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転換点

「よろしい。ならば昔話を始めよう。――具体的な時期を話すわけには行かないが、さっきも言った通り。1,000年前後前の話だ……」




 ――我々人間は、戦争が大好きだ。


 ――異論があるかね? ……だがアリエル、現実はどうだ? 今も昔も、戦争をやめられ無いで居ること。この事実は曲がらない。


 ――そして、かつての戦争は魔法戦が主流だった。


 ――戦争だけでは無い。今では考えられないことだが、誰もが魔法の力を持ち、普段の生活も全ては魔法に頼っていた。


 ――それが急激に変わるのが約1,000年前。魔法の原理がある程度解明されたことだ。


 ――術者の生命力、それ自体が魔法の源である。と言う事実が判明し、魔法に頼り切っていた世界はまさに路頭に迷ってしまった。


 ――普通の歴史では、そこが化学文明の新たな黎明期として記録されている。


 ――キミは当然知っているね。実はジェノミレディの基礎教育に歴史はないので、他のジェノミレディ達は知らないことなのだよ。


 ――実際に魔法の使用を制限し始めてからたった30年で、平均寿命は20才以上延びた。


 ――その一方で魔法を捨てたくない業界もあってね。そこで考えだされたのが、魔導力を生み出し、供給するためだけの人間のカタチをしたタンクだ。


 ――暗黙の了解、と言う言葉は知ってるかな? ……機密事項になっているが、我が国では今でも年間300体以上が作られている。


 ――人間のカタチはしているが、人間としての機能は無いに等しい。……いや。人の定義にもよるだろうが、無い。



「しかもそれはみなが知っている、と言うことでもあるが。――これを人道にもとる行為だ、と思うかね? アリエル」

「それは思います。けど……、魔導が無いと駄目なものって……」


「政府系の儀式で今でも外せないものがあるが。実際には魔導軍の魔術士が無駄に消耗しないように、と言うのが一つ大きい。他にもいくつかあるのだがこれ以上は話せない。さすがに私の命が危うくなるのでね」


「何でオーナーが知ってるんですか?」 

「私の専門は人体だからね。魔術士であっても人間だ。専門分野は魔法と化学のハイブリッド、と言った具合でね。この辺は、実は私の専門分野でもある」

「……はあ」


「話がそれてしまったね? 当時の学校では、必須科目に魔法があったのだよ。驚くべき事に、みんなが普通に魔法を使っていた。ということだ。今では特殊な人間以外、使い方自体を知らない。ごく限られた専門分野としての学問であり、それを行使するものは職人となってしまったがね」


「みんなが魔法を使えた時代……」

「だがその時代は、これを気に終わりを迎えた。何故皆がそこまで長生きをしたいのか、私にはわからんが、ね」



 ――そうして戦争から表向き、魔法の要素が排除され、兵器の開発が進んだ。


 ――最初に開発されたのがクルマや照明では無くて、銃やミサイルだ、人間というものは度し難いものを背負っていると、そこは私でさえ感じるよ。


 ――だがそうなると、問題になるのは前線の兵士の損害だ。


 ――それまでは事実上、力のある魔道師同士の一騎打ちで決まる場面も多かったが。戦争のやり方が劇的に変わった。


――当然普通の人間が戦地へ行き、引き金を引いて、ナイフを振るうんだ。


 ――防弾スーツや暗視ゴーグルに身を固めて戦地へと向かうわけだが、被害はこれまでよりも数十倍、どころか数百、数千倍の規模になった。……これはわかるね?


 ――よろしい。そしてこれこそが問題になる。当時の人々は戦争をやめようとしない一方、将兵の損害はヒステリックに嫌った。


 ――そう、矛盾しているね。私も同意するよ。


 ――今まで、魔術士の死傷者は黙認していたと言うのに、だ。


 ――そして完全に間違った判断を下す。戦闘用の人間を作れば良い、とね。


 ――遺伝子レベルで特殊な改造をなされた卵子と、特別な調整を受けた精子。それを受精させることで、戦闘に特化した特殊能力を持つものを作り出した。


 ――さらにその必要な部分のみを取り出し、生化学やクローン技術はもちろん、化学や工学さえも駆使してさらに能力を精鋭化していった。


 ――実戦投入までたった15年しかかからなかったのだ、と記録が残っている。


 ――もちろん、生殖能力は始めから削り落とし、特殊な薬物を定期接種しないと死ぬように設定した。自分達のコントロールを外れて勝手に増えたり、野良になったりしない様にだ。


 ――キミも昨晩聞いた通りに、今でも野良ミレディ。として専門家の間では言葉は残っている。本当の意味での野良ではない。ある意味飼い主が野良なのだが。


 ――実用化までの15年、どれほどの人道を踏み外した研究、実験が繰り返されたのかは。関係者であるこの私でさえ、想像するだにおぞましい。


 ――それについては想像だけでは無く、本当に記録が残ってさえ居るのだがね。


 ――実際に閲覧したこともある。……巫山戯ふざけるな、と言われそうだが2日ほど眠れなかったものだ。


 




「セバス、全員分のお茶のおかわりを。それが終わったらキミも座りたまえ、まだ長くなる。――そうして“作られた”もの達は、破戒者ジェノサイダーと呼ばれた」


 私がつい、小さく身じろぎをしたのに気が付いたオーナーは、――ん? 構わないよ。気になることがあれば話してくれて良い。そう言って、中身の足された湯気の上がるカップを手にする。


「ジェノサイダー。……さっき、オーナーはそれは男性を示す言葉だと言いました。つまり、じゃあ、ジェノミレディって言うのは、……私たちは、いったい」


「最初に言った通りだよ。ジェノミレディ以前に、“女性体”自体が存在しなかった。……なにせ目的が目的だ。身体能力はいくらでも高い方が良い。だったら人間を使うのだ、生物学的に女性よりは男性だろう。そしてそれはもっと露骨に戦闘力、と言葉を置き換えれば理解は出来るだろう?」


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