はしたない、を知る少女
「なら出たらいいじゃない、試合。ジュニアオープンは無理だとしても。ジュニアユース、今なら後期のプリンセシィズのカップ戦に間にあう」
「予選で瞬殺される。それに、そのあとのインタビューも……怖い」
下衆な質問しか来ない、と言うのは私を見て良く知ってるからなぁ。
「負けたらペナルティ無いんだから拒否したら良いじゃん。……勝ったらこう言ってやれば良いんです」
不思議そうな顔をして、伏せていた目を私に合わせてくる
お、ちょっと喰い付いてきた。
他の子に聞こえないように数歩近づいて、耳元に子を寄せる。
「アリエルに聞いてない質問だけしろ、あとは答えない。ってね。――私は君の味方だよ、それは絶対忘れないで。……別にイヤなら試合には出なくても良いんだし」
“人間”とは身体のつくりがまるで違う。
バトルに出ないなら薬や身体の研究に付き合う、と言う手だって有る。
病気や怪我をした時、人間用の治療が役に立たない時もあるからだ。
人間用の薬や装備、武器の試験台、と言う仕事もある。
一見、ろくでもない選択肢にも見えるが、それもジェノミレディの仕事。
今だって、誰かがやってるから技術が進む。
制服のネクタイは青と金のストライプ、これは戦女であることを示す。
一方、スカイブルーに赤のネクタイの子達は、戦女では無い。
医療や科学の分野で頑張ってる子達だ。
私と同世代の子も二人居るはずだが、午後は“仕事中”なので今、この場には来ていない。
あの子達のお陰でケガも早く治るし、新しくする装備も開発できる。
それにエリィも“はしたない”の概念。そのなんたるかを知っている。
バトルのアーマーも、バトル自体も。はしたないことこの上ない。
アーマーパージなんてされるのはもちろん、するのも論外。
斑女は、だからミレディバトルでクレストリーグまで昇格すること自体が希だ。
数が少ない上、身体能力的に劣る。その上。精神的にもなかなか吹っ切れないから。
なら、私は何だ。と言う話になるんだけれど、
ディビジョン2に登録された時。
勝つことさえ出来ればあとはどうでも良い、と割切った。
オーナーのため。ファームポイントだけが全て、あとは全部どうでも良い。
個人の勝ち点も、順位も。バトルファンの印象も、記事の書かれようも。
はしたないことも、下衆なインタビューも、何もかも。
……まぁ、インタビューは。言う程は割り切れてなくて、過去に出場停止になってるけど。
「どうしてもミレディバトルがイヤなら、ボブとオーナーには私から言っておくよ? エリィが無理をすることなんか、何処にも無いんだから。そのくらいは出来るんです。バーンシュタインのエース様である今の私には、ね」
今期だけだろうけどね、エース様。
何しろ、上位二人の戦歴がファームポイントが加算されるクレストリーグで、二人しか居ないから。
来期。ディビジョン1から誰かが上がってきたら、ナンバー3に降格は間違い無い。
でも今期のうちなら、この子の我が儘を聞いてあげる事は出来る。
聞くだけなのであって、通るかのどうかは別問題だけどでも。
ボブやオーナーに話を出すことくらいは、今の私になら。出来る。
「ありがとう。でも、……今は、いい」
「アリエル? 身体流してオーナーのところに行くよ、お屋敷の車寄せで、ボブを待たせるわけには行かないだろ?」
「はい、ネイパー」
「私達も、今日の練習終わりました!」
「二人のお着替えも用意してあるよ!」
「そうかい。……なら、一緒に行こうか」
ネイパーと私は、一塊になった少女達を引き連れ、お風呂へと向かう。
そしてその後ろ、ちょっとだけ距離をとってもう一人ついてくる。
――今日はみんなと一緒で良いんだ。
アーマーパージをやっちゃったから、しばらく口も聞いてくれないと思ってた。
前に、
――あんな事してまで勝ったってさ、みっともないだけ。バカじゃ無いの? ……きらい!
って言われて。
――私に他の勝ちかたなんか、ないんだよ……。
って、だいぶ凹んだのを覚えている。
ふむ。でも今日はキチンと会話が成立する。
どんな心境の変化があったんだろう。