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冷静な理由

 バーサーカー。

 破戒者ジェノサイダーを狩る。ただそれだけのために作られた機械。

 先日、オーナーの話を聞いて、その後。自分でも資料に当たって確認した。

 今の世の中、起動する目的は無くなったはず。


 それでもバーサーカーは若干仕様を落としながら、その後も製造され続けた。

 理由は簡単。

 いつまでも、世界から居なくならない破戒淑女ジェノミレディが戦場に投入される。

 その可能性がある以上、対抗策が必要だったから。



 そしてみんなが一斉に顔色を無くしたのは何故か。

 公式には逃げ出した破戒淑女ジェノミレディを殺すための機械、となっているから。

 これは幼年教育の時点で、繰り返し教えられる事項らしい。



 各国政府が、新しく生まれたジェノミレディを全て自分の手元に集め、淑女として教育する。そう言う流れが正式にできたのが、約900年前。

 ミレディバトルの原型が出来上がるまで、そこからさらに300年くらいかかるんだけど、それはおいといて。


 900年前から、破戒淑女ジェノミレディは戦争をしなくなった。

 だからバーサーカーも、起動の必要は無くなったはず。




 但し、――軍ってぇのはそんなに緩くねぇ。全ての脅威に備える義務があるんだよ。と、ボブが真顔で言っていた。

 ――破戒淑女ジェノミレヂィが存在してるんだ、当然、今でも稼働可能なのはあたりめぇだろ? と


 そのバーサーカーがここに来る。

 理由は一つしか考えられない。――私だ。




「マコティ、どうしよう!?」

「逃げた方が良いんだろうけれど、何処逃げて良いかわかんない。……そもそも私ら。闘技場の外に、出れないじゃん……」

「それってめっちゃマズいよ!」



 そう言う法律だからしょうがない。

 状況がどうであろうと、戦女が外を歩いていたら。いきなり警察に射殺されても文句が言えない。


 私達には裁判を受ける権利さえ無い、余計な手間をかけて捕縛するより殺してしまった方がはやいのだ。

 オーナーは、その子の死んだあとで、器物損壊なりで裁判を起こせるけれど。

 でも、射殺するほどの罪で無かったとするなら。政府から結構な額の倍賞が払われる。

 それに裁判自体も、手続が通常よりもかなり面倒くさいらしい。


 つまり、私達のために裁判を起こしてくれる人も居ないのだ。




 とにかく法律上、コロシアム内とステイブル、そして一部の限られた施設。

 その他の場所にステイブル関係者の引率無しで居た場合。そもそも、命の保証さえ無い。それが私たちの立場。


 当然、警官隊の追跡は7分では終わらない、

 相手が戦女だとなれば、軍警察だって来るだろうし、軍の本体だって出てくる。

 逃げ延びたところで薬が切れたらおしまい。

 勝ち目どころか、逃げ切れる可能性が始めからない。


《The berserkers are now proceeding from the main concourse to the central exit. Evacuate to the players' waiting area through the east gate.》


 ……建て前はそうだろうけどさぁ。

 逃げ場の無い控え室に籠もるのは悪手。……だよね。

 それに5,6人ならともかく。この数じゃ、全員入るって訳にも行かないし。

 但し。何もせずにただここに居たら全員、死ぬ。



「うん。……マコティ?」


「え、私? ……なに? アリエル」

「この人と警備室に行って状況を確認してくれる? 頭が良くて周りも見えてる。あなたが一番適任。カメラで見ながら、館内放送でみんなを誘導して?」


 どうして良いかオロオロしているのは私達だけでは無く。

 会場の警備スタッフも同様。

 その彼から無線機をどさくさに紛れて取り上げるが、誰も気がつかない。


「これ、貸りますね? ――マコティ。細かいことはこれに連絡ちょうだい? C-26番だって。私、このタイプなら使い方、わかります」

「わ、わかった。後で連絡するね」


「戦女以外はなるべく全員、建物の外に出てもらって」

「わかんないけど、それで良いのね?」

「たぶんマコティしか出来ない。……よろしく」


 他に影響力が大きそうなのは……。


「シャルレは三人くらい連れて、協会の人達のところに! バーサーカーは多分ここに来ると思うけど、最悪の時は、……お願い。あの人達も私達がいる限り、外には逃げられない。私達が守ってあげなきゃいけない。どっか入り口に近い、周りの見渡せる広いところ。マコティに内線で聞いて、誘導してもらって!」


「わかった、――フィールドじゃ無い、武器は使えないからおいてく。……素手でいけると思う子は私に付いてきて!」

 さすがはネイパーのライバル、頼れる姉御肌の部分までライバルだった。


「残りは控え室じゃ無くて、メインホールと貴賓室前のコンコースに分散して逃げて! テレーゼ、ペルミア、みんなをお願い。私達はどうせ、ステイブルの迎えが来るまでここを出られない。戦闘もできないから逃げ回るしか無い。だったら、部屋に籠もるより周りが見える場所の方が良い!」


「でも、逃げるったって場所が……」

「マコティが館内放送でナビする。警備室からカメラで全部見えるはずだから大丈夫!」


「……わかった。――テレーゼ、あなたはあっちね。メインホールの方に!」

「うん、後で会おう! 絶対だよ!?」


 

 冷静な人が居ないから、とりあえず仕切ってみた。

 みんなパニクってるから、仕切られるととりあえず従っちゃうんだね。



 わけのわからない状況で、私だけが一人で落ち着いている理由。それは簡単。

 バーサーカーは怖い。これは幼年教育を受けた破戒淑女ジェノミレディなら全員知ってる。絶対に勝てない凶悪な兵器。

 そんなものがいきなり来たら、それは慌てる。


 普通の子供達が幼稚園に行ってる年代から、もう刷り込まれてるんだ。

 絶対に勝てない怖い機械だ。って。


 私が平気な理由。それは幼年教育を受けていないから。

 兵器として、機械としての知識はあるけれどそこに恐怖は無い。



 それに落ち着いてる理由はもう一つ、アレが何をしに来たかはわかってる。

 パニックの原因は簡単。

 なんでそんな怖い機械がこっちに向かって動いてるのか、わかんないから。


 そしてそれも私は知っている。



 ――私を殺しに来たんだ。


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