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全方位型マルチファイター

「やれやれ、かえって悩みが増えたよ」

「だから最初に役に立たない、って言ったよ」


 ――シュラン。特に意味は無いけれど、ナイフを抜いて太陽にかざしてみる

 これも今回からちょっとだけマイナーチェンジ。刀身に一筋。スカイブルーの差し色が入った。


 バーンシュタイン。オーナーの期待が籠もった、ステイブルのシンボルカラー。

 オーナーからの信頼の証。……なんちゃって。

 ホントは下の子達からその方がカッコイイ、って言われたんだけど。


 ノンスリップ素材のグリップにも、エンブレムが彫り込まれた。

 これはオーナーの趣味だけど。実は後期から全員の武器がそうなる。


 ――全員揃って、ようやくステイブル・オブ・バーンシュタインなのだよ。


 前期日程が終わった次の日。

 オーナーはそう言って、戦女以外の子達にも一人々々、エンブレムの書かれた銀色ののペンダントを手渡した。

 握り込むグリップ、ワイシャツの下。いずれ普段、紋章を見ることは無い。



「ふーん。案外、真面目に優勝。取りに行く気なのかな? ……ネクスタの時のアーマーパージも私には、その後の推移まで込みの計算づくに見えたけど」


「ネクスタは強いし戦術の相性も悪いもの、正攻法じゃ勝てないよ。戦女でやっていくって決めた以上、勝たなきゃ意味無い。――他の人からは、どう見えてるんだろうね? ここ暫くはあんまり気にしたこと、ないな」



 空色の差し色が入ったナイフ

 これをかざして負けるのは。私を昇格候補として、組織をあげて推してくれるオーナーに、恥をかかせることに等しい。


 絶対とは言わないけれど、勝たなくちゃいけない。

 負けたとしても一点でも多く、ポイントをもぎ取らなきゃいけないんだ。


 戦闘行為禁止を条件にフィールドに入っている。

 ナイフをさやに戻す。

 武器を人に向けた、と見えると怒られるからね。



「でも正直な話。――オーナーに、勝ちました! って報告すること。これが戦女としての私の、一番の幸せなんだよ。だから他の人の参考にはならないかも。だよ?」


 巫山戯ているように聞こえるかも知れないけれど

 でも、これが一番の私のモチベーション。だから人の参考にはならない。


「アタマがおかしい。って言われようが勝たないと勝利報告、できないもんね」

「また莫迦のフリをする……」


 フリでは無くて莫迦なんだとは思う。

 でも莫迦でも良いじゃ無い。と最近は思えるんだ。

 プレアもそこまで開き直れたら、強くなると思うよ。……私の次くらいに、ね。

「まぁ、ありがと。……莫迦は莫迦なりに考えてみるよ」




「リーグの最終盤、昇格決定戦はここでやるのですわよね?」

「あんたが昇格候補に残ってればね」

「……どちらの意味で言っているのですかしら?」

「もちろん。あんたが今思った方であたり、だよ」


 十数人の戦女が、フィールドでなんとなく身体を動かしている。

 みんなとりあえず、入ってみたいのはわかる。


 武器の携帯は許可されているものの、模擬戦は不許可。

 結局やることはウォームアップシーケンスか、ストレッチくらいしか無い。


 私の正面、最小限の真っ赤に黒ラインのアーマーを纏い、革紐でカタナを背中に背負ったネクスタがストレッチをしている。

 髪の毛はいつも通りにサイドポニーに戻してる。

 さっきの髪、素敵だったのに。


 あ。……もしかして。帰りにまたアレに戻すのかな? なんて面倒な。


 金具関係を大幅にマイナーチェンジしたはずだけど、カバーは付いていないし、金具の上には無造作にテープが貼ってある。

 とりあえず見せたくない、と言うことかな。

 何か書いてある赤いテープは規定違反の部分かな? ホントに規定のスキマを狙って改修してんだね……。


 そしてよく見ると、少しカタナが細くなった?

 今よりももっとスピードにふる、と言うことだな。

 みんな打ち込みの強度ばかりを気にするけど、ネクスタの場合、スピードが上がった方が脅威なのは間違い無い。


 武器の仕様はあまりトレーナーが口を出す部分じゃ無い。

 クレストリーガーなら尚更そう。

 やっぱりこの子がアホなのは普段の生活だけ。

 ミレディバトルのことはキッチリ考えてる。



「……あなたという人は」

「どうとでも思って良いよ。……いずれ私はここに来る、今日は下見の意味もあるんだから」

「なにかしら態度だ、け、は、大物になりましたわね、あなた。……わたくしがしてやられたときの勝者会見も、涼しい顔をして。たいしたものですわ」


「あれは顔だけ、です。――あんなんで今さら出場停止になったら、さすがに下の子達に示しがつかないからさ。……黙ってハイハイ言うより他、無いでしょ?」


 一応。憧れてくれる子が、最低一人居るってわかった。

 記者とケンカして出場停止なんて、みっともないことこの上ない。


「アレは記者の態度と質問が悪過ぎでしょう。抗議もできないなどと、さすがに理不尽が過ぎますわ」


 被害者側が弁護に回ってくれるとか、端から見ててもそんだけ非道い会見だったんだ……。

 あのオーナーが、全力でなだめにかかったのも、なんかわかる気がする。

 


「夕べさ、なんか眠れなくて。だから計算してみたんだ」

「は? 突然なんの話を。……いえいえ、お待ちなさいアリエル。あなたが勝ち点計算? 雨でもふるのでは無いでしょうね?」

 ネクスタが上を見上げる先は、綺麗な雲一つない青空。


「そこ、うるさいよ。――で、残り全部を勝つなら勝ち点51でも優勝、と言う結果になった」

「当たり前、……でもないですか。勝ち点51? ――他の方々の勝率をどうしたのかが気になるところですわね、その計算」


 当然ネクスタも気にして計算はしてるはず。

 ただ自分を勝率10割、なんてことにはしない。普通は。


「基本的に他の子の勝ち点は、現在の首位から三位の平均値。私だけ勝率10割、二位になるネクスタは88%で漸く逆転」

「……二位は、わたくしのモデルですの?」

「現状の勝ち点から、って言う話。……ネクスタだったら失礼にならない気がしてこれはリアルネクスタで計算した」


「普段から、これ以上はどうやったら失礼になるか、わたくしもわかりかねるくらいに失礼でしてよ。――それで? 計算上は何人脱がすことになっていますの?」

「ゼロ。……だから計算して確かめたかったんだよ」


 単に勝ち点を削った、なんて言われたくないから通常の勝利にしただけ。

 アーマーパージだって必要だったら躊躇無く、やる。


「正統派スピードファイターに生まれ変わると?」

「全方位型マルチファイターとして、さらに磨きをかけるって言う話ですが?」

「あなた、いつの間にそんな強そうなカテゴリになりましたの?」


「ん? うん、こないだ」

「存外、簡単になれるモノなのですね……」

「なんだったら、あんたもなれば?」


 いや、元からそうだったんだよ多分。今まで気がつかなかっただけで。




 突如、コロシアム全体にサイレンが響き渡る。

「……火事ですの!?」


 いきなりみんな浮き足立つ。

 試合中以外の戦女は、みんなごく普通の女の子。

 と言うよりは、ちょっと、いやだいぶヌケてる女の子の集まりだから。


「アリエル、ネクスタ! とりあえず逃げ……」

「わかんないけど、……みんな、動かないで! 放送がかかるはず、その後に決めよう! 私達だったら、普通の消防隊の何倍も役に立つはずですっ!」


《Emergency. Military berserkers activated in the field. Everyone evacuate immediately.》


「バーサーカー、ってアレのこと?」

「もう動くヤツは無いって聞いたよ」

「オーナーに博物館に連れて行ってもらった時見たことある、でかくて怖いヤツだよ!」


 そう。今でも軍で、持っては居るけど。使い道が無いから博物館に飾ってるはず。

 900年前にはもう作るのを全面的にやめた。

 魔導機関は普通の機械より長持ちだとは言え、本当にバーサーカーだというなら。一番新しくても、900年前に作られたもの。

 それが、動いてる!?




 バーサーカー。

 止めるためには戦車隊が二個小隊必要だとされる、最強クラスの対人兵器。

 

 でも、これが何の為に作られたのか、この場で私だけは知っている。

 私達、破戒淑女ジェノミレディの原型、破戒者ジェノサイダーを殺すためだけに作られた兵器。

 

「アリエル、軍のバーサーカーって、なんですの……?」


「人間の。……ううん。戦女わたしたちの、天敵」


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