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戦う遺伝子 ――すり鉢の底の淑女――  作者: 弐逸 玖
クレストリーグイースター ピリオド22 ゲーム11
4/43

アップエリアオープン

『昇格したシーズンのディビジョン1は、上位のポイントがアリエルに軒並み削られた。と言う話もあります』

『そうですね、これ、以前僕が計算したんですが。昇格条件を満たした戦女の一試合平均は、例年だと79~82なんですね。このシーズンだけ75、優勝したネクスタの平均が80ですから、全体で数字が落ちてる』




「……私のアイディアでは無くて、やれって言った人が居るんだけどね」

「実際に昇格したんだから文句は無いだろ?」


 ポイントは基本、全部足せば100になる。考えるまでも無い。

 そして戦うのは戦女同士、ほぼ何をしても良いし、反則になっても基本的には注意されるだけ。

 最悪。試合後、相手にポイントが行くだけ。


 但し、リーグ戦では即座に負けが確定して、その上ポイントがマイナスになる反則行為が一つだけある。

 さっきボブの言っていたディヴィジョン1を最速で抜けて、昨シーズン散々文句を言われた戦術。

 相手に強制的にその反則をなすりつける、と言う戦い方。


 今だって、勝ち目が無いと思えば躊躇無く使うつもりはあるけれど。

 相手だけが強制的に減点されるのだ、文句も言われるだろう。

 ちなみにエキシビジョンやスペシャルマッチでは、計時が止まるだけで反則にならない時が多い。




『逆に言うと、全体の結果を左右するほどの戦歴を残した。と言うことですよね』

『そこは否定しませんよ、彼女の実力は本物だと思います。……ただ昨シーズン、昇格直後とは言え、勝率が67%、だったかな。悪くないんだよね。でもポイント平均は65を切ってたのかな? これは頂けない』


『勝率6割越えとしては、今ひとつ物足りない。ということですか?』

『クレストはシーズン80試合。勝利ボーナス50は、勝てば入るわけですからね。勝率が7割に迫るなら、やっぱりポイント平均は80とは言わないまでも、せめて75は超えて欲しいところだよね』

『現状ですが順位はともかく、平均ポイントはやはり66.253。ですね』




「……相変わらず嫌われてるなぁ、私」

 平均で75なんて越えるわけが無い。

 ドンだけ毎回、無理して勝ってるか、なんて。多少考えは及ばないのかなぁ。

 解説出来るくらいに専門家なのに。


「ヒールの方が人気、出るんだぜ?」

「別に、人気は要らないでしょ」

「グッズがでると個人も色々おいしいんだぜ?」

「要りません」


 あまり人気が出ると、負けた時に文句言われるからなぁ。

 そりゃ、お金かけてるわけだし。文句も言いたくなるだろうけど。

 言われる側として気分が良くない。


 ネクスタは好不調の波が激しいタイプなんだけど、毎回良く耐えてるな。

 あぁ、そうか。アホだから気がつかないんだな……。

 



『ファンの心理としては当然、早期決着。アリエルの試合は特にそうでしょうが。そうなるとまたポイントが伸びない』

『アリエルと言えば速攻で早期決着。自分の戦い方はコレだ、と決めて磨いている。これは評価に値しますが一方。ポイントの伸び悩みはステイブル全体の問題でもある、リーグに二人しか居ないバーンシュタインですからね。そう思うと物足りないのと……』


『えー。お話の途中ですが、場内放送が入るようです。……ちょっと聞きましょう』




《The warm-up area is now open. Start warming up.》


 やっとアップエリアが開いた。

 なんか今日は頭がモヤモヤする。こんな時は体動かした方が良い。


「さて、今日はどうする?」

「相手は、ディヴィジョン2参入戦からずっと一緒のネクスタだし、こっちの手の内は全部知ってるわけで。……ボブ。引っ張る必要って、ある?」


「ん? ……ファンサービス?」

 私のファン、ねぇ。居るの? そんな人。


「必要? それ。――今日はアップ、すぐ出ます」

「男は意外とじらされると喜ぶもんだぜ?」

「ネクスタは女でしょ? とにかく動きたいです。なんかウズウズ、モヤモヤする」




『さて、会場の東側が湧きました。……いつも通りにエリアオープンとほぼ同時、ウォームアップエリアにネクスタが出てまいります。今期初の三連勝でステイブルに連勝ボーナス30を加算できるか。負けも含めたここ数試合、好調キープでこの試合に臨みます。まさに波に乗る、天の使わした至上の一振り。黒髪のサイドポニー、ネクスタが、トレードマークのカタナソードを右手に、真っ赤なアーマーで現れました』


『試合開始直後のアリエルのラッシュ、これをしのぎ切れたら勝利も見える。ステイブルとしても三連勝のファームポイント、30。ここは是非欲しい。――今日も体が軽そうで。足元、彼女の場合歩き方やステップなんかも、見ておかなきゃいけないポイントですが。……今日は今シーズンでも良い感じ、ベストじゃ無いですかね』 




 暗い廊下の向こう。

 もちろん廊下にも照明はあるんだけれど、出口が明るく口をあける。

 実況が聞こえなくなったのは素直にありがたい、聞いているとどんどんネガティブになってくる。


 色々と思うところはあるにしろ、ここを歩いていくのは“選ばれた人間”と言う感じがして嫌いじゃ無い。


 何に選ばれてしまったのか、それは考えない。

 オーナーに選ばれた、とでも思えば多少は気が楽かな。

 




『そして西側も拍手が起こりました。アリエルが、今日はいつもよりかなり早めに出て来ました。かつてはなんと一〇才まで、一般の女の子。属に言う斑女まだらめなのではありますが、その愛らしい見かけにそぐわないあだ名、徒手の狂犬。と呼ばれるまでに急成長しました。――瞬発力を生かした速攻、短時間決着のスタイルで、新興ステイブルのバーンシュタイン、いまやそれを代表する戦女として、今期3度目の連勝をかけた青と金のアーマーが、身体の動きを確かめるように、ぴょんぴょん。と跳ねます。西のウォームアップエリアです』


『彼女の場合、武器も防具も最低限なんですが。その左手の籠手ですね。これを気にするような仕草を見せるとあまり結果が良くない。腰のナイフもそうですが。……今日は悪くないですね。特に緊張した様子も無い。――二人共、今日の試合に合わせてかなり仕上げてきてます』



『両ステイブルとも。今日の試合は重要視している、と言うことでしょうか?』

『お互いファームランク6位内は狙っているでしょう。そうなれば完全に勝率なのでこれはアリエル有利ですが。……キリュウインも今季はここまで三連勝が無い。勝率上位二名の合計ですから、そうなるとはネクスタは確定。ここで稼いでおきたいところでしょうね。ここで3連勝の30がのるとこの先、だいぶポイント計算が楽になる』



『締め切り15分前オッズが入って来ました。アリエル三分以内勝利最多、続いて時間切れ引き分け、ネクスタ完全勝利の並びに変わります。アリエル三分以内が若干数字を落として17%となりました。単純勝敗は約43対57、こちらはネクスタ有利のままですが拮抗、となりました。……さて、この数字はどうみます?』


『あえてネクスタ三分以内一点で攻めてみても面白いですね。ファームポイントがどうしても欲しいですから、ここは個人勝ち点を捨てて勝負をかける手も有りです。アリエルのお株を奪って、ブザーからのラッシュをかけるのは、彼女の方かも知れませんよ』



『現在の投票数からすると……、15.8倍になりますね、これも20には届かない。今回のバトル、実に票がばらけました。ここまで分散するのもなかなか珍しい』

『難しいですね。単勝が拮抗してるのがその証拠です。今回は、これは難しい。面白い試合です』


『ネクスタ一分以内のオッズも、実はここ30分でまもなく1%台に乗るかというところ。これも可能性がある、と言うことですか?』

『今週はもう、二試合やってます。ステイブルの台所事情を考えると、あまり疲れて欲しくもないし、それが一番良い。ということだけど……』


『お話中ですが、……はい。――只今12分遅れでファンファーレ、と公式アナウンスがありました。……既にフィールドキーパーの皆さんは場外に出ました。メインスタンドの楽隊も準備を始めます。正面からもレフェリー陣が場内確認に入ろうかというところ。スクリーンにはファンファーレのカウントダウン、場内も歓声が沸き上がります』


『まだ11試合目なんですが、すごい盛り上がりですねぇ。みんな楽しみにしてます』


『確認を終えて、レフェリーが開始位置につきました。さぁ。赤と青、二人の戦女が今、ゆっくりと左右からレフェリーの前に歩いて行きます。まもなく、12分遅れで本日第11試合のファンファーレ。終了直後に投票がクローズ、試合前のレフェリーチェックが終わりますと、試合開始となります』


『お、売上。……凄いな、まじかぁ。これ』

『投票の速報が入って来ていますね。これはかなりの数字が期待でき……、なんとぉ! 現時点ですが最終試合を抜きました! ――本日の売上暫定トップに躍り出た注目の試合。ファンファーレまで更に数字は延びそう、こちらも注目です! ……では、試合実況は放送席からです。お願いします……』


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