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戦う遺伝子 ――すり鉢の底の淑女――  作者: 弐逸 玖
ステイブル・オブ・バーンシュタイン
12/43

弱者の戦術

 怪我をした左手を、透明な手袋のようなモノでコーティングされて。

 洗い場に座りつつ、風呂場を見渡す。



 ネイパーはパワーファイターに属するわけだが、筋肉の標本みたいな戦女も多い中、筋肉とその他のバランスがすごく綺麗。こうして脱ぐとそれが良くわかる。

 さらに、おっぱいが大きい。

 ……バーンシュタイン(ウチ)の一番人気なのが、この辺でもわかる。


 たまに協会からグラビアの依頼が来るんだよな、彼女。

 要らない、と言うのが私の建て前なんだけれど。

 実際はちょっと、羨ましい。……ま。ちょっとぐらいは、ね。



「私たちもネイパーみたいにおっぱい大きくなる?」

「それは、あー。自分で決めるわけじゃ無いからねぇ」

「おっきい方が良い気がするけど、動くとき邪魔じゃ無いかな?」

「自分の体だからね、キチンと固定してればそこまで気にならないよ……」


 そんな色々と突っ込みたくなる会話を聞きつつ、ほんの数年前。ネイパーにお願いしてアーマーパージの練習をさせてもらったのを思い出す。

 特に胸のアーマーの破壊については、今言って居た通りに、揺れたりぶれたりしないように作ってある。

 だから、谷間の何処にナイフや手を突っ込んで壊すか。

 いろんな種類のアーマーをつけてもらって、上から下から、何回も胸元に手を突っ込んだ……。


 って。なんかそこだけ取り出すと変態のおっさんみたいだな。


 実際には私は泣きながら。ネイパーは、


 ――泣くんじゃ無い、こっちだって痛いんだよ!

 ――もっと深く! 良いところにあてることを考えるの!

 ――そこじゃダメ、ピンポイントで複数回突くことを考えて!

 ――もっと深く、一息で!


 なんて、怒鳴られながらやってて。

 うん、変態感が払拭できない。……あんなに辛かったのに。



 ステイブルの寄宿舎ならシャワーだけ。と言うところも多いと聞いているが、我がバーンシュタインは、オーナーの意向で風呂場はデカい。

 風呂にゆっくりと浸かることで、身体だけで無く心もリラックス出来るのだそうだ。

 広い洗い場。ゆったりとした湯船は、今一緒に居るちびっ子達ならまとめて十人は入れる。


 年かさの二人は、ネイパーとまだ何かを話しながら身体を洗っている。

 あれくらいの子達はエロスはそこまで感じ無い。さっきみたいな話をしていてもイヤらしく感じないんだけど、なんか目を引く。


 ほんの数年間だけ期間限定のバランス。

 少女と女、どっちにも振れていないちょうど中間点。

 私が男だったら、もっと違う目で見てるんだろうか。



 試合そのものにはさしてみるところが無い、掛け金もたいしたことのない、どころか無い方が普通の育成リーグやユースの試合。

 試合になれることガ目的だから、普段は何処かの練習場で淡々と試合が行われることも多い。

 でも、メインの試合と日程が被らない限り、公開。となると結構な盛況なのだ。


 もちろん、ミレディバトルのファンが、間もなく下位リーグに出てくる新人の様子を見に来る。それがお客さんのメインだけれど。


 実は攻撃をいなすのにも、相当な経験値とテクニックが要る。

 なので、実力が半端なクラスでは、事故としてのアーマーパージは結構多い。

 それが目的の層が居るのだ。


 さらに。女の子だけでまとめて住んでいるので男性の目、と言うものがそもそも理解できない。

 ステイブルで暮らしていると、男性の目が何を見ているか。なんてことには無頓着になると言う背景もある。


 もっと言えば。普通の教育は受けていないから、一般常識が一部ごっそり抜け落ちている上、本人達の自覚が足りないことも多々ある年代でもある。


 それに、“事故”からのドレスコード条項違反で失格、はミレディバトルに馴染んでいない少女達には精神的にキツイ。

 勝ちが見えてた試合なら、なおさら。

 結果、そのまま茫然自失、“丸出し”で放置。となるわけだ。


 あられも無いその姿を、そこまで“はしたない”、とも“恥ずかしい”とも思わないことも多い。

 だから。それを目当ての変態達が、バズーカ砲みたいなカメラを構えて客席に陣取ってるのも事実だけれど。


 まぁそれを置いても、あのバランスは美しい。

 パージが無くたってバズーカ砲で狙う気持ちはわかる。

 私にもあったはずなんだけどな、あの時期が。


 そしてそんな時期の子が、なぜか今日は私の真後ろにも居る。

 ……珍しいことだと思う。



「手。……痛くない?」

「ちょっと切れただけ、毎回ボブが大袈裟なんだよ。……ロックを引きちぎる時にちょっとタイミング、ミスった」


 さすがにアホのネクスタとは言え、クレスト2年目にして優勝候補なのだ。

 ギリギリ引きちぎる程度の時間しかくれなかったし、当然抵抗された。

 天の使わした至上の一振り、なんて。進化してるなぁ、アイツ。

 結果、縫うところまでは行かなかったけど結構なケガになった。



「……打ち込みながら、廻りって。どうやって見てるの?」

「ん? あぁ。そう言うこと? ……これは巫山戯ふざけんなって思うかも知れないけど練習しか無い、身体が勝手に動くまで練習するんだ。身体が勝手に動くなら、目は別のところを見れるでしょ?」

 ちょっと言葉通りで無い部分もあるけれど、基本はそう。


 筋力も持久力もない私は、だから間接視野を広くしようと努力し、基本は素手で速攻、武器を使うときもナイフの小回りと一発の速さ、そこからの一気呵成で連続攻撃。

 それに特化するしか無かったから。だからずっと、そうやってきた。


 アーマーパージも、言えばその延長でしか無い。

 相手に恨みがある訳でも無いし、恥をかかそうと言う気も無い。

 それしか勝ち目が無いと思えば、躊躇無くやる。それだけだ。



「背中も傷だらけ、石けんも。ダメだ。痛そう……。流すだけだからやってあげる」

 背後から細い腕が伸びてきて、シャワーヘッドを掴む。


 スーパースローでみないと何をしているのか、カメラでも写らないスピードで戦っている。

 ほぼ見えていないだけでネクスタと私。全身に擦り傷が無数につく程度には、お互い体中至る所への攻撃があったのだ。


「おぉ、今日は優しいん、――あっ、つぅう!」

 うん。戦女であってもだね、シミるものはシミる……。


「……え? あ。……ごめん」

「気にしない、始めだけ。傷があるなら尚のこと、洗わないとだし」

 さっき、会見前に無理やり洗われて、しこたま消毒されたことは黙っとこ……。


「みてると、アリエルは試合のあと、いつもボロボロ」

「いやぁ、面目ない」

「痛いとか、洗って、とか、言わない」

「まぁ自分のせいだしね、大概」

「……」

 会話が止まってしまった。シャワーだけが微妙に場所を変えながら背中に当たる。

 気まずい……。


「ま、まぁさ。練習って、こうならないためにするんだけど……」

「わたしでも。――練習すれば、……そういうふうに。なる?」

「傷だらけってこと? あのね、だから普通の人は練習すれば逆に……」

「ち、……ちがくて。あの、……アリエルみたいに、……なれる!?」



 ――えーと。……へ? なんて!?


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