ネクスタ
「殺った!」
ブザーが鳴ると同時、いきなりカタナを振りかぶって目の前にネクスタが、居た。
わかっちゃ居るけど、……相変わらず、なんてスピード!
いきなり頬の右横、――ぴゅん! 数センチをカタナが通過する。
「させるか、アホ! 読み通りよっ!」
……もっとも、ここまでは想定の範囲内。ごく簡単に初撃をかわし、続く攻撃もステップだけでかわしていく。
やはりソードストッパーは不発だった。
見た目でわかる以上、左には打ち込んでこないよなぁ。
ボブの読みではネクスタ側の作戦は三段階。
開幕でいきなり勝負を決めに来る。
それはなんとか回避できそうだけれど。
でも、それに失敗しても今度は。こちらに隙を見せずに体力を削りつつミスを狙い、それでもダメなら持久戦に持ち込む。
持久力の差がある以上、引き分けは狙わない。
――勝率から見ても。アイツは今回、勝ちに来るぜ。
何が何でも刀をブンブン振り回してあてに来る。
完全KOじゃなくても、ある程度もらったら。
主審がこれ以上は反撃不可。として右手を上げたらおしまい。
五分を超えたら、勝ち目はほぼ無くなる。
さすがにネクスタ相手では体力が持たない。
ネクスタは私と同じ、スピードで戦うイメージだが、体重を乗せた一撃の重さはリーグ内でもトップクラス。実はパワーファイターでもある。
その上、そんな矛盾した戦術に対応出来る様な、イノシシみたいな体力がある。
今だって、何連続になるのか、未だスピードも精度も変わらない打ち込み。
それを延々と続けてドンドン踏み込んできてる。
そんなものを正面から何回も受けたら、一気に体力が削られる。
「逃げ回らず正面から受けなさい、卑怯者!」
ただ、避けて下がるしか無い。と言うのも、元から足りない体力を地味に持って行かれる。
いずれ、このままで良いことはなにも無い。
「馬鹿力の打ち込みなんか、誰が受けるか!」
とは言え。私に持久力がないのは自分で知ってる。
しかもこの女、今日は特に動きが切れてる。
これが長く続いたら、不味い。
――キィイン!
「ぐっ、こんのぉ! ……イノシシ女ぁ!」
今のはヤバかった!
無意識で抜刀したナイフで、頭の上に落ちてきたカタナを弾きつつ、そのままその力も利用しつつ横へ。
並みの戦女なら、この横ステップからの移動にはついてこれないが、このイノシシ女は距離を保ってついてくる。
「誰がイノシシですってぇ!?」
「東クレストで、イノシシつったら、……わ! っと! あんた以外に、誰がいるのよっ!?」
その間にもカタナの斬撃は降り注ぎ、一瞬足りとも気が抜けない。
「東で一番の変態に言われたくないですわ!」
変態呼ばわりとは非道い話だが、悔しいことに、まぁまぁ言われる下地はある。
肯定はしたくないが、あながち否定出来るモノでも無い。
……ただ、この女。今日は無駄に集中してる。
やたらに気合いの入った状況を乱すのには、使えるか。
「あんた、最近評判、良くないみたいよ? ……クレストに、上がったら、サービスが悪いって。グッズ売上に、響くんじゃ無いの? ――手伝ってあげようか?」
「……! 覚悟ありですか。良いでしょう、今ここで。あなたの息の根、止めて差し上げますわっ!」
これまで、いかにも体力を削ろう。と言う感じで細かく狙ってきていたカタナ。
その剣筋が、一撃必殺の重く鋭い軌道に変わる
……ホントに乗ってきやがった。
だからあんたはアホだ、っつーのよ。
ここまで、まるで余裕が無かったので一切見ていなかったコーチングエリア。
いつのまにか視界の正面に来ている。
ボブのゼスチャーは、
――構わないからいつでも決めろ。
である。
……言うほど簡単じゃ無いんですけど!
ネクスタがアホだったお陰でラッシュからは一端逃げられた
私は距離をとって、一端仕切り直し。
よし。こっからだ!