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戦う遺伝子 ――すり鉢の底の淑女――  作者: 弐逸 玖
ステイブル・オブ・バーンシュタイン
15/43

結果報告

「ほぉ。……あのへそ曲がりがヤル気になった? にわかには信じられんな」

「私みたいになりたい。って、言ってくれた。来週でも再来週でも良いからボブに会えるように話をしてください。って言われたの。ウソでこんなこと、言いません」



 ボブの立場はステイブル・オブ・バーンシュタイン全体の総監督チーフディレクター

 実は戦女としてもそう簡単には会えないし、練習を見てくれるのも何回かに一回。直接試合のトレーナーとして帯同するのはクレストリーグのみ。


 いい加減なおっさんにも見えるけど。実はこの人、凄い人なんだよね。

 その上指導もわかりやすい上、戦術も的確。

 マッチョ系でグラサンかけた元軍人のおっさん、その見た目もあいまって結構怖がっている子も多い。

 実際は口が悪いだけで、少なくてもそこまで怖がられる様な人では無い。



「今期のディビジョン2、参入戦に間に合ったら面白いな」

「いきなり即、参入戦!?」


「お前もやっただろうよ。目はあると思ってるぜ? ……前にも言ったが、アレが逸材だと思ってるのは本当だ。斑女まだらめで無ければ出来ない事、ってのもあんのさ」


「アーマーパージ、なくてもいける?」

「アイツはそれこそへそ曲がりだからな、かえってわかりやすい。……お前の戦術をそのままやりたいんだろ? だったら込みの話じゃねえか」


 ……気がついてたんだ、ドコまでも喰えないおっさんだな。

 夜でお屋敷の中なんだから、サングラス外せ。


「要らない苦労を背負い込むこと、無いと思うんだけどなぁ」

「他のトレーナーは知らねぇが、戦術は戦女本人が決める。ってのが俺の流儀だ」


「やめるようにボブからキッチリハッキリお話ししてください、お願いします……」


 勝ち点が積み上がると同時に精神が歪む。

 そんなのはあの子には似合わない。

 私だって好きでやってるわけじゃ無いんだよ、アレ……。


「あの子の場合、ロング・ソードでテクニカルに行く方が絶対相性良いでしょ?」

 他に良い戦術があるならその方が良い。

 エリィを一目見て逸材だ、と言い切ったボブならわかってるはずだ。

「よく見えてるな、お前。……言うこたぁわかるし、まぁ、うん。考えとく」

 


 オーナーのお屋敷の中。蝶ネクタイに黒い服、姿勢良く先頭に立つ口ヒゲのおじいさんの後ろ、ボブとネイパー、そして私は大きな扉の前に立つ。


「ご当主様。執務中のところ失礼致します。……ステイブルのチーフディレクター、ハワード様が、他二名様とお見えでございます」

 執事さんのやたら響く声に、――入ってもらってくれ。と言う声が応える。

「ではどうぞ、お入りを」

 大きな扉を執事さんが開く。


「みんな、今日はご苦労だった。……セバスは一度下がって良い、あとで呼ぶ」


 ステイブル・オブ・バーンシュタインのオーナー。エリック・バーンシュタインがベストにネクタイで、執務机から執事さんを見る。

「かしこまりました」

 執事さんが一礼して下がり、大きな扉は音もなくしまる。




 部屋に一歩入ったところで、背筋を伸ばしてオーナーを正面から見る。

 30半ば、サラサラの金の髪を無造作に七三にわけて、細面で眼鏡が似合う。


「オーナー、まずは下位リーグから報告する。今日、ヘンシェルであったディビジョン2は1勝1分け。ディビジョン1は二人とも勝利。まだディビジョン1のシーズンは半分残ってるが、マリスのクレスト昇格戦はほぼ間違い無いだろう。――連中は今日はクールダウンのあと休ませた。まだ身体が出来上がっていないしな。……明日の午前中には戻る予定だ」


 エリィと私の間。年齢的に多少穴が開いて見えたのは、地方での試合のために遠征に出ていたから。

 クレアとマリスは今節も勝った。まさに波に乗る、って感じだよな。

 だいぶ点数も伸びたようだし、どうやら今回も絶好調だったらしい。


「感謝している。ボブが来てくれなければこうまで順調に、ことは進まなかったただろう」


 オーナーはデスクについたまま、両の手を組んで顎を乗せ、軽く微笑む。

 こう言う、ひょろっとした人は好みじゃ無い、って自分で思ってた。

 今や“男性”とイコールで繋がるのはオーナーだけ。


 私は破戒淑女ジェノミレディ、どころか斑女まだらめ

 個人的にどうこう、なんて絶対ないことはわかってるけれど。

 クレストリーガーで居る限りは、こうやって直接顔を見ることが出来る。

 別に私が個人的に好きで居ることには、誰にも言わなきゃ問題がない。


 ……所属ステイブルのオーナーとは言え、戦女だからね。こんな機会ででも無いとそもそも、会うことさえ出来ない。

 もっとも会えたたとしても、負けの報告じゃあんまりだ。

 胸を張って、勝ちました! と言いたい。


 それに、勝った以上はステイブルにファームポイントが入る。

 悪いことは何も無い。

 だから何をしてでも勝たなきゃいけないし。試合に出た以上は、彼の名前のついたステイブルへ。勝ち点を持ち帰らなければいけないのだ。


 私が彼に出来ることは、他にない。



「具体的に何かをしたか、といわれると返事に困るんだが。ま、今は良いか。……アリエル?」

「はい、ボブ。――ご報告します、オーナー。バーンシュタインの戦女としては少々みっともない試合でしたが、アリエル。本日も勝ちました!」


「とんでもない、良くやってくれた。実際の身体能力を見れば君の勝率は驚異的だ。アーマーパージ自体も技術点はつかないが、難易度は最大級だと考えている。私から勝ち点を渡すことは出来ないが、せめて花束くらいは贈らせてもらう。記者会見の精神的瑕疵の賠償として甘い物もつけよう。明日の朝には両方、宿舎に届くはずだ」


「ありがとうございます!」

 褒められた!

 こう見えてこの人は意外と他人を褒めない。これは本気で嬉しい。


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