天敵との邂逅
見た目は黒いアーマードスーツを全身に着込んだ、資料で見た重装歩兵。
但し、身長二m越え、かなり人として太ったシルエットでアタマはなんか小さい。
背中には大荷物を背負って、両腕に籠手と言うよりは完全に追加装甲、と言う感じの何かを付けている。
なんか出来の悪い人形みたいだな。
駆動する音は普通のモーターだけれど、その中に明らかに違う音が混じっている。
魔導機関の音ってこんな感じなのか。
そのアーマーのスキマから青白い光を零し、人間で言うと眼の部分に当たるバイザーは、真っ赤に発光している。
一応、諸元表では照準用メインカメラ収納部、と書いてあったけど。
カメラ光らせてどうすんの? 見えにくくなるじゃん。
心理的な威圧効果を狙ってあえてそうしている、と資料には書いてあった。
アーマーの形状も多少、無駄があるように見える。
目立つだけで意味無いでしょ。とお屋敷で資料見た時は思ってたが。
あ。……これは普通に怖いっ!!
見るからにヤバいヤツだ。と心の奥底が最大現の警報を鳴らす。
グロスブラックで無駄に光ってるのも、一歩ごとにわざと見せつけるように、白い煙を排気するのも。目立つことが重要なんだ。
アタマでわかってても気持ちが怖じ気づく。
心理学って意外と大事だ。オーナーに言って、ちゃんと勉強させてもらおう。
ここから生きて帰れたら、の話だけど。
そのバーサーカーは、突如ダッシュすると。私達の前に、居た。
な、あのデカさで、なんつうスピード……!
さすがは魔法機関、物理法則はある程度無視できるのか……。
「下がって!」
二人で全力で後ろに下がりつつ、目はバーサーカーから離さない。
「さっきも言ったけど、武器全部、絶対当たっちゃダメだからね!? 詳しい説明しないけど、パワーが桁違い。受け流そうとしたらカタナごと、腕がもげるから!!」
「受けるのも駄目ですのね、了解ですわ」
――ホントにわかってんのか? このアホは。
もらったら、死んじゃうんだよ!?
「とにかく走る! アイツの左手、飛び道具があるから意識して右に回ってっ!」
黒い人形の左腕が無造作に上がるといきなり何かが発射される。
わかっちゃ居たけど、ロボットだから気配とか皆無。
――怖い上にやりづらいっ!!
「逃げて!」
私が叫んだ時には、二人共、もう左右に飛んでいた。
着地する前には爆発が起こって、さらに吹き飛ばされる。
何とか空中でバランスを取り直して無理やり着地、左に飛ばざるを得なかったネクスタを探す。
「ごめんネクスタ! 大丈夫!?」
「大丈夫です! ……ごめんなさい、魔法と軍用、両方言葉で知ってはいても、舐めていました。想像以上でしたわ」
ネクスタはカタナを構え直す。
ジェノサイダー相手の想定なんだから、スタングレネードなんて有るわけ無い。とは思ってたけど。
着弾したフィールドは結構な深さにえぐれ、直径一mを超えるクレーターになってる。
強化フィールドだよ!? 威力、でか過ぎない!!
全く前触れ無しに左腕が持ち上がって、装甲がせり上がり、その下から三本の銃身がむき出しになる。
……ちょっと待った! 何でネクスタを狙ってるの!?
「何かが回転する音がしたら手遅れ! 絶対銃口の前に立たない!……走れっ!!」
スピンアップに0.2秒、そこから時速4,200キロの弾丸が、一分で最大5,800発。
照準されたらもう、避けられるわけが無い。
――キュウ、キュキュキュキュ! ブウゥウウンドドドド……!
音が分かれて聞こえたのは戦女だから。
普通の人には、ブゥン……! としか聞こえなかったはず。
全力で逃げるネクスタのすぐ後ろ。
着弾した壁に次々穴が開き、次の瞬間10mに渡って文字通りに粉々になった。
アレ喰らったら、身体なんか形も残らないよ……。
でも逃げ切ってる、と言うことは。
バーサーカーの想定するジェノミレディよりも早い!?
とんでもないな、アイツも。
でもお陰で後ろに回り込めた。せめて足の関節を。
……と思った瞬間、背中に背負ったバックパックのふたが一個開いた。
あ、忘れてた。――ミサイルランチャー。
直接見える必要、無いよね。ロボットだし……。
考えてみたら、あの赤いバイザーも目、と言うわけじゃじゃないし。
距離が近いから十分な加速時間が取れない、確かに戦女としては遅く感じた。
ただ、目の前にミサイルが迫ってくる。その状況下で冷静で居られたのは自分でも不思議。
直撃コース! 近所で爆発してもアウトだ! でもっ!
逃げる余裕も無かったから。
ナイフを抜き放ってミサイルの胴体を、
――ゴーン!
柄で思い切り殴りつけた。
そのまま方向が曲がったミサイルは、フラフラと弧を描いて客席に飛び込み、爆発。
スタンド一つがまるまる吹き飛び大穴を開け、一度持ち上がった屋根が凹んで、照明や構造材がスタンドだった穴へと落ちていく。
いちいち破壊力デカすぎでしょ!?
――あ!?
「マコティ! あそこ、誰も居なかった!?」
【大丈夫、脱出が楽なようにみんな地上階に誘導してる。スタンドの下には誰も居ない、直前の映像でも人影は無いよ】
フィールド内で爆発したら誰が撃ったかは関係無い、もれなく巻き込まれる。
この距離だと撃った自分も巻き込んでしまうからミサイルは使わない。と考えてたから、あえて忘れてたんだけど。
甘かった。 もしかしてコイツ、壊れてる?
何でそんな面倒な壊れ方してるの!?
……かえってやりづらいよ、これ!!