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戦う遺伝子 ――すり鉢の底の淑女――  作者: 弐逸 玖
クレストリーグイースター ピリオド22 ゲーム11
9/43

狂犬、もしくはアリエルP

 そのドレスコード条項を逆手にとって相手を潰そう。

 と言うのが強制装甲脱衣アーマーパージと言う戦術。


 アリエル(わたし)がポイントを削った、と解説に言われた前々シーズンのディビジョン1。

 リーグ戦95試合中、実に23試合で相手のアーマーを剥ぎ取って勝った。

 徒手の狂犬、なんて実に愛らしい、ほのぼのしたあだ名が付いたのはこのせい。



 全体で見ればそれだけで230ポイントを削ったことになる。

 その上、次の試合から。選手によってはしばらく消極的になる傾向もある。

 ネクスタはかえって調子を上げるんだけれど、コイツはアホだから除外。

 解説が言った通り。そのシーズンはまさに私の存在が勝ち点を削り、平均を下げていたのである。


 しかも相手はネクスタ含め、ほぼ昇格候補。

 試合の流れを重視する解説やファンには嫌われる道理だ。

 但し、勝負である以上は勝たなくてはいけない。


 私を拾ってくれたオーナーに報いる、最高にして唯一の恩返しは勝つこと。

 ボブもそう言って速攻に加え、アーマーパージと言う戦術を磨くように言った。

 ……だから。



「くっ、……来るなっ!」

 こちらの意図に気がついたネクスタが、全力で距離をとろうとするがそうはいかない。

 ここで離されては勝ちの目が無くなる。……もっとも。

 後ろ向きに下がるのと正面に突っ込むの。どっちが早いかなんて考えるまでも無い。


「遠慮すんなっ! クレストでもプロデュースしてやる!」

 さらにナイフを振るってラッシュは継続、狙いは全て顔と首。


 後退と防御に気を取られて、ネクスタのボディのガードがほんの少し。意識から離れる。

 そのわずかな隙を突いて、胸に下からナイフをねじ込みつつ、パンツのロックは外せないので、左手でそのまま引きちぎることにする。

 

 ――メキ!

 ――パキン!


 片方は保険のつもりだったけど、両方いけた!


 二つの金属質の音がすると同時に、ネクスタとの距離が一気に開く。

 ……左手、痛い。ロックごとねじ切った時に切れたかな。

 さすがほぼ皮膚と同じ強度とは言え、鉄のパンツだ。


「アリエルっ! あなたねぇ!」

 左手に掴んだ金属の塊を投げ捨てる。


「……往生際の悪い。人気、出ないぞ?」

 内股でわきを締めて不自然に立つ彼女に対して、

 ――シュっ!

 額めがけてナイフを投擲する。


 過たず刃先を前に額へと向かったナイフは、ごく簡単にカタナに叩き落とされるが、その瞬間。

 金属質の音を立ててブラとパンツが、文字通りに弾け飛び。

「イヤぁあああ!」

 ネクスタはカタナを放りだし、胸を押さえてその場にしゃがみ込む。


 おっぱい、ドンだけおっきいのよ!

 後ろにメーター単位で飛んだぞ! ……鋼鉄のブラが。

 ワンシーズンでそんなに成長するもんなのか?

 アイツとは同い年なんだけど。何処でそんなに差が付いた……。



「計時停止、試合中断! ……ネクスタのドレスコード条項違反を確認、失格!」

 レフェリーが、いったん横に上げた右手を高く上げ、場外で待機していた副審がタオルを用意、場内に入る準備を始める。

「第十一試合は中断のまま終了。――対戦者失格により勝者、アリエルっ!」


 レフェリーの右手が私に振り下ろされた次の瞬間。

 試合終了のブザーが鳴り、会場から沸き上がる歓声。


 ……そしてブーイング。

 うん、平気。……慣れてるから。




『Bコートでの第十二試合、ファンファーレ時間は3分遅れ、との発表です。……えー。先程の十一試合の結果を受けて、未だ場内騒然。4分58秒、十一節ぶりにドレスコード違反での決着。事故以外での意図したアーマーパージは今期二度目。アリエルが仕掛けたのは、実は意外にも今期は初。でした』


『もうね。男のお客さん大喜びで、まぁ。たまには良いのかも知れませんが。ははは……。でもね、アレを狙ってできるのが、アリエルの怖いところだよ。馬鹿にされがちではありけど、観察眼、柔軟な対応力と、ここ一発のスピード。そしてなによりテクニック。全部がそろわないとできない。逆に言うとそのテクニックが他に使えないのか、と。もうそこが毎回残念で……』




 ――とりあえず控え室に戻って、シャワーを浴びて、着替えた。

 引きちぎったロックの破片で左手を怪我したので今、ボブが簡単に消毒した上で包帯を巻いている。


「他に出来れば苦労しないっての……。弱いヤツは大変なのよ!」

「勝ったんだから良いじゃねぇか、言わせとけ。――それよりあと5分で勝利者インタビューだぞ」


「ボブだけ喋れば良いじゃ無いですか。今回は久しぶりに滅茶苦茶言われそうだし」

 ディビジョン1では、勝利者インタビューでブチ切れて二試合出場停止になった。

 そのせいで昇格が危うくなったからね。


「……良いだろう。挨拶だけして拗ねた顔しとけ、あとは俺がやる。――但し、出ねぇ、ってのは無しだぞ?」

「……わかってます」


 だからといってそれを拒否すると、こんどは懲罰としてファームポイントを削られる可能性がある。

 少なくてもオーナーは、それは望んでない。

 インタビュー。私に出ない選択肢は、無い。




『そしてまだ確定してないんですが、アリエル5分以内の投票だけが非常に低くて、その上オプションボックス、反則勝ちが付くと……、このまま確定なら、なんと。一〇〇倍を超えそうです!』

『クレストリーグで一〇〇倍越えが二節連続。すごいね……。我々、仕事無くなっちゃうよ』


『アリエル勝ちの人気順に並べると、3分以内が一番多くて、次になんと1分以内、5分以上、と来て一番低い5分以内。となるわけですが。……だいぶ他の選手とは傾向が違います』


『アリエルの場合、前半に一気に勝負を決める以外には、長期戦で相手の自滅、と言うのがパターンでしょうけど。しかし極端だね。――ファンファーレ前後に、ここだけ率が落ち込んでると言うことは、締め切り直前に爆発的に投票が増えたようだけど……』


『まもなく第十二試合一〇分前です。試合前解説と予想、Bコートへお渡しします。我々は十三試合で再びお会いします……』


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