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戦う遺伝子 ――すり鉢の底の淑女――  作者: 弐逸 玖
クレストリーグイースター ピリオド22 ゲーム11
3/43

斑女(まだらめ)

『ということで、時間がありますのでえーと。では次の試合、手元の資料からちょっと見ていきましょうか。まずはアリエルの今季ですが。……順位の推移では、今季始まって以来、ずっと首位を伺える悪くない位置に居ます』

『クレストリーグ東地区の今期、あんまりポイントが伸びてない、と言う傾向があるね。――西、中央と比べると、僕の計算だと東、は……。一試合の平均で4ポイント強は低い、4.124ですね』


『なのでポイントの低迷が目立たない、と言うことですね』

『今期の他のクレストなら、良くて20位前後くらいのポイントだからね』




「大きなお世話よ」

「ホントのことだろうが」

「勝負なんだから、勝率の話をして欲しいモンです」

 昇格二年目としてはそこそこ良い成績なのだ。

 ……それしか見るべきところが無い、とは自分で知ってる。




『なるほど。でもそうなると一番大事な勝率が高い、と言うのは単純にプラスに働きますね? 勝率67.823は昨日の時点ではリーグ八位です』

『勝ち試合で見ると、勝利ボーナスのうち、短時間勝利3ptの獲得率は七割強。悪いことでは無いですが、高難易度3は三割、完全ノックアウトの4は今季一度もとってない。いまの順位にいるのは単純に運が良いかな、と』




「良かったな、運が良くて」

「……計算の結果だ、クソ解説!」

 私が正面から正攻法でやり合って勝てるわけ、無いでしょ!




『地域育成リーグを飛ばして、登録戦首位抜けからディヴィジョン2、ディヴィジョン1の各リーグを最短で駆け上がって昨シーズン、クレストリーグ昇格を果たしたんですが。アリエル個人としてのポイントはやはり、というか、伸びませんでしたね』


『スピードはクレスト越えと言っても良いくらいだけど、彼女のせいではないにしろ、斑女まだらめではあるので。体力的には多少追いつかない。5分を超える様な持久戦になると辛い。というハンデは、これはいかんともし難い』




「アリエルに関しては、斑女は全然関係無いと思うんだがなぁ。だからトレーナーの仕事が来なくて解説なんかやってんじゃねぇの? アイツ」

「ポイントはトレーナーのせいでしょ? 戦術の問題です。――って言うか、今日の解説の人と知り合い!?」



 そう。沢山の破戒淑女ジェノミレディ戦女いくさめの中でも“斑女まだらめ”。と呼ばれる存在はごく一部しか居ない。

 他の子達は、みんな生まれた時から戦女として“協会”のもとで育てられ。


 五才になると各ステイブルに割り振られる。

 そして一〇才くらいからディヴィジョン2の下、地域リーグやジュニアのカップ戦などで活動を開始する。


 但し、私のような斑女、と言われる存在はジェノミレディの形質が発現せずに、普通の女の子として過ごした期間のあるものの事を言う。

 普通は三、四才、長くても六才前後。

 私のように、一〇才までただの女の子として暮す。などと言うのは異例中の異例。

 


 生きてきた中の半分以上の期間。。

 肘から上、膝から上を人目にさらすなどはしたない。

 胸元が開いた服などを着て外に出てはいけない。

 と言われ続けてきたのだ。


 真夏でさえ長袖シャツにロングスカート。

 人前で襟を開けることはおろか、ソックスを脱ぐことも禁じられていた。



 なのに今の格好はどうだ。ほぼなにも隠れていない。

 私はショートブーツを履くから、ふくらはぎが半分くらい、隠れているね。


 戦女のアーマーなんて、はしたないことこの上ないが。

 今となってはこの方が落ち着くのが不思議なところ。

 服を着ていると感覚を遮断されているようで、不安さえ感じる。


 だいたい、髪の毛を切るのにも専門家の技術と専用の道具が必要。

 銃で撃たれても、五〇m前後まで近づかなければ貫通はしない。吹っ飛ばされるだろうけど。……でもむっくり起き上がって、


 ――痛い。


 で、おしまい。多分骨折さえしない。

 はしたない? クソ喰らえだ!



 但し、魔法に関しては防御力ゼロ。

 だから、試合開始が10分遅延。なんて騒ぎになる。

 だいたい、攻撃魔法の使える人が、なんでミレディバトルの観客席になんかいるのよ。

 すごく希少な存在で普通だったら軍人以外なら、超エリートか名前の通った職人のはずなのに。



『それでもディヴィジョン2では最高勝率、脅威の90.523%はもちろん今も歴代一位。数試合の出場停止があったディヴィジョン1でも87.3%、という記録的な数字と共に、1シーズンで昇格しました』


『ディビジョン1のそのシーズンは、平均点が72、五位通過ですから、お世辞にも数字的には褒められない。けれど一方、一位で抜けた入れ替え戦で八勝一敗、と言うのは素直にすごい。第一シードとは言え、入れ替え戦で一敗しかしてないのは、今の規定になってからだと、この人で二人目じゃなかったかな?』


『しかもその一敗を叩き付けたのが、今日の対戦相手、ネクスタということで、何かしら因縁めいたものものさえ感じます』

『実は本人同士は意外と、普段は仲が良いそうですよ』

『だからこそやりにくい、と言う事はあるかも知れませんね。お互い、手の内は完全にわかっている、と』




「ん? アイツか? 軍に居た時の同期だぜ? その後一緒に軍を辞めてトレーナーになった。ディヴィジョン2でコーチになったのは、アイツの方が早かったんだが」 

「ホントに知り合いなのっ!? でも、ボブが無能だと言う話にしか……」


「ん? 逆だぜ、良いトレーナーは現場で一生喰えるし貰いも良いんだよ。ホルシュ・イーストのセンゴクじいさんなんか今年で75だぞ。年収、いくらだと思ってる。――勝ち点計算なんて、最後の最後、まずは勝たなきゃ始まらねぇや」



 試合である以上勝ち負けはあるし、シーズンで見れば勝ち点だってある。

 全部で100ポイント、そのうち勝てば無条件で50ポイントが必ず入る。

 残りの50のうち49は勝った方にボーナスとして入る可能性がある。


 さっき勝ち方だなんだと解説の人が言ってたのがそれ。

 前節、12ポイントは私にも相手にも付与されず、まるまる消滅した。


 技やダメージを計算して、試合をした両方で49を分け合うことになる。

 そして勝利ボーナスが1。つまり勝てばそれだけで51は確定。

 49対51でも勝ちは勝ち。


 それでも、引き分けで両者無条件に25ポイント、おしまい。

 よりは絶対良い。


 とは言え。クレストリーグは地域リーグのトップ。

 その上は最高位で全国区、プレミアリーグしか無い。

 昨シーズンは。――勝てば良いってもんじゃない。クレストの品位を落としてる。

 なんて散々言われたけれど。


 姑息な手を使う以外、他に勝ちようが無いんだからしょうがない。

 私なんかが。例えば今日の相手ネクスタと。

 正面から正攻法でやり合って勝てる。


 なんて考える方が、どうかしてるんじゃないか。と思うんだけど。

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