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戦う遺伝子 ――すり鉢の底の淑女――  作者: 弐逸 玖
クレストリーグイースター ピリオド22 ゲーム11
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アリエル

「ネクスタか。……強いけど、やり様は色々ある。キリュウインには悪いけど、アイツはアホだから、ね」

 だからといって、あまり時間をかけると不味い。

 何かの拍子で調子に乗せたらかなり面倒になる。


《20 minutes before entry. The next "milady" must be ready within 10 minutes.》


「ウチの制服にそこまで不満は無いけれど。ネクタイ、邪魔なんだよなぁ」

 場内放送が響くロッカー室。着ている服を下着含めて、全て脱ぎ捨てる。

 ここからは、女の子のフリをする必要は無い。


 脱いだ服は全部、無造作にロッカーに放り込む。

 帰ってくる頃には全部新しいのが用意されてるからね。

 汚れてない限り、気にする必要なんか無いのだ。


 鏡に映る自分の姿。今日もぱっとしないな、私。

 身長は若干だけ標準より高い。

 結構鍛えてるはずなのにそうは見えない手足と、標準にはちょっと足りない胸。


 でも、お尻のラインは昨シーズン終わり頃から、多少セクシーになった気がする。

 栗色の髪と焦げ茶の瞳はそこそこお気に入り。

 




『……はい。変わりまして、未だ第九試合の直後、ダメージを受けたフィールドの整備を進めるAコートです。次は本日の第十一試合。昨シーズンは実力が人気に追いついていない、とシーズン後に酷評された“徒手の狂犬”こと、アリエルがこのAコートに登場です』


『それでも戦績を見れば、実際そこまで悪くも無いとは思うんですが。でも、今日の時点で状況によっては一気に四位くらいまで上がれる。勝ち点的にも今期は良い位置につけてますよ』


『そして本日の相手は前回、今季初の最終試合に臨み、大逆転劇を演じてミレディバトルファンの度肝を抜いたネクスタ。昨シーズン昇格組同士の対決です』

『前回、大荒れでしたからね。五分以上KOを買ったひとがほぼ居なくて、配当が一〇〇倍、超えたんでしょ? 単純勝利でも三割でしたからねぇ』


『112.72倍は今季のリーグ最高ですが、そもそも100倍以上というと、直近データでは……。ほぉ。東クレストでは6年前まで遡らないと、ありませんね。地区のトップであるクレストリーグでは50倍で大荒れ、と言われるわけですが、どれほどの衝撃であったかの一端が、この辺のデータでもうかがい知れます』


『ネクスタは毎回、大技狙いでくるんですが、なかなか有効打になりませんからね、あたってもポイントに繋がらない。前回も動き、悪いように見えたんですが後半五分過ぎですね。初動はいつもの大振りとも見えたんですが、全て綺麗にハマって繋がった。完全にクレストは越えて、プレミアリーグクラスの連続技でした』




「……ウザい。実況放送を控え室に流す意味あるの? ……毎回々々」

 ゲン担ぎ、なんてガラでも無いと思いつつ、

 ――パチン。

「ロック。……確認」


 全裸からまず最初は唯一の防具。ガントレットを左腕に填める。

 何かの防具を付けるか持つか。そう言う規則になっているから左腕だけ。


 どうせネクスタは日本刀カタナソード、不器用だから他の武器は使えない。

 初手を止めれば隙ができる。

 その為に今日はちょっとだけ特別仕様。やいばを止めるツノがついてる。

 アイツは臨機応変に対応出来るタイプじゃ無い。


 いきなり上手く引っ掛けて、カタナを折れれば開始直後に勝ちが見えてくる。

 ソードストッパー、練習ではあんまり上手く行かなかったが、どうだろう。なんかの役に立つかな……?




『ちなみに前回の予想、あてておられるんですよね。ネクスタの五分以上KO勝利。この番組の解説陣では唯一、しかもオプションボックスの、高難易度とフィニッシュの加点までドンピシャ、なんと五三倍、的中でした』

『正直外したと思ってました、剣を捨てての打撃三連から最後に投げでノックアウト。なんてそこまでは読み切れない、いくら何でも』


『その、ネクスタを擁する、東地区のミレディステイブルとしては老舗と言って良いでしょう、キリュウインと。そしてステイブルとしては同門、師弟対決の様相を呈しています、新興バーンシュタインのアリエルがぶつかる、と言う次の試合ですが』


『これ、ファンとしては面白い試合ですよ。今季、キリュウイン陣営は彼女以外は調子、悪いからね。一方のバーンシュタインは主戦場がディヴィジョン1で、クレストリーグには二人しか居ませんが、ステイブルランクでは六位に付けてます』


『アリエルとネイパー、二人の勝率平均が六割五分なんですが。負け試合でも引き分けに持ち込むネイパーと、悪い流れををひっくり返せるアリエル、良いコンビです』

『上位二人の勝ち点を見る、と言う規定で所属が二人。両方調子が悪い、と言う訳には行かないからね。ここ数試合は二人共調子が悪そうなんだけど、それなりに踏ん張ってるね』


『実践練習場をバーンシュタインが、キリュウインから借りているカタチになってます。オーナー同士も師弟の間柄です』

『選手傾向は両方パワー系かスピード系、そこに結構細かい小技が絡んでくると言うところまでは似てますが、若干スピードにふっているのがキリュウイン、テクニカルな部分を重視するのがバーンシュタイン、という感じですね』


『その辺のお話ではキリュウイン、若干優位なのではありますが。毎回、素直に勝たせてはもらえない感じですね』




「キリュウインの大旦那は、勝ち負けなんかどうでも良いと思ってるわよ。むしろ負けろ、くらいに思ってるんじゃないの?」


 あの人はそもそも成績が良かろうが、全国リーグへ出て行くつもりが無い。

 過去。プレミア昇格条件を満たした戦女いくさめは、いずれも昇格時にステイブルを移籍している。

 現場で全試合を観ないと気がすまない、と言う面倒くさいおじいさんなのだ。


 パンツは履くわけじゃ無くて被せてこれも、――パチン。両脇でロックする。

 まぁ、鋼鉄のパンツなんか普通に履けるか!

 って言う話だけれど。

 ……なれるまでは“色々”挟まって、比喩で無く涙が出たもんだけど。


「その辺はバーンシュタイン(うち)も大差ない、か。オーナーは純粋に、勝ち負けだけ見て喜んでるもんね」

 現場の私達はともかく、トレーナーがかわいそうな気がする。


 ブラには肩紐は無いが背中側から完全フィット。

 まあ、鋼鉄の肩紐なんか。あっても困る気がするが。

 実際、そう言うデザインもあるけれど、その辺は本人の趣味の部分が大きいんだろうね。


 違和感があったら戦えない、逆に言うと邪魔にならずに気に入ってるなら。肩の部分にも、追加装甲が増えるって事になる。

 私は他に取り柄がないからスピードを阻害するモノは、付けたくない。


「なんか今日は少し合わないな。まさか。――おっぱい、縮んだ……?」

 もう一回外して装着し直し。今度は大丈夫。

 縮んでない、と思う……。


 フロントにロックがあるのは可動部分をなるべく少なくするためと、そして可動部分への攻撃のヒットを、視界の中で防御するためでもある。

 私の仕様は、腋から後ろは完全に一枚の板を湾曲させたもの。


 ブラ、パンツ、そして左手の籠手。全てスカイブルーに金の縁取り。

 そしてバーンシュタインの紋章がブラの左胸に。

 一試合やったら傷まみれでボロボロになっちゃう。申し訳無いから、私はここに書くのはやめて欲しいのだけれど。


 ほぼ本物と同じ意匠で細かい部分まで書き込まれているし、試合が終わると結構なお金をかけて全部修復している。

 ここだけは、オーナーの拘りどころが良くわからない。



 肩よりちょっと長い髪をひっつめて後ろにまとめ。

 ブーツを履いてパンツの金具に、【許可なく解封禁】と書かれたテープでさやとつながれた、刃のついてないナイフ。

 そのさやを、――パチン。パンツの定位置に装着。

 ミレディバトルを戦う戦女いくさめ、その正装の完了である。

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