8:命蓮寺
今回、ここに来ようと思ったのは、最初に魔法の森に行ったときに、前回の旅から総合していっていない魔法使いに会ってみようと思ったからであった。
前回、パチュリーとフランドール、今回魔理沙とアリスに会っており、もう一つ魔法使いがいた。
今回、地底に行って終わらせようかと思った散歩だったが、最後に魔法(物理)で攻撃する魔法僧侶がいるお寺に向かっておこうと考えたのである。
「おはようございまーす!!
ぎゃーてーぎゃーてー!!」
「うわぁっ…あぁ、ヤマビコか…」
「あ、霊夢!
おはようございまーす!」
「はい、おはよう…といってももう夕方だけどね」
ほぼ夕方といっていい時間に霊夢が命蓮寺にたどり着くと、出迎えたのは寺の前で掃除をしていたヤマビコの幽谷響子であった。
「んあ? 霊夢?」
「えっ? …あれ、ミスティア?」
よく見れば響子の横には、夜雀のミスティア・ローレライもいた。
「なんで命蓮寺に霊夢が? って、私また退治される!?」
「あぁ、ンな無粋なことしないわよ。
異変が起きてるわけでもないし」
最初にあったときは一緒に人里で人を食うみたいなことを言ったから退治したけど。
「以前異変を起こした連中をパトロールしてんのよ。
そういうあんたは何やってんのよ」
「鳥獣伎楽のライブ計画たててるー!!」
ミスティアがなぜ命蓮寺にいるのか不思議に思い、聞いてみると、響子がから答えが返ってきた。
「うわぁっ…こんな近くにいるんだから大声出さないでよ…。
そう…そういえばあんたたち、バンド組んでたわね」
この二人は、鳥獣伎楽、というバンドを組んだという話を最近聞いた。
「今回は単独ライブじゃないけどね」
「へぇ。
誰かと一緒にやるの?」
「今回は幻想郷の音楽祭りよ!
プリズムリバー三姉妹、九十九姉妹feat.堀川雷鼓、そして私たち鳥獣伎楽!」
「なるほどね…それを人里で?」
「そうよ!
そのトップバッターを我々が務めるのよ!
霊夢も来てよね!
無 料 だからね!」
「あぁ、それなら行こうかな…」
そう言ってミスティアは嬉しそうにチラシを霊夢に渡す。
確かにこのラインナップなら盛り上がる舞台になるだろう。
「…まぁ、ミスティアがいる意味も分かったし…。
尼僧に挨拶していこうかしらね…響子、白蓮はいる?」
「いるよー!」
「さわがしいわね…いったい誰が…ん、霊夢?」
外で騒いでいる(というか主に響子が大声を上げている)と、中から声がした。
「ん? あぁ、キャプテンか。
白蓮はいる?」
出てきたのは、命蓮寺に住んでいる船幽霊、キャプテンムラサこと村紗水密であった。
「ああ、姐さんに用事かい?
中行くか?」
「ええ…じゃぁね、響子、ミスティア」
「ええ、いってらっしゃーい!」
「ライブ、宜しくね、霊夢!」
「はいはい、行くわね」
そう言って響子とミスティアに別れを言って、霊夢はキャプテンとともに命蓮寺の本堂に向かった。
「珍しいね霊夢、ここに来るなんて。
商売敵だろう?」
本堂に入るとキャプテンが笑いながら聞いてきた。
「いいのよ、今回は散歩のついでに寄っただけで、以前の異変の首謀者がおとなしくしてるか見に来ただけだし」
「異変の首謀者って言い方が引っかかるけど…要はアレだろ遊びに来たんだろ?」
「ふふ、そういう言い方してくれると嬉しいわ。
今までは、私が動くと異変が起きてるみたいに言われてたし」
「ははは、ここはすべてを受け入れる寺だ。
敵対意識さえ持っていなければいつでも来るがいいさ」
そう言ってキャプテンは笑った。
「聖、霊夢が来ました」
白蓮の部屋の前で、キャプテンがそう告げると、中から「おはいりなさい」という声が聞こえた。
「珍しいですね、博麗の巫女…今日はどうしました?」
部屋に入ると、柔和な微笑みを蓄えた聖白蓮が一人座っていた。
「いや、散歩のついででね。
いろんな連中の顔見てきたから…ここにも顔出さないと失礼かなと思って」
「それはそれは…よく来ましたね。
キャプテン、お茶をお願いできますか」
「ええ、わかってます。
じゃぁな博麗の巫女、ゆっくりしていきな」
「ありがとう」
そういうと村紗水密は部屋を後にした。
「ふぅ…ここは落ち着くわね。
神社の本殿のようで」
「そうかもしれないわね。
ここが本殿のようなものだし」
確かに非常に広い部屋の一部に白蓮は座っている。
「本来の本殿は、星がいる場所なんでしょうけれども…。
毘沙門天の代理ですからね」
「そうか…そういえばあいつがご本尊だったわね」
「ええ、そうなのよ」
「そういえばその星は?」
「…宝塔を」
「あぁ…」
白蓮がばつが悪そうに答えると、一言で霊夢は察して「もういい」という手をした。
「ということは賢将殿もいないわけだ」
「そうですね。
キャプテンがあなたを応接したのも、一輪やナズちゃんが出かけているせいもありますよ」
「なるほどね…そういえば一輪も見かけないわね」
「一輪も星とナズちゃんを手伝ってますよ」
そういえば、魔理沙の話から、いつもなら一輪やナズーリンが出てくるらしい。
「ただいまー」
「あら、どうやら帰ってきたようですね」
その声とともに、数人の話し声が聞こえ、この部屋に近づいてくる。
「聖、ただいま戻りました」
その声とともに、星、一輪、ナズーリンの3人が白蓮のいる部屋に入ってきた。
「あら、珍しいわね霊夢。
命蓮寺になにかあったの?」
不思議そうな一輪とナズーリンをしり目に、代表して星が声をかける。
「お邪魔しているわ。
散歩のついでに白蓮に挨拶してただけ…すぐお暇するわよ」
「あら、ゆっくりしていきなさいな。
今日のお夕飯は、キャプテンお得意のカレーよ?」
「…よろしければご相伴に」
「正直でよろしい」
何だろうか、異変扱いされなくなったら今度はご飯たかり扱いばかりのようだ。
「霊夢が散歩といいつつご飯を食べたがってるって魔理沙が言ってたのは本当だったんだね」
あきれたようにナズーリンがつぶやいた。
「!」
なるほど。
今回は確かに、魔法の森でキノコ鍋、白玉楼でわらび餅、地霊殿でお茶をごちそうになったが、それは魔理沙がそんなことを触れて回っていたせいだったか…。
最も前回も、八雲家で夕飯、永遠亭で朝食、守矢神社はお茶だけだったけど、紅魔館で夕飯を食べていた。
そういわれてみれば、ごはんたかりに行っているみたいにも感じる。
「いいじゃないの。
それだけいろいろご馳走になるってことは、霊夢はいろんな人から好かれているってことでしょう。
それに幻想郷じゃ、おもてなしなんて食べ物を出すくらいしかないからね」
複雑な心境を白蓮に話すと笑いながらそんな話をしてくれた。
「さて、すっかり遅くなってしまったわね。
カレーおいしかったわ」
きっちりと夕飯のキャプテン特製シーフドカレーをいただき、帰りは一輪とともに命蓮寺の参道を歩く。
「…霊夢も丸くなったわね」
一輪がつぶやくように答える。
「なにさ」
「最初にあったときはトレジャーハンターみたいなこと言ってて、ギラギラした目をしていたわ」
「…あぁ」
最初に霊夢が宝船の噂を聞きつけたときのことを一輪はいっているようだ。
「妖怪ったって、悪いやつばかりじゃないからね。
いくら妖怪退治の専門家を自称してたって、人里と共存しようって連中を退治する気はないわ」
妖怪退治の専門家を自称していることで、妖怪である連中の脅威になっていることは否めない。
魔理沙のようにあくまで報酬目当てで、邪魔立てしなければ手を出さないという妖怪退治の方法ではなく、妖怪退治を得意にする巫女という霊夢は妖怪たちにとってとっつきにくいかもしれない。
「そうかもしれないわね。
一度霊夢と戦うと…みんな霊夢は相手の懐に入ってしまうってことかしらね。
なぜかしらね?」
「答えは一つ、異変解決後の宴会よ」
「…ああ」
霊夢としては半分冗談だったが、異変解決後の宴会で、一部を除いて首謀者たちと酒を酌み交わすことで、不戦協定のようなものを結んでいるのは確かにある。
そんな話をしながら、命蓮寺入口まで来た。
「じゃ、ここで。
またね、一輪」
「ええ、失礼するわ」
そう言って霊夢が帰ろうとした瞬間だった。
「お ど ろ け ー !!」
「…(ビクッ)」
墓場の方から何か声が聞こえ、思わずその方向を向いてお祓い棒を振り下ろす。
「アダッ!!!」
「…急に出てくるのが悪いでしょうが。
墓場にあんたがいるの忘れてたわ」
「いたたた…誰かと思えば、博麗の巫女? …霊夢、なんでこんなところに?
ま、まさか、またわちき退治される!?」
出てきたのは化け傘の多々良小傘だった。
「ったく。
カレーいただいて機嫌がいいのに、んなことするわけないでしょうが。
最も…」
そう言って霊夢はお祓い棒を顔の前に持っていきニヤリと笑う。
「アンタが退治されるのを望んでいるなら別だけど?」
「ひえぇぇぇ! 望んでない! 望んでないから! さっきちょっとだけ驚いてくれてわちきおなか満たされたから!!」
「…ならよかったじゃない…」
そう言って小傘の頭をなでる。
「…!」
一瞬ビクッとして目を閉じた小傘だったが、なでられていることに気づき、少し微笑んだ。
「…ふふ、そんな表情できるのね、アンタ」
「霊夢だって…こんなこと、できるんだね」
少し照れくさいのをごまかしながら霊夢が微笑むと、小傘も微笑んだ。
そして霊夢は立ち上がり小傘に背を向ける。
「…さて、帰るわ。
あんまり人驚かさないのよ、さもないと」
そう言って小傘を振り返る。
「退治してあげるから!」
そして空を飛び始めた。
後ろから小傘の「ばいばい」という声が聞こえた気がした。
~To Be Continued~
というわけでラストは命蓮寺です。
次話が一応エピローグ…なのですが