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眠たい朝にテンションの高い人はちょっと迷惑

「アリエル! 朝よ、起きて、アリエル! もうご飯みんな食べちゃったよ!?」

「違う! ちゃんとアリエルの分は取ってあるの! わたしちゃんと別にわけたよ! ……そうじゃなくてあのね、えーと。――朝になったから起きて~っ!」




 結局。あのあと、お屋敷には戻ったものの。

 シャワーを浴びるように言われ、着替えたところで、――今日は戻れ。とボブに言われた。


「悪いが明日の午後、色々まとめてもう一度話をしよう。時間は改めて連絡する。セバスの旦那もそれで良いな?」

「はい、こちらも調べ物が御座いますので、お時間を頂けるのはありがたい限り」

「オーナーには旦那から言っておいてくれ。俺もここじゃ仕事にならねぇ、一度帰る」




 と言うやりとりの後、私がステイブルの宿舎に戻ったのは朝三時。

 いつもは一〇時前には寝て、五時半に起きるのだけれど。

 朝ご飯が終わった、と言うことは今は七時過ぎ?

 三時間ちょっとしか寝てない……。


「あの。……ごめんねアリエル、大変なの、……起きて」


 多少張ったエリィの声まで聞こえる。

 昨日の今日だし、ホントに何ごとか起こったの!?


 ガバッと起きあがると、目の前10cmにエリィの顔。

「おは……、よおぅふっ!」

「お、おはようアリエル。……す、すごく、びっくり、した」


 ――私もびっくりよ、マジで!

 他にはちびっ子グループの子が二人。


 とりあえずベッドから降りて、寝間着を脱いでベッドに投げる。

「ちゃんとしないと怒られるよぉ?」

「あなたたちが急がせてるんじゃ無い」


 本来は朝にも下着は取り替えて良い事になってるし、いつもは取り替えるんだけど、今日はそのまま。

 なんか急ぎのようだし。


 ステイブルの制服に着替え。まずはシャツを羽織る。

 戦女は普段の生活と、試合の移動の時には必ず制服着用。という法律がある。

 ――ハイスクールの制服みたいで、ちょっと恥ずかしいんだけどねぇ。

 と言うのはネイパーだ。

 実は本人が言う程、違和感は無いんだけどね。美人は得だ。


 キリュウインの制服はめんどくさそうだし、各ステイブルの中でも目立つ存在。

 あそこまで面倒くさくは無いけどさ、確かに。


「エリィ、ネクタイ取って。……ありがと。――それで? ミシェレ、エンピィ。寝坊しちゃったのは私が悪いけど、朝からなにがあったの?」


「きのうはお屋敷のご用で遅かったから寝かせてあげなさい、ってネイパーは言ってたけど、あのね、でもね……」


 エリィがおずおずと話を引き取る。

「どうしても早くアリエルに見せたい、ってこの子達が。……だったらあなたが起こしにいきなさい、ってネイパーも……」


「何を見ろって言うの? わかんないけどわかった。とりあえず行くよ、行く行く、行きます。……で、何処に行けば良いの?」

 ちびっ子二人の顔があからさまに ――ぱぁ! と明るく輝く。

「談話室だよ!」

「早く早くぅ!」


「ごめんなさいアリエル。……朝ご飯は、わたしがすぐに用意するから、あの。付き合ってあげて、ください」



 あれ? エリィが年少組を気遣ってる?

 珍しいこともあるもんだねぇ。よきかなよきかな。


 制服はキチンと着ていないと怒られる。……とは言え今日はネクタイ、長さが決まんない。

 ――ま、急ぐようだし今は良いか。

 半端な長さになったネクタイを上着で隠して、三人のあとを追って部屋を出た。





「これは……」

 うん。みんなテンション上がるよな、確かに。


「やぁ、無理やり起こしてすまないねアリエル。この子達が、早くあんたに見せるんだ、って聞かなくってさぁ。ご飯食べたらもう一回、お昼まで寝てても良いって、コーチにも寮長さんにも許可は取ったから。まぁ、許してやってよ」



 昨日。オーナーは明日花束を贈る、とは言った。うん、そう確かに聞いた。

 今談話室のテーブルを半分避けておいてあるこれは、花束、何だろうか。


 直径一mの、花をまとめた包みが三つ。立てておいてあるのだけれど。

 花が束になってまとまってるんだから、これは花束で良いのか?

 無機質な建物の中、ここだけなんか華やかな雰囲気になってて、良い感じではある。 


 よく見ると普通のサイズの花束をいくつもまとめて一つにしてあるんだね。

 見た目が破綻してないのがすごいな、こう言うのもプロの技、何だろうな。



「ミシェレ、起こしてくれてありがとう。早起きした甲斐があったよ。この時間だと窓からの朝日が当たって素敵、だからお菓子に来てくれたのね」

「でしょでしょ! そうでしょ? きれいでしょ! ね、ね!? 私ね、起きてからずっとここでお花、見てたの! お日様あたったらもっときれいになって、だからアリエルにも、早く見せたかったんだっ!」



「で、エンピィはもちろんこっち、だよね。……キミ達、ご飯食べたばっか。じゃ、ないの?」

「良い匂いしてるの、持ってきてくれた時からずっと。すごくおいしそうなの!!」

 

記者会見を逃げなかったご褒美に甘い物を。とも確かに言われた。

 言われたのは間違いがないけれど、こっちも量のことについてはなにも言われていない。


 洗濯物を入れるような大きさの、バスケット三つに山盛り。白パン、食パンはもちろん、デニッシュにクロワッサン、カンパーニュにフォカッチャ、プレッツェルにスコーン……。何種類あるんだろう、パンの山からはおいしそうな甘い香り。

 まるでバケツみたいな大きさの紙の容器も三つ、このニオイはクッキーだな。

 そして一瞬サイズ感が掴めすに、まだ寝ぼけてるのかと思ったケーキ。



 花もお菓子も。……これが全部、私の名前で届いてるんだから。

 それは起こしに来るよな。私だってそうする。



「ところでみんなは遠征組の結果、聞いてる?」

 ざわざわしてた雰囲気が急に変わって、年齢もネクタイの色も関係無しに、この場の全員背筋が伸びる。

 人ごとじゃ無いものな、みんな。


「そう言えば伝えてなかったね。……この際、アリエルから教えてやって」

 ネイパーにしては珍しいが、突然、オーナーの前で引退した方が良い。

 なんて言われたら心中穏やかで居られないだろうし、今日は仕方ないか。


「おほん。では改めて。……我がステイブル・オブ・バーンシュタインは、昨日行われたディビジョン2第7節で1勝1分け。ディビジョン1第23節は二勝。――今節のヘンシェルへの遠征、ステイプル・オブ・バーンシュタインは、なんと! 負け無しっ!」


 談話室の中がわっと沸く。

 誰かが報告するまで、自分からは聞かない。と言う暗黙の了解がある。

 それは年少組であっても守られている、と言うことだ。


 中継があるなら談話室で流されてるはずだし、仲間の試合のある時間帯は、練習は休みにしても良いのだけれど。


 クレスト以下のリーグも、一応公営ギャンブルの一部。

 でも、地方開催だと開催地しか中継が無い時も多い。

 そうなると試合結果も、外から情報が入ってこないとわからない。

 私たちは、基本的に敷地の外には出られないし、各種メディアの視聴も多少の制限がかかっている。


 当然情報へのアクセスも制限されてる。

 ミレディバトル関連の情報は、協会公式のマークの付いたもの以外シャットアウト。

 戦女自身で閲覧できる情報が公開されるのは、早くて試合2日後。

 公営ギャンブルの要素があるから、と言う事ではあるけれど。


 確定オッズなんかははどうでも良いのだし、試合結果くらい。速報で流してくれても良いのに。


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