アリエルとネクスタ
「打ち込む隙がない! と言うよりは、顔がないのでさっぱり隙がうかがえない! やりにくいどころの話ではありませんわ! ……アリエル、どうしますのっ!?」
速射砲とそしてグレネード。
こちらはこちらで間断なく攻撃は繰り返され、壁もフィールドもボロボロ。
でもネクスタは、今のところ元気に走り回ってる。
東のスピードスター、なんて巫山戯たキャッチも伊達じゃ無いんだな。
「絶対銃口から目を離さない! 止まったら駄目だっ!!」
「何処まで、これをぉお! つ、続けるんですの!?」
「んー。……軍の人来るまで?」
「言っているのは時間ですわよ、時間! ギリギリ七分でタイムアップ、このペースでは延長線は絶対無理、それ以上は持ちませんわっ!」
あれだけ飛ばして、それでも通常の試合分は持たせる気だ。
さすがイノシシ型……。
「私が知るわけ無いでしょ!」
でも、ネクスタのお陰でまだ背後を取れている。
ミサイル、直撃し無きゃ近寄れるかな?
と思った瞬間。――くるん。左手はネクスタを照準したまま、こちらに振り返る。
……うん、ロボットだからね、二の腕が真逆になろうと。関節とか靱帯とか関係無いだろうけれど。
胸の真ん中、カバーが小さく左右に開いて、小さなレンズが見える……。
――レーザーっ!?
私が跳ぶことを諦め、横にステップを踏むのと、バーサーカーの胸と入って来た直後に閉められた鋼鉄の扉が、ごく細い線で繋がるのはほぼ同時。
さすがにレーザーは残像しか見えなかったし、見えたときには繋がってた。
しかもこの色! 私には見えてるけど、不可視光! ……ドコまでも人殺しに特化した機械だ!!
線が繋がったのは時間にしたら多分、1/100秒以下。
その赤い線が扉に吸い込まれると。
突如大きく穴の開いた扉は、爆発音を上げながら、まるでセリーのように解けて崩れる。
戦車でも、ヤバいんじゃないの? 今の。
直撃した鋼鉄の扉が直系2mで瞬時に蒸発して、その上扉全体が爆発的に膨張して崩れ落ちるとか、何度になったの!?
って言うか、効果範囲! 絶対普通のレーザーじゃないよね、アレっ!!
……何か魔法絡みの兵器だ、持ってないはずなのに。
オーナーだって研究者ではあるけれど、歴史家でも軍事専門家でも無い。
専門外、しかも1,000年前。そんなもの、具体的に知ってるわけが無い。
さらにコイツはたった900年前の“最新型”。それくらいのマイナーチェンジはあるかも知れない。
とにかく。当たっちゃいけない、と言うことだけはハッキリわかった……。
「アリエル! 大丈夫ですかっ!!」
ネクスタが隣に来ている。コロシアムの外周、お互い半周しちゃったのか……。
「今のは危なかった。……! 止まっちゃ駄目だってば!!」
「わかっておりますっ!」
二人で顔を見合わせ、お互い頷くと走り出す。
マシンガン、グレネード、レーザー。
二人で並んで逃げ回る。こんなの、どうみたってジリ貧。
ネクスタは七分持つかも知れないけれど、私は始めから五分で限界。
もとからそうだ。まもなく電池切れ。
「アリエル、まだ走れますか!? 止まったら、本当に……」
「ヤダと言っても、走らなきゃ死ぬ!」
「それは……、話はもちろんそうですが!」
普通に会話をしてる感じだけれど、二人で並んでコロシアム中を全力失踪中。
グレネードが目と鼻の先に落ちて、方向を変える。
「ネクスタにアイツの目を引っぱって欲しい! ――お願いして、良い?」
……まぁ、目がドコか。なんてわかりゃしないのだが。
鼻先にマシンガンの雨がふり、それをかいくぐっても今度はレーザー。
壁が爆発して、真っ赤な液体になった補強材の鋼鉄が飛び散る。
「……アリエル。一応伺います、どうする気ですの?」
「アイツは射撃系で押してくる、だったら。こっちから近接戦を仕掛けてやる! ――ネクスタ、……悪いけど、頼んだっ!」
なんとなくバーサーカーの行動原理がわかってきたこともある。
基本は私を狙いに来るんだけれど。……最初ネクスタが狙われた理由。
自分に対する脅威を優先するんだ。
その後、センサーが私を捕らえても、人間型だから手足は二本。
全ての脅威には対応出来ない。
だから、背後が取れるし、さっきもミサイルしか来なかった。
「何か策があるのですね? もちろん、……付き合いますわよ!」
隣を走るネクスタが、スッと離れる。