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最初のジェノサイダー

 オーナーは、――もっとも。そう言うとカップを置いて少し背を伸ばし。私と目を合わせた。


「1,000年以上の時を経た今だとて、人道から外れていることに変わりは無い。……もともと普通の人間であった君ならば、わかるだろう? 我々がいまも、“君たちに”どれほど非道いことをしているか」


「……始めはなんて非道い事をするのだろうと、それは思いました。オーナーやトレーナーを恨みもしました。でも……」

「うむ、別に怒ったりしない。構わないから続けて良いよ」


「えぇ。でも。……自身の特殊性にまるで無頓着の子も居る。自身の力にうぬぼれる子だっている。普通の人達と隔離するのは、それは多分最善では無いです。だけど、一般の人間と切り離した上で教育を与える。悪くはない判断なんだって、……今なら思えます」


「君のように10年も能力が発現しなかった例はほぼ無い。色々思うところは教えておくれ。それはバーンシュタイン(うち)戦女むすめ達のみならず、全ての戦女いくさめ達の利益にも繋がる。……彼女たちの知りうる世界は、ミレディステイブルと闘技場。それのみが全て、だからね」



 ――そう、また話がそれたね。最初のジェノサイダーの話だった。


 ――同じものを四体作り出した陣営は、さっそく三体を戦闘に送り込んだ。


 ――ふむ。そうだな、単純に今の君たちの九倍程度の身体能力を持っていた。と思えば近いかな。


 ――その彼らは投入された戦いで、簡単に全滅した。


 ――図らずもさっき君の言った通りなのさ。武器の使い方は教えたが。どうしたらよいか、以前に自分がどういったものであるのかが、まるでわかっていなかった。


 ――それに。これも考えることすら忌避されることだが。戦場に投入された彼らは、実に製造から三年だった。……これについては私はこれ以上話せないが、わかってくれているね?


 ――さらには寿命も10年以下だった。わざとそうしたのでは無いにしろ、消耗品扱いである以上。教育を施すには無駄が多すぎる。


 ――そこで、記憶に始めから一般常識や自身の性能を記録する。と言う技術をここからたった17年で実用化した。


 ――それをコピーして実戦に出し、さらに足りない部分を洗い出し、始めから埋め込んでおく知識をどんどん増やした。


 ――これにはさらに10年かかった、と記録にはある。




「ゴーグルの戦術画面や兵装の諸元データを、私が“理解”できるのって、もしかして……」

「一部、本能として受け継がれた部分もある。と言うことだ。話は形質だけでは無い。……君のようにその“本能”が完全では無いにしろ、わかるくらいに顕在化する、とうのものは極めて希な例でね」


「教えてもらわなくても、始めから知っている……!」

 本当に本能だったのか、あれ……。

 厳密には本能、と言うことにしちゃった知識。

 園芸用の草花でも偶に有る先祖返り、それが私……?


「今ではほぼ発現し無くなっているのだが、アリエル。君は例外的にジェノサイダーから引き継いだ“本能”が、かなり色濃く出ている」


「私が、兵器の本能を。……ですか」

「済まないが。それはおいて、先に話を進めていいかな?」 




 ――ついに実用化されたジェノサイダーは、本格的に実戦に投入され、とてつもない戦果を挙げた。


 ――たった五人で、歩兵の一個中隊を撃破した。ボブには言うまでも無いが、これはとんでもないことだ。単純に一対百で完全武装の兵士を叩き潰した。くらいに思ってくれ。


 ――一人で百人。とは言え、単純に100倍では無い。計算方法によっては戦力差は1,500倍を超える。


 ――しかも極端に言えば武器は棍棒、燃料は普通の食事で良い。こんなに扱いやすいものも無い。


 ――但し欠点もある。魔導防御がまるで無い点だ。


 ――だから。当初は対抗策として、魔術士の部隊を前面に立てたが、既に魔導軍は大幅に縮小したあと。まるで敵わなかった。


 ――動力は魔導、攻撃は機械のハイブリッド兵器も作り出した。魔法で駆動し、魔法で弾丸を、ミサイルを作って打ち出す自立機動兵器、“バーサーカー”と呼ばれたそれは、それなりに成果を挙げた。


 ――だが、直接ジェノサイダーと対峙にするのに、直接人間が出なくても良くなったものの、結局は一時しのぎにしかならなかった。


 ――理由は簡単、それを起動し駆動させるためには、魔術士五人程度が廃人に成ると言われた。しかも無人で駆動する前提なので肝心の魔導での攻撃ができない。


 ――自爆で魔導力をまき散らすのが最強の攻撃、と言われたくらいだ。


 ――しかしこれは所詮しょせん対症療法。結局、何処の国もジェノサイダーを作り始めた。それはそうだろう。


 ――考えるまでも無い、同じものを作ってぶつけるのが一番効率が良い。


 ――この状況に、一部の科学者は眉を潜めた。生物の尊厳をなんだと思って居るのか。とね。


 ――だがその舌の根も乾かぬうちに、彼らは彼らで、さらに狂った研究開発を始めた。ジェノサイダーを無効化する生物兵器だ。


 


「1,000年以上前、と先程から言っているが。じつは今このときも。その影響は残っていて……。うん? なんだね?」

「はい。……あの、オーナー。えぇと、生物兵器って。でっかいイヌ的ななにかとか、ですか……? 今でもどっかの山で野良になってたり……」



 まだ戦女になる前。近所で飼っていたイヌが、前を通るため私だけに吠えて怖かった。未だにイヌはちょっと怖い。

 ネイパーに言ったら、――自分の方が強いのにそんな事もあるんだねぇ。と言って笑われた。



「ははは……、アリエルは、イヌは苦手かね? ――そこは本能には記憶されていない、か。……一般には生物兵器と言ったら、ウイルスや細菌のことをさすのだよ」

「ウイルス、ですか? ジェノサイダーに風邪をひかせたりとか、そう言う……」


 何か特殊な体質の人だけを狙って、病気を起こす。

 ばい菌もウイルスも詳しくないが、そんなこと。可能なんだろうか。


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