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無限の雨

作者: 岸亜里沙
掲載日:2021/08/01

西暦12025年の地球。

そこはまるで別の惑星かと見間違う程に変貌を遂げました。

地球上を覆う分厚い雲。

異常気象が頻発し、雨が止むことのない惑星(ほし)へとなっていたのです。

一日中、降り続く雨。

一年中、降り続く雨。

もう既に3000年近くこの雨は降り続いています。

雨の影響で山や大地は浸食され、我々が暮らしていた地表は半分以下にまで減少。

植物は大量の雨水と、太陽を奪われた事により90%以上の種が死滅しました。

動物や昆虫たちも同じでした。

地球上で生息していた70%以上の種が絶滅したのです。

生態系は大きく崩れました。

我々人類も太陽を求めて地球を離れ、惑星改造(テラフォーミング)した火星へと移り住むしかありませんでした。


しかし地球の状況を監視し、調査する為の研究員と科学者、作業員たち等、数百名程度が地球に派遣され、動植物の種の保存に奔走していました。

いつかまたこの雨が止み、地球で暮らせる日が来るかもしれない。

その時にまた自然豊かな楽園へと甦らせる為に。


ここはスピッツベルゲン島にあるスヴァールバル世界種子貯蔵庫。

ここには世界中に生息していた農作物の種子が貯蔵されているという記録を信じ、研究員のフレデリックとピーターソンが調査にやって来ました。

「なあ、お前はこの中に種子が残ってると思うか?」

フレデリックがピーターソンに話しかける。

「正直、眉唾物だな。ここが放棄されてもう何千年だ?仮に種子が残っていたとしても、この湿度だぜ。保存状態は悪いだろう」

ピーターソンは答えた。

降り続く雨のせいで、地球上のほとんどが湿度90%を越えていた。

「まあ、とりあえず中を見てみよう」

フレデリックは持ってきた小型重機で貯蔵庫の壁を切断し始めた。


そして数分後、入り口が開き、貯蔵庫の中が確認出来た。

中に足を踏み入れた二人。

照明は全て消え真っ暗だったが、驚く事に貯蔵庫の中はひんやりとした空気に包まれ、快適な温度と湿度に保たれていた。

「マジかよ!地球上でこんな施設が残っていたなんてな。空調も起動していないのに、全く不思議だ」

ピーターソンは防水スーツの袖を捲り、貯蔵庫の空気を肌で感じていた。

しかしフレデリックは、ライトで奥の方を照らしながら頻りに耳を澄ませていた。

「なあ、何か聞こえないか?」

フレデリックはピーターソンに尋ねた。

「この憂鬱な雨音以外にか?そんなもの・・・・・・ぐあっ!!」

ピーターソンが急に呻き声を上げた。

見ると防水スーツから露出させた皮膚の部分が鋭く抉られ血が流れていた。

「おい、あれを見ろ!」

フレデリックは叫んだ。

フレデリックがライトで照らした先には、夥しい数の蠢く昆虫がいた。

イナゴに似た昆虫だ。

ざっと数万匹はいるだろうか。

不気味な羽音を轟かせ、それらがフレデリックとピーターソンの二人をめがけて大群で襲ってきた。

「くそっ!こいつら人間を襲うっていうのか!」

二人は急いで来た道を引き返した。

そして貯蔵庫近くに停めておいた小型飛行艇に乗り込むと、急発進させた。


管理本部へ戻る飛行艇の中で二人は恐怖に震えていた。

「まさか今のこの地球上で、あれほどまでに繁殖した昆虫がいるなんてな」

ピーターソンが抉られた傷口をタオルで押さえながら言った。

「ああ。しかもあれほど狂暴な昆虫へと変化していた。人間をも捕食するとなると、早急に対処が必要だ。俺達は貯蔵庫の入り口を開けたまま逃げてきてしまった。奴らをこの世界へ解き放たってしまったんだ」

フレデリックは震える手で操縦桿を握りながら呟いた。

「畜生。俺たちの住んでいた地球は一体どうなっちまったんだよ」

ピーターソンは肩を落とした。

「疑問なんだが、火星を惑星改造(テラフォーミング)出来た先祖達なら、自分達の地球(ほし)がこんな風になる前に何かしらの手を打てたんじゃないか?何故地球から逃げ出したんだろう?」

フレデリックは言った。

「さあな。俺には分からん」

ピーターソンは俯きながらそっけなく答えたきり、管理本部までの道中、口を開こうとはしなかった。


──困難の中に、機会がある──


と、古代の物理学者は言っていたが、はたして今の我々にそのような機会はあるのだろうか。

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