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グラジオラス

「あれ? 今日はネイパーと一緒じゃ無いの?」


 白いシャツにオレンジのベスト、タイトスカートから出た黒いストッキングはロゥヒールに繋がる。オレンジのツバのない帽子、首のスカーフは青。

 タイヤの付いたカバンを引いた、長めのボブで暗めの金髪。

 左腕に“Horsch & CO East div.”のマークとロゴの付いた腕章。


 たまに遠征で乗る飛行機のCAさんがこんなカッコ、してるよね。

 これは、東地区でも一番のステイブル、ホルシュカンパニー東事業所の制服。


 ただ、身長は私より目線一つ低いし、おっぱいの大きさは完全に勝ってる。

 その彼女から、声をかけられる。


「どうせなら一緒に来たかったんだけど。ウチはクレストリーガー、二人しか居ないからね。試合以外で同時にステイブルを空ける訳に行くか! ってボブ(トレーナー)に怒られた。明後日の回だって」


「なんか最近、調子悪そうだったからさ、直接顔見て話したかったんだけど。なら、しょうがないな。大丈夫なの? 彼女」

「そう言われても、私も自分のことでいっぱいいっぱいで」


 短い上着にネクタイ、チェックのスカート。ローファーに白い靴下。

 襟にはエリィが自分で作ってくれた、グラジオラスの花をかたどったピンバッジ。


 ステイブル・オブ・バーンシュタインの制服を着て、大きなバッグを手に持った私は、半年に一回の装備適合検査。要は試合で使う装備の検査のために。

 ミレディバトル東地区の協会本部がある東地区総合闘技場に来ていた。

 この検査に合格すれば、同じものなら複数作ってもSの都度の検査は要らない。


 そして東地区総合闘技場。

 ここは普段、二週に一回程度プレミアの試合をする闘技場。


 昇格リーグに進めれば、ここで試合をすることになる。

 ……シーズンの最後、ホントにこれるのかなぁ、ここに。

 




 今、話している彼女はホルシュイーストのマコティ。

 東クレストではネクスタと1,2位を争う人気者。

 それはお客さんだけで無く、戦女の中でもそうで。ホルシュイースト以外の友人もやたらに多い。


 年齢は私より上のはずだけれど、年下にさえ見える。

 だけど見た目で舐めてはいけない、現東クレストリーグ優勝の最有力候補である。

 絶好調とは言い難いけれど、彼女の名前は上位候補としてボブも挙げている。

 

 ネイパーとは性格的には真逆に見えるんだけど。

 同期、と言うだけで無く性格的にどうあうものか、仲が良い。



「そうそう。アリエルは後期、アーマー変えないの?」

「私、デビューからサイズ以外変えたことないけれど……」

 気にしたことが無かったけれど、それって頻繁に変えるもの?


「バーンシュタインはカラーリングは青金で決まってるんだっけ? でも、ネイパーのワンピース型とか、カッコ良くない?」


「一応、分類がスピードファイターなので。アレはちょっと動きづらいし」


 お腹の部分は動きを阻害しないような工夫が沢山詰まった、それは技術の固まりのようなアーマーではあるんだけれど。

 多少でも動きの邪魔になって、しかも重量が増加するなら。私にとっては致命的。


「そうか、スピード型ねぇ。……詐欺師なの?」

「……はい?」


「こないだネクスタとやった時、見てたよ。パンツのロック、引きちぎったじゃん。パワー型。と言うか、それはもはや、ネクスタの股間以外目に入らない変態型じゃん?」

「それは非道い……」


 戦女のスピードとパワーで股間を狙うとか、なんて恐ろしいモンスター。

 ……まぁ、私のことだが。


 ――お陰で三日間、グローブを外せなかったんですが。

 オーナーに褒めて貰ったものの、自分としてそこまで優秀だという認識、無いからなぁ。


「マコティは後期はアーマー、変えるの?」

「技術部が、今期は基本的な構造と形は変えちゃダメって言うからさ。だからカラーリングだけ、ちょこっとね」


「でも、ホルシュも、基本はオレンジじゃないの?」

「まーね。イーストは差し色も青限定だし。ただ、事業部長ボスからはカラーリングはある程度好きにして良いっていわれて。だから後期は。――こんなのにしようと思ってさ」


 彼女がカバンを開けて。

 取り出したのは試合用の胸部アーマー、と言うか、見た目は私のと同じく、鋼鉄のブラなんだけど。

 私よりは多少アーマーの面積が大きい。


 肩紐があるのは、この人の場合。実用面よりデザイン重視にも思えるけれど。

 でもさらに右肩にショルダーアーマーが正規の姿、言動に惑わされちゃいけないのだ。


 スピード型は私やネクスタのように、面積は最小限にする傾向が強い。

 攻撃はもらわない前提なので動きやすさ優先、って言うことだね。


 テクニカル型も、同じく動きやすさ優先でセパレートが多いけど、地味なダメージを嫌って装甲面積を多少広めに取る。肩紐もその一環。

 そう思ってみるとマコティなんかもヒモ、幅が少し広めだね。


 ネイパーみたいなパワー型になると、基本ダメージ上等で戦うことになるので、規定いっぱいまで面積を増やすことも多い。



 まぁ、どの辺りが動きやすいか、ってのは個人差もあるしね。

 しかし、見せてくれた新しいアーマーはこれ……。



「……け、蛍光オレンジって。――めっちゃ目立つね」

 それに蛍光レッドでホルシュの略称、Hが青の縁取りでデカデカと書いてある。

「ナイトゲームだと、もっと目立つかなって。これはね、試合開始を遅くする。上位をキープする、って言う決意でもあるのだよ! ……なんつってぇ」


 順位が上がるほど、試合の順番は遅くなる。

 最終試合はだいたいナイトゲーム。

 強い者は強い者なりに大変らしい……。


「ただ目立ちたい、と言うだけじゃ無いんだね……」

「逆々。まずは目立ちたいの。でも、そしたら結果出さないとカッコ悪いじゃん?」

 これは自信の無い人は着れない服だし、言えない台詞だわ。私には絶対無理。



「あら、マコティ。ごきげんよう。キチンと顔を合わせるのは久しぶりですね。――アリエルも今日、来ていたのですね。こんにちわ」

「言われてみるとなんか久しぶりぃ、このところ調子が良いようでなにより、だね」

「よ。こんちわー。ネクスタも今日来たんだ」


 話に入って来たのは、左手に風呂敷包みを下げたネクスタ。


「えぇ、先日。誰かさんがアーマーをぶっ壊して下さったお陰で、若干の仕様変更がありますから最初の日に。ダメでも最終認定日までには直す、とウチの職人さんに請け合ってもらったので、規定一杯で改良して頂いたのです」


 ネクスタも制服を着て包みを持って。腰にはカタナが刺さっている。

 あのアーマー。さらに金具関係を改良したのか。

 こわされにくいように検定落ち覚悟で、規定ギリギリまで改良したらしい、次回はアーマーパージ、やろうと思ったらかなり難しそうだな。


「あら、その襟。……素敵なブローチ。グラジオラス、ですか? どうした心境の変化ですか? ガラでも無い」

「なんか非道いな……。お花好きだって、前に言ったよね? ――ウチの下の子がね、くれたんだ。私に一番似合うって言ってくれて」



 バッジは先週。遠征から帰ってきたら、机の上に置いてあった。

 ――作ってみた・エリィ――

 としか書いてない紙の上に置いてあったので、こっちも付けて見た。と言うところ。

 ……こうして見ると。わりと器用なんだな、あの子。



 まぁ。世界でもここまでグラジオラスの似合う戦女は、私くらいだけれど。



「世渡りが上手なのは大事なことですわ。ランク上位、その上ハンドリングの簡単なアリエルを持ち上げる。戦略としては上々です。わたくしが直接に、褒めてさしあげたいくらいですわね」

「……あのねぇ」



 キモノ、と言う衣装がキリュウインの制服。

 綺麗な白と赤の布地を見せつけるように、袖の部分はとても広い。

 その袖と裾の部分には空を舞う蝶が描かれている。


 ディビジョン1以上の子は、ご褒美として絵を描いてもらえるらしい。

 綺麗な刺繍? まぁ良くわからないけれど、戦女個人が何の絵を描くか決めて良いのだそうだ。

 ネクスタはいつ見てもとても綺麗だな、……蝶の絵が。


 キモノにはボタンとかファスナーは無くて、帯で腰のちょっと上を締める。

 花をモチーフにした柄が描かれた、素敵で綺麗な帯の上。おっぱいが乗っかる。


 実はキモノを着る流儀として、おっぱいの存在は基本主張させないのだそうで。

 アレでもブラで固めて潰してあるのだ。とは、本人から以前聞いた。

 ……なんかムカつく。


 黒い髪を結い上げ、繊細な飾りがその髪に飾ってある。

 確かカンザシ、って言うんだよねあの飾り。

 優勝する度に、オーナー(おおだんな)から飾りをもらえるのだそうだ。

 彼女はディビジョン2と、去年のカップ戦の分で二本。

 足元は白の親指だけ分かれたソックスに、かかとの無いサンダル。ゾウリ。て言うんだっけ。


 なんて言うか、風情があるよね。この制服

 脱ぎ着は結構大変だと聞いたけど。



「短剣、グラディウスをその語源にすると聞いています。それをあえてナイフ使いのあなたに。……なかなか物知りなうえに、風情のある子なのですね」

「多分、今期のディビジョン2の参入戦に出ると思う。可愛い子なんだけど斑女まだらめでさ……。かわいそうに、色々無駄に苦労してるんだよ」


「何処かの人は当時。全く気にして居る様子がありませんでしたが。――普通の神経の子だとするなら、やはり大変なことなのですわね」

「ネクスタ、なんか今日はトゲトゲしてないっ!?」

「あら、全くもって普段通りですわ」


 まぁそう言われりゃ、普段からイヤミクサい女ではあるけれど。

 こないだアーマーパージ、やったばっかりだしなぁ……。

 まだ怒ってるのかなぁ。


「ホルシュカンパニー・イースト、マコティ。ステイブル・オブ・バーンシュタイン、アリエル。……入って準備をしなさい」

「はいはーい」

「はい」


 

「……あ、ネクスタぁ。今日はフィールド、入っても良いって、聞いてる? あとで一緒に行こうよ。アリエルは、言わなくても行くんでしょ?」

「こんな時でもないと総合闘技場なんて縁がないし……」


「あれあれぇ? アリエルなのにご謙遜。ウチのデータ分析担当(スカウト)は、このままならアリエルが三位で来る、つってたよ? まぁ優勝はあたしとして、昇格戦アドバンテージ100ポイント確保だね」


「あら、アリエル三位はそうでしょうけれど。優勝の部分はわたくし、ですわよ。よってその計算ならマコティは準優勝、アドバンテージ200、と言うことになりますわね」

 

 ボブよりも外部の方が評価が高い!?

 ……なんか、始めてプレッシャー。って言うのを感じる気がする。

 勝って当たり前、みたいに言われる人達って、大変なんだな……。


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