動画華やかなりしころの郷愁に浸りながら、再編集した作者でした。
次回、最終話です。