表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦う遺伝子 ――すり鉢の底の淑女――  作者: 弐逸 玖
ステイブル・オブ・バーンシュタイン
10/43

微妙な立場とお年頃

「二人共、着替えたあとで屋敷の玄関前で会おうぜ。九十分後で良いか?」

 寄宿舎玄関前の車寄せに、クルマを一旦止めてそう言うと、ボブはそのまま走り去る。


「ネイパー、大丈夫なんですか?」

「明日には良くなる、大丈夫。ありがとう」

 上背があってガタイもそれなり。ウェイブのかかった赤く長い髪をゆらして、姉御肌の彼女にはちょっとギャップのある童顔が、ニコッと微笑む。


 棄権したネイパーと一緒にバーンシュタインの本拠地に戻った。

 要はオーナーのお屋敷の隣、四階建てのかなり大きな建物。


 一階は試合形式以外の練習が出来る練習場。二階は食堂とお風呂、談話室などの共用スペース。

 三.四階は居住スペースになっていて各階、個室が40以上。


 我がマイホーム。

 要するに破戒淑女ジェノミレディ約40人強が暮らす宿舎。

 数が多いのは戦女じゃない子達も居るから。


 勝利者インタビュー? うんまぁ……。あんなモンでしょ。




「お帰りなさーい!」

 中学生ジュニアハイくらいの女の子達を頭に十人ほどの女の子に出迎えられる。

 全員出て来たな。……あぁ、もう。練習は終わりの時間だもんね。

「ネイパー、今日はどうしたの? 大丈夫?」

 みんなネイパーの廻りに群がり、年少の子は抱きついて心配そうな声を上げる。


 現在二十二のネイパーは、歴史の浅いバーンシュタインではもっとも年上。

 クレストリーグに四年在籍し続けてるエースで、一番のベテランでもある。

 私も含めて戦女みんなのお姉さん、お母さん的ポジションだ。

 ……多少の無理はしてるんだろうなぁ。とは思う。


「みんな優しい子ばかりで私も鼻が高いわ。大丈夫、明日には元通り」 

 ネイパーは昔、私がここに連れて来られたくらいの子の頭を撫でる。




 “発生”の経緯は複数あるにしろ、破戒淑女ジェノミレディとして生まれてしまったら、普通の人間としては生きられない。

 途中から形質の発現した私はそれを身をもって知っている。


 名前からも分かる通りに、基本的に女性にしか発現しないその能力。

 例えば。


 クルマにはねられても吹き飛ばされるだけ。被害としては洋服が破れる程度。

 ドアにカギのかかっている事に気が付かず、“うっかり”ドアノブを引きちぎる。

 本気でダッシュすると突如姿がかき消え、鋪装された地面に足跡が残る。

 かつて自分がやったことを思い出す。


 そんな人間が、もしも一般人とつかみ合いのケンカになったら。

 ……そもそも。それを人間と呼んでいいのかどうか。



 始めからジェノミレディとして“作られる”もの、そして“自然発生”のものも含め、普通は生まれる前に既にわかっている。

 だから生まれた直後にミレディバトル協会が“回収”し、その後、ステイブル32ヶ所のいずれかに“隔離”される。

 保護では無く隔離されるのだ。一般の人間が危険だから。


 ステイブル自体は、だからミレディバトル出場選手の所属先である前に、本来の役割は隔離施設。

 オーナーはもれなく生化学を専門にする研究者。

 ウチのオーナーも見た目は貴族の若旦那みたいな感じだけれど、そもそもは学者先生だ。


 成長の過程で、突如形質が発現する斑女まだらめは、だから悲惨だ。

 突然家族から引き離され、名前も取り上げられて、特殊な人間の集まる隔離施設に放り込まれるのだから。

 ……自分が特殊だ、と言う自覚も無いまま。


 ネイパーに群がる彼女たちを見る限り、そんな背景なんて微塵も感じないけれど。

 これは素直な良い子達ばかりだ、と私が知っているから。なのかも知れない。


 で、当然。数が居れば、素直じゃ無いヤツも居る。

 少し離れてこちらを見る、その素直じゃないヤツと目が合う。


 金髪を短くまとめて、でも前髪だけはちょっと長めにして。

 戦女の候補生としては、少し細く見える手足。

 子供と大人の混ざった独特な時期の少女。

 ……私だって四つほど上。と言う事でしか無いんだけど。



「お。出て来てくれたんだ」


 そう。孤立しがちなこのを構いたくて。

 でもどうして良いかわかんなくて、ボブに聞いた。


 ――積極的に声はかけてやれ。但し変に特別扱いはするな。

 どうしろって言うの? 当初はそう思った。

 要するに挨拶でもなんでも良いから、普通に声かけろ。ってことなんだよね。



「……別に。今、練習終わっただけ。……勝ったね」

「ありがと。今日は見ててくれたの? あんまりカッコ良くなかったね」

「勝ったヤツがつよい、今日はアリエルがエラいのに。……なんで黙ってたの?」



 インタビューが会話の糸口になったか。

 面白くなかったけど、結果オーライだな。

 今回は許してやる、クソ記者ども。



「前に、思ったことをそのまま口にだしてみましたが……。二試合ほど、出場停止になりました」

「アイツ等、意地悪でズルくてエロいヤツばかり。……キライだ」


 ……そこは、凄く同意する。アイツ等はおっぱいとお尻以外は興味がないくせに、エラそうにしてるからね。

 何で記者、男ばっかりなんだろう。


「でも、エリィさんも今後、勝ったらやんなきゃいけないんですけど。その辺はどのようにお考えでしょう?」

「……勝たなきゃ、要らない。試合、出ないから関係無いし」



 この、懐いているのか嫌われてるのかもう一つわかんない少女、エリィ。

 彼女は斑女まだらめ、六才まで普通の女の子だった。

 ただでさえ珍しい斑女を、二人も抱えてるステイブルはバーンシュタインだけ。


 廻りが拒絶しているわけじゃ無い、むしろ気にかけてるんだけど。

 彼女は未だに自分で距離をとっている。


 でも、同じ斑女である私とだけはちょっとだけ。

 ほんの少しではあるけれど、距離が近い。

 去年クレストに昇格して以来、その距離がすこし開いた気がして気になってた。

 きっかけはどうあれ。私の話にのってくれるなら、上々だな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ