反撃ののろし
「さて……、しょせんは飛び道具しか使えない卑劣漢。卑怯者風情がこのネクスタに、勝てる道理がありませんでしてよっ! 異論があるならかかっていらっしゃいっ!!」
バーサーカーは、カタナを正面に構え啖呵を切ったネクスタに、ダッシュで突っ込んでいく。
ただ、どうやらアタマが壊れてるから回避も後退もしない。
何が何でも攻撃だけで何とかしようとする。
あのスピードがあって仕切り直しなんかされたらたまったもんじゃないけれど。
だからそこに勝機がある!
……と、良いなぁ。
バーサーカーの止まる場所を先読み、思い切ってジャンプする。
計算通り、目の前に真っ赤に発光するバイザー。ナイフを持つ右手を振りかぶる。
「殺った!」
バイザーの中に手を突っ込めれば、特殊鋼板の一枚や二枚はモノの数じゃ無い!
透明素材は強度が落ちる! 光らせてるのが仇になったねっ!!
――ぞわ。
身体の底から沸き上がった気持ちの悪さに従って、両足を最大現縮めるとそれまで足のあった場所には、いつのまにか右腕のカバーから生えた剣。
格納式ブレード! ってこれか!!
――早い! また物理法則を無視してる!!
その剣を蹴って、バーサーカーの後ろに抜ける。
超至近距離。目の前2mでフタが開き、ミサイルが発射される。
「うっそぉ!」
――ごいんっ!
宙返りしつつ思い切り蹴り飛ばして、もう一回転しながら地面に着地。
ミサイルはメインスタンドの屋根にめり込んで爆発、屋根の1/3が崩れてスローモーションのように落ちてくる。
「アリエルっ!」
マシンガンに追い回されながらネクスタが叫ぶ。
「ごめん、ネクスタ! しくじっちゃった! 今のもう一回、お願い!」
「本当に大丈夫ですのっ?」
「駄目なら死ぬだけでしょ!? それは私もイヤだ!!」
もう一回。多分そこで私の足は使い切る。
――完全バランス型。しかも若干、か弱い系のファイターなんだもの。
イノシシ型じゃ無いから、そこは仕方が無い。
「やりますわよ? 良いのですね!?」
でもイノシシが味方に居ると、こんなにも頼もしい。
「タイミング、任せた!!」
「任されましたわ!」
思い切って後ろに下がる。ネクスタは左から合流してくる。
もう一度二人で並んで走り出す。
「今日は帰ったら、エリィの練習をみてあげるって約束した! 絶対帰る!」
「今度、登録戦に出るはずの、斑目の子。でしたわね?」
また二人で並んで走り出す。
「……? 良く、知ってるね!」
「あなたのように捻くれていたら大変ですからね。あなたが最近面倒をみている、となればなおのこと、調べますわ」
目の前で爆発が起こって、急ブレーキ、方向転換。
「あの子は私とは真逆だから心配してんの!」
「ならば安心です!」
全力疾走しながら、籠手のロックを解除して外す。
「なにをする気ですの?」
「小手先の誤魔化しだけでここまで来たって言ったでしょ?」
ネクスタと二人、クレーターを飛び越えて走り出す。今まで居た場所はマシンガンで掘り起こされて吹き飛ばされる。
籠手を外して右手に持つ。
「今回は籠手で誤魔化しますっ!」
「意味がさっぱりわかりませんわっ!」
そう言いながら。――すっ、とネクスタが再度離れる。
「とにかくやりますわよ! 色々エラそうに言ってはおりますが、わたくしもあと一回で限度、以降はかわしきれる自信がありません! 頼みましたわっ!」
マシンガンの雨をかいくぐり、ネクスタが三度刀を正面に構える。
「もしもあなたが死んでしまったら、カタナの柄でぶん殴りますっ! 忘れることは許しません、良いですわね!!」
――ずざー! ネクスタはあえてバーサーカーの前で、人工芝をまき散らし土煙を上げつつブレーキをかけて止まると。
姿勢良く立って右手を突き出し、カタナでバーサーカーを指す。
「そこの無駄にほうぼう光って、そのうえ黒光りしてる方! 今度こそは決着を付けましょう。そっくび、落として差し上げましてよ! 来なさい、下郎っ!!」
ネクスタは、バーサーカーに啖呵を切って、剣を正面に構える。
落とそうにもクビ、無いでしょっ!
……怖いもの。ないのか、アイツは!!
造形の全てが恐怖を感じるように設計されてるんだっつーのに!
そうか。……アホだから、心理効果が効いてないんだな。
難しそうだ、心理学。
但し、ネクスタの啖呵を受ける形で、バーサーカーの姿がかき消える。
私としても、死んだあとまでぶん殴られちゃかなわない。
ネクスタだから、ホントにぶん殴りかねないし、それはイヤだ。
せめて死体は可愛らしく、ネクスタに殴られたあとなんか増えない方が良い。
ミサイルで爆散して欠片も残らない、って言う可能性もあるけど。
私もまた、バーサーカーの到着点を先読みして目の前に飛んだ。