弱点は、無い
「マコティ、資料もらったんでしょ? 何かこう、弱点的なものは無いの? 軍だってこんな街中で、ただミサイルぶつけておしまい。ってことじゃ無いはずだもの」
【このデータを見る限り、ほぼ人型をしてるのね? で、その頭の一番奥に人間で言う、脳みそ的なものが入ってて。それ壊せば良いらしいんだけど……】
「その脳みそも、魔法で動いてる感じなのですか?」
それだったら直接触ったら、腕ごと持っていかれる可能性もある。
長い得物、最低ネクスタのカタナが必要だけれど、それでもどうなるものか。
魔法の力は破戒の淑女、ジェノミレディ唯一の弱点。静電気クラスの魔法をもらっただけでも動けなくなる。
とは言え。私個人とすれば。どうなるモノかは全く未知数。
直接魔法の力と接触したこと、無いからなぁ。
【そこは機械みたい。魔法がたまってるのはお腹の燃料タンクの部分だね。それで発電して、基本は電気で動いてて、移動とか、ほんの一部だけ魔法使うみたい】
「……腹部への直接攻撃は良くない、と言うことですのね」
魔法の力をまき散らす自爆攻撃。これが一番効果的、とも言ってたけど。
若干弱いジェノミレディ用として作ったヤツなら、その機能はついてない。……と良いなぁ。
1,000年前の、ホンモノのバーサーカーだったら勝ち目、ゼロだ。
「いずれ、アタマも一筋縄ではいかないのでしょうね」
【装甲が三重で全層に緩衝材かましてあるから、ぶん殴ったくらいじゃらちがあかない。人間じゃ無いから脳しんとう起こさないし、クビが無いからもげたりもしないみたい。……メインの索敵カメラ、眼の部分がバイザーみたいになってるんだけど、それも超硬強化ガラスで、やっぱり三層。二層目以降は透明金属、だって】
「飛び道具が多いですわね。マコティ、持久戦に持ち込んで弾切れを狙う、というのはどうでしょう?」
【何でヤル気マンマンなのよ!? ――え? ……あー、そうなんですか。――えーとね、ネクスタ。バーサーカーって動力はもちろん魔法で動いてるんだけど、弾も魔法で無限に作れるんだって】
その仕様は変わってないんだ……。
むしろ、九〇〇年前の最新式だから強化されてるのかも。だけれど。
「アリエルです、マコティ。燃料切れを狙うとしたらどれくらい必要?」
【ちょい待って。――はい。……えぇ! マジですか!! ――いっかい起動してしまったら、勝手に周り中から魔力を集めて動くんだって。24時間戦いつづけて3日持った記録があるって!】
お屋敷で渡されたアサルトライフは、四十二発しかないから三発で指切り。そう教えられた。
でも相手は機械。状況に応じて一発でも二発でも五発でも自在に“指切り”が出来る。
私が使うライフルは、まとめて撃つとバレルが熱でイカれる、あえてわざとやってみたので知ってる。
多銃身砲、と言うことはまとめて100発や200発撃ったくらいじゃ、銃身が焼けたりもしないだろう。
しかも弾は、ほぼ無限。
あのジェノサイダーを殺す機械だというなら、これでも足りない。くらいにも思うけど。
でも私達はジェノサイダーではなく、ジェノミレディ。
しかもバーサーカーからみたら、その劣化版。
……最悪だ。
これで、さらに魔法で攻撃されたらひとたまりもないのだけれど。
オーナーの話を信じれば、それは無い。
魔法の攻撃には必ず魔道師が必要で、それが機械化できなかったから。
とは言え。
これ、本当にどうにかなるんだろうか。
せめてアホのネクスタだけでも、何とか……。
「手足の装甲はどうなっていますの? 腕をたたき切ってしまえば……」
【人間で言う膝と肘、その裏側。そこが弱点らしいけど、――そうですか。……裏にはとても回れないんじゃ無いかって】
「でも動きは鈍いんじゃ無い? 審判控え室からここまで5分だったら、普通の人間より遅いくらいだし」
ネクスタのスピードなら、あるいは裏に回り込めるかも知れないし、そこまで遅いなら私だっていけそうだが。
【通常の移動は時速1.5キロ。――但し、一発の速さは戦女より上。だから一緒に、よういドン! となったら距離が一キロくらいなら負ける。その上、手足の動きは本体とは別物みたいだよ?】
「マコティ、メイン側のスクリーンに諸元って出せる?」
【……わかった、今やってもらうけど。……二人共、どうする気!?】
それがわかったところでどうしようも無い気はするけれど。
「あとはちょっと考える」
【ちょっと待って! どうして逃げないの!? あと三分しか無いんだよ!!】
無線から文句は続くが、スクリーンには似つかわしくない兵器の諸元表が表示される。
製造年は約870年前。超最新式、か。……何とかなるのか? ホントに。
「マコティ。……わたくし達がここに居るから。だから、アレが他に行かないのだと考えています、最低コロシアムからは出さない。そこまでがわたくし達、戦女の使命と言えるでしょう」
ネクスタ、あんたは……。
「たまたまとは言え。この広いフィールドに、スピードファイターが二人だけ。と言うのはむしろ僥倖。たくさん居たなら、かえって被害が増えるでしょう」
「軍の人達が来るまで時間稼ぐだけなら、それなら何とかなると思う。っていうか、何とかします!」
【わかった。腹をくくってるんだったならもう言わない。――こっちも軍の人と通信は繋がってるから。何かあったら呼んで。この通信もずっと繋がってるし、カメラでずっと見てる】
「おっけー、ありがとう」