試合開始!
ファンファーレが鳴り響き、城内がどよめく中。
メインレフェリーと副審全員がフィールドの真ん中に立つ。
「フィールド内の安全確認、終了を承認。副審は全員配置について下さい。――参加両名は前へ!」
長い黒髪をサイドポニーにした同年代の子。彼女もスピードファイター、アーマーの面積は最小限。
私よりかなり大きめの胸を、私と同じく最小限の面積だけの真っ赤なアーマーに押し込め、深紅のブラが光を跳ね返す。
パンツとブラ双方に黒のライン。
左の胸のキリュウインの略称には、エースであることを示すエメラルドグリーンの縁取り。
「両名、一歩前へ」
他のレフェリーは男もいるが、メインになる審判はほぼ女。
「得物を離して、両手を上に」
体中をチェックされて、魔力計を向けられる。
「規定外の持ち込み無し、魔力反応無し。――両名ともなおって結構です」
試合前のボディチェック。
妙齢の女性の体をまさぐるなんて、……いやん、はしたない。なんつって。
ま、かなりギッチリチェックが入るからね。
男性だった場合。いくら仕事だとは言え問題があるくらいに、全身見られて触られる。
私でさえ、それが男だったらかなりの抵抗がある。
「キリュウイン・ファーム、ネクスタ。ステイブル・オブ・バーンシュタイン、アリエル。――双方、本人で間違いはないですね?」
「ネクスタで相違ありません」
「はい。アリエルです」
審判の彼女等はほぼ全員。元、戦女である。
戦闘機械として生を受けた事実は曲がらないのだけれど。
だからこそ、その場で簡単に“暴走”を鎮圧するなら可能になる。
男の審判も数人居るが、これは選手の鎮圧用の副審。
要は女の魔道師の数が確保出来ないから。
没収試合となれば参加両名は、有無を言わさず魔導で撃たれて拘束される。
物理ならいくらでもやりようがあるが、これはかわしようが無い。
もっとも、逆に言うと、その程度しかできない人しか居ないわけで。
だから前の試合のように、本物の魔道師の乱入なんかあったらヤバいわけだ。
「よろしい。双方、本人と認めます。――爆発物、毒物、薬物、銃器の所持はありませんね?」
「持っていません」
「ありません」
事実上パンツとブラしか付けて無い。何処に隠すって言うんだ?
でも過去には、爆発物を胸におし込んで起爆した。と言う事例がある。
おっぱいがネクスタくらいあったら、ダメージも軽減できそうだけど……。
私がそれをくらったら、即死だな……。
直近だと中央のクレストリーグで三年前。口に毒物のカプセルをねじ込まれた、と言う事例があるそうで……。
これは一命を取り留めたそうだけれど。
そのカプセルをパンツの中、と言うか“身体の中”に隠し持ってた。と聞いた。
“出し入れ”の容易さを考えれば、ブラで無い。とすればそれが何処か? なんて明白なわけで。
カプセルが“しまってあった場所”を考えると、まぁ、後ろ。じゃないにしろ。
口に入れられる。と言うのもちょっとアレだし。
試合中に取り出してるけど、どうやって出したの? なんて疑問もあるけどそれよりも。
取り出す前にカプセル、割れたらどうする気なのよ……!
口から飲むより、よほどダイレクトに死にそうだと思う。
前だろうと後ろだろうと、自由には吐き出せないもの……。
うん、公営ギャンブルだからね。
ミレディバトルは、見た目はアレだけどスポーツだから、一応。
ルール、大事です。
「両名、武器の封印解封を許可します。刀身をだして」
腰のナイフをさやにつないでいた紙テープを切って、ナイフを審判の前にかざす。ネクスタもカタナを引き抜いて目の前に。
「ネクスタ、アリエル。双方の武器に刃がついていないと認めます。戻して良し」
いくら弾丸さえ弾くからだとは言え。
戦女同士で刃物を振り回せば当然、切れる。
ネクスタの馬鹿力で切られたら、多分腕とか綺麗にスッパリ行く。
だから得物には刃はついて無いどころか、やや厚めで、先端と通常の刃の部分には丸みもつけられて居る。
多少特殊だけど、一応スポーツだから。
でも、切れなくたってあたったら痛いものは痛い。
もらわないで済むならその方が良い。
クソ重たいバトルアックスとかメイス、モーニングスターなんかも有りなんだけど、そこはそう言うルールだから仕方が無い。
鎖鎌もあるけど、あまりに使い辛いのでここ10年、公式戦では使った記録が無い。下手すると自分が絡まるなんて、冗談じゃ無い。
ちなみにバトルハンマーも禁止では無いけれど、これもほぼ使う人は少ない。
取り回しが悪すぎるから。
当たり前だよね。
好んで使うバーンシュタインのネイパーがオカシイだけ。
トゲを付けるのは禁止だし、一撃で潰れて死ぬわけが無いから良いだろう。と言う前提でルール作ってるからね。
でも、ディヴィジョン2辺りだと年に三人くらい、一撃で潰れて大怪我をしてる。
本当に死んでないだけ。
ああいうのも、一応受け身の取り方ってあるからね。未熟だと致命傷にもなる。
だからジュニアではモーニングスターは禁止、なんだけど。
……メイスやアックスも禁止しろよ。
もっとも私だって、もろにあたったら滅茶苦茶痛い。
死なないまでも、一撃KOされる可能性も否定出来ない。
いずれにしろ相手の得物の直撃なんて、絶対もらわない方が良い
「東クレストリーグ第十六節、その第十一試合。格式フォーミュラB2。制限7分、時間内に決着がつかない場合、引き分けとなります。……特に反則行為は認められないので、同試合の準備完了を承認します。――では両名、開始位置に!」
審判がゴーグルを降ろして大きく下がり、ネクスタと私もそのまま後ろに数歩下がる。
ネクスタはカタナを抜刀すると、そのままさやを後ろに捨てる。
私はあえてナイフには手を伸ばさず、重心をさげていつでも動けるように。
「――開始っ!」
レフェリーの右腕が上がると同時。
ビィイイー!
多少気の抜けるようなブザーの音が響きわたった。