生物兵器の投入
「いいや。すでに“稼働”しているジェノサイダーには全く問題がなかった」
「ふむ……。オーナー、概念的な話は少し難しいんじゃ無ぇか? アリエルは莫迦では無いが、見た目と違ってハイスクール同等の知識を持っているわけでもない。と言う前提を忘れてねぇか?」
「私に上手く話ができるかわからないが……」
「子供にザックリ教えるつもりで頼む。あとで俺に補足説明を求められても困るしな」
一旦アゴに手を当てて何かを考え込んだオーナーは、――自信は無いが、続けよう。そう言うとソファに身体を預ける。
「簡単に言ってしまえば、確かにウイルスをバラまいたのは事実だ。但し標的はジェノサイダーでは無かった」
「そんなのを作った人類そのものを皆殺しにしてやる! ってなったら。……今、誰も生きてないですよね?」
「そうだな。だが、実は考え方はそこまで間違っていない、――最初に話をした。ジェノミレディの発生経緯の話だが、三種類の発生形態。全てに共通する点があるのだが、なんだかわかるかね?」
「発生って……。生まれる時は、お母さんの……」
「その通り、人工子宮では100%着床しないから必ず母体が必要。これは1,000前から変わらんのだよ……」
――その化学者達は製造法に目をつけた。全ての女性がジェノサイダーを身ごもれない身体になれば良い。
――そんな無茶なことができるのか。と、この辺は今でも専門家同士で論争になっているのだがそれはさておき。研究は進んだ。
――方法論だけは最初に固まっていたそうだ。それが、ウィルスを全世界にあまねくバラまき、感染した女性の身体構造自体を書き換える。と言うまさに荒唐無稽な方法でね。
――もちろん、全く成果はあがらず無駄に10年以上の年月を重ねていった。
――ただ、マッドサイエンティストの研究には失敗がつきものだ。彼らも当然に下手をうってしまった。
――全くなんの効果も観られない、感染力と生命力だけが強いウィルスが研究所から流出してしまった。
――しかもあらゆる方法で感染を増やし、大気中で10年以上感染力を保持することさえわかった。
――そして、それが露見したことで研究者達は全員捕縛され、厳罰に処された。資料も押収。研究も開発もそこでおしまいとなった。……はずだった。
「その後爆発的に感染は広まり、一年後には世界総人口の実に二割が感染したと思われる、と言う当時の世界政府の報告書が残っている」
「たった一年で世界の二割……」
「とんでもない事に、そのウィルスを死滅させ、大気中から完全に除去する方法は、未だ発見されていない。……今もこの部屋に漂っているのかもしれないが、それをどうにかする方法は、1,000年以上経った今も見つかっていない」
ちょっと怖いなぁ、それ。とは言え……。