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戦う遺伝子 ――すり鉢の底の淑女――  作者: 弐逸 玖
クレストリーグイースター ピリオド22 ゲーム11
8/43

ドレスコード条項

 目の前のネクスタ。私と被るスピード以外、あまり特徴はないが弱みも無い。

 逆に言うと全方位で隙がない、雑誌や専門家の紹介もバランス型。

 このタイプは小手先の誤魔化しで戦う私にとって、非常にやりづらい。


 しかも数値化すればほぼ全ての特性が、私の上を行く。

 唯一勝ってると言えば一発の速さだけれど。

 それさえ状況によっては懐に入り込めるか、微妙なところ。


 腹を決めて、ナイフを構えると腰を下ろす。

 ココが正念場だ!



「あら、珍しいことですね。ポイント狙いなのですか?」


 ――スチャ。カタナを構え直して正面のネクスタ。

 首へのクリーンヒットが認められれば、それだけで4ポイントもらえる。

 そのうえ、上手く入ればKOさえ狙える。結構おいしい。


 そしてネクスタは、当然そこを警戒する。

 コイツとは、下のリーグのデビュー前から昇格までずっと一緒。

 練習場の都合で、バーンシュタインとキリュウインは合同練習も多い。

 その時も試合形式で立ち合う事は当然ある。


 ディビジョン2登録以前から、何回もやり合ってる相手。

 こちらが知っている以上に向こうだって、こっちの手の内は読んでくる。


 カタナの連撃をかいくぐってのダッシュ、そして懐に潜り込んでのラッシュ。

 もともと二回いけるかどうかの体力しか無い。

 ネクスタ相手なら、三回目はできたところで攻撃力なんか残ってない。


 残念なことに、ネクスタのラッシュを避ける。それだけでここまで130秒も使ってしまった。

 始めから五分過ぎたら電池切れ確定。もう足は残ってない。


 ここからネクスタ相手に二回ラッシュをかけるとなると、体力的には不可能。

 一回のラッシュで一気に二回分。失敗したらそこで、負け。



 ……戦術的にはこの時点で既に負けたに等しい。

 でも、実際のところは自分の戦績にそこまでは拘っていないし。


 けれど。珍しく、

 ――勝ち点が欲しい。

 と言ってきたオーナーの意思には応えたい。


 ならば、……どうするか。

 ナイフを順手から逆手に握り直して、再度。重心を前に出した足に乗せ、構え直す。



「ただ勝ってもポイントが儲からないし、潰す前に荒稼ぎさせてもらうわ、でもアンタ、無駄にかわいいからさ。クビと顔を狙うと、私はさらに人気が落ちちゃうね。困ったもんだよ」


 武器に私と同じくナイフを選択する戦女は、通常打撃か投げ技を得意にする場合が多い。武器を持つことが規定で決まってるけど邪魔だから一番小さいヤツ、と言うことだ。


 そうで無い場合は、私も含めて戦術的に一発逆転狙い。

 ナイフでスピード重視の戦術は珍しく、普通はテクニカルファイターが多い。


 でも。常人とは違う速度で得物を振り回す以上、慣性も気にしなくちゃいけない。

 小回りがきく。と言うのは想像以上に大きいのだ。


「わたくしが先に決めてしまいますので、ご自身の人気は気にせずとも結構っ!」

 一気に距離をつめてくるネクスタ。


「同じ手を二回くらうか!」

 カタナの迫る真っ正面、あえて突っ込む。


 ――ガキン!

 大振りで頭を狙ってきたカタナを籠手で受ける、いや“捕まえ”る。

 ライフル弾を弾く身体につける防具である、当然皮膚より硬くて強い。



「しま……! う、くっ、この……!」

「よーしっ!」

 だからアホだっつーのよ!


 ……っ! 役にたったじゃん、ソードストッパー!

 引っ掛けた刀身をはずそうと、ネクスタがもがいたのはホンの一瞬。

 カタナを折るまでは行かなかったが、隙を作ればそれで十分。


 そのままナイフの間合いに入り込むと、首と額を狙って連続でナイフを振るい、左手もカタナの持ち手を掴みに行き、地味に持ち手側の肩の関節も狙う。

 カタナと左腕に括りつけた小さな楯で、ガードをしつつ後退するネクスタを、一気に押し込む。


 これでこっちの視線は見えない、隙は作れた。

 ナイフを振るう手は止めずに、彼女の身体を確認する。

 本命は、こっち!



 ブラは三分割。ロックは背中でその上、サイドの可動部には、前に当たった時にはついていなかったカバーがついてる。

 だけれどフロントに、これもカバーはついているけど、アジャスト用の可動部分がある。

 アレが無いとフィットしないんだろう。おっぱいが無駄に大きいのも考えモンだね。


 パンツは一番多い形式、三分割で可動部が股間部に来ないタイプ。

 色々挟まるの、イヤなんだろうね。ネクスタも。

 こちらはロックをフロントに集中してつけて、各可動部にはカバーがついている。

 アレは専用のカギが無いと開かないタイプだな。

 でもロックが外れなくても、ロック部分は薄い三枚の板が集まってるだけ。


 無駄におっぱいとお尻がでかい分、金具を壊すだけで済む。

 剥がす必要は無さそうだ。


 カバーをつけるだけとか、集中ロックとか。なんと進歩の無い。

 私と当たる、と言う時点でこの辺は警戒しなきゃいけないのだ。

 つまり。……この試合、とった!



「私はあんたの一番のファンなんだよ、ネクスタ人気の低迷は見過ごせない」

「まさか……! やめなさい、変態っ!!」

「クレストでも写真集が売れるよ! おめでとう!!」


 ネクスタは。ディヴィジョン2で始めて私と戦った直後・・から大人気に成り。

 最下位リーグの新人としては、異例なことに写真集が出て、結構な数が売れた。


 昇格したディビジョン1でもネクスタは、ファングッズ売上が不動のナンバー1だった。

 それは何故かと言えば……。

 負けた最終戦以外、私と当たるごとに“プロデュース”してあげたから。


 さらに昇格したクレストリーグ、去年は人気、ぱっとしなかったけど。

 去年はしてないんだな、プロデュース。

 ここから人気になると良いね!


 ……コイツのマネージャーみたいだな、私。

 



 私が解説や、一部のファンから嫌われる理由。

 それは、ミレディバトルのルールブックに載っている、唯一減点になる反則。それを戦術としてつかうから。




 ――試合に参加する者は公許良俗に基づき、最低限の衣服を着用しなければならない。また着用する衣服の強度は、本人の皮膚の強度を120%以上超えてはならない。


 ――なお防具の強度については制限は無いものとする。防具面積については別途定める規定に従うこと。


 ――※上記について、着衣、防具については半年毎に形式認定試験を受けた物、及びその同型のもののみ着用を許可する。


 ――※※衣服と一体化する形式の防具については、事前に衣服と共に協会技術部の審査、承認を受けたもののみ使用可、それ以外の組合せでの使用は不可とする。


 ――試合時に着用する衣服は、身体総表面積の40%を超えてはいけない。また、不要なたるみ、緩みなどが無い、できる限り身体に密着する様式のものとする。 


 ――衣服が損傷、あるいは脱落し、乳輪、乳首、陰毛、性器、肛門、その他これに類する部位が露出、もしくは見える状態になったと主任審判たるレフェリーが判断した場合、その時点で試合を一時停止できる。


 ――衣服を着用し直しても露出をする、と主任審判たるレフェリーが認めた時点で引き分け有りルールの場合、当該の試合はその時点で終了とし、当該選手は失格、反則負けとする。


 ――上記の反則が主任審判によって確定した選手については、その試合で得たポイントのうち10について、これを剥奪する。


 ――※引き訳なしルールの場合もこれに準じるが、詳細は各大会基準による。



 いわゆるドレスコード条項は、不測の事故でアーマーが壊れた場合、即座に負けになる。と言うリーグ戦のルール。

 トーナメント戦なら一時中断で、予備の服を持っているなら着替えても良い。


 いわゆる、一般社会のはしたない。の延長線上にある規則だ。


 実際にクレストでも、年間で何件か実際の事故も起こるので、みんな脱げたり壊れたりしない様に、色々工夫をしてるわけだ。

 私のブラとか、ネクスタのカバーとかね。


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