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2:TS魔法少女☆デビュー戦!! ~パラディン事故を添えて

予め言っておくと、ホワイトデーの投稿にしては、甘い要素が、無い。

 俺はTS魔法少女である。名前(マジカルネーム)はまだ無い。


 今回がデビュー戦だけど、そのまま引退戦になるかもしれない。

 何故なら、今から死ぬかもしれないからだ。


 敵は、一つ目の巨大な眼球に無数の触手が生えた、異形の生物。

 触手の一本に、俺の足がガッチリ拘束されていた


 このまま何度も地面に叩き付けられたら、そのうち魔力切れになって死ぬだろう。

 あるいは成人向け(ヒロピン)作品みたいな目にあって、人として死ぬだろう。


 頼みの魔法のステッキは、さっき奪い取られてしまった。

 死んでも手放すなとは言われていたものの、手の骨を粉々にされては握るも何もない。


 『一つ目』は、俺の体を高々と振り上げた。

 性的暴力か物理的暴力か、どうやら後者が選ばれたようだ。


 グッバイ現世、できれば男に戻って死にたかった。


 と、思ったものの、覚悟していた衝撃が襲って来ない。

 何が起きたのかと、そっと目を開けたら。



 俺は、お姫様抱っこされていた。




  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 ☆                     ☆

 ☆    魔法少女、仮免デビュー!!    ☆

 ☆                     ☆

 ☆ イケメン騎士さまと運命の出会いですか? ☆

 ☆                     ☆

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「大丈夫、かな?」


 魔法少女の姿の俺は、騎士姿の男に、お姫様抱っこされていた。


 騎士。

 そうとしか呼べない風貌。

 全身を覆う白銀の鎧。

 背負った大剣。

 兜だけは装備しないのが、彼のスタイルと聞いている。


 彼。

 炎のように癖のある赤毛。

 作り物めいて整った目鼻立ち。

 どう見ても作り物ではない、意思の輝きが宿った瞳。



 『聖騎士』赤井太陽(パラディン)。


 『剣鬼』赤井太陽(ソードマスター)。


 『盤石の第三位(ワン・オブ・)』赤井太陽(トリニティ)。



 人類が保有する個としての最高戦力、その内の一人が、そこに在った。


 俺をお姫さま抱っこしたまま、赤井太陽は静かに着地した。

 二人分、鎧と剣を含めたら三人分はあろうかという重量なのに、あまりに静かな着地だ。


「大丈夫かな、お嬢さん?」


 出来の良い顔が近い。とりあえず下ろしてくれ。

 返事代わりに身をよじると彼はすぐに察して、俺を下ろしてくれた。


「えーっと。助かりました、先輩」


 ランキング上位の英雄殿への対応は、これで良かっただろうか。


「どういたしまして、お嬢さん」


 爽やかに微笑む赤毛の騎士。

 これ、もしかして作り笑顔でなく素の笑顔なのか、すげぇな。


「あー、先輩、申し訳ないんですけど、俺、女じゃなく男からのTSっす」

「そうか、それは失礼した」


 以外そうにも見えないのは、見た目と中身の性別が一致しない戦闘要員を見慣れているから、なのだろう。何しろ踏んだ場数が違う。


「ともかく、どこか怪我は無いかな?」

「怪我といえば、右手が、……ッ!?」


 粉砕された右手は、いつの間にか治っていた。


「余計なお世話かもしれないけど、治しておいたよ。見えない場所で痛む所は無いか?」


 しきりに右手を閉じては開いてを繰り返すも、何の違和感も無く完治している。

 この騎士様、回復系スキルも高レベルなのか。


「大丈夫っす。ありがとうございます」

「それは良かった。後はこれを」


 差し出されたのは、『一つ目』に奪われたはずの魔法のステッキ。

 いつの間に。


「これ……。はい、俺のです。いつの間に」

「君を助けた時、ついでに」

「ついで、ですか…」


 ステッキ、奪われて即、触手のうねりに隠されたはずなんだけどなあ。



「さて」


 赤井太陽の目が鋭く研ぎ澄まされ、俺とは違う方を向いた。

 視線の先には、無数の触手と一つの巨大眼球で作られた怪物。


「アレの戦力分析を聞こう」


 整っているからこそ、戦場モードの顔は迫力がある。


「えーっと。触手は打撃耐性あり、斬撃が有効だけど超速再生。正面からの遠距離魔法は無効、たぶん視線で魔法キャンセルする系っす」

 これまでの戦闘を思い出し、分かっている事を並べていく。


「あの大きな眼球は?」

「すいません、そこまで届きませんでした。近くまで寄った感じだと、皮膚は触手の何倍も硬そうっす」

「謝る事は無いよ。……ふむ。触手の先端には目が無い、か。『名前を言って(スズキ・)はいけない怪物(ドゲザエモン)』の亜種といった所かな。おっと」

「うっわ」


 『一つ目』の足は遅い。十分な距離があったはずだが、手近なコンクリートの塊を投げ付けてきた。

 投石の速度は大したことが無かったが、塊のサイズが一抱え分もあってプレッシャーがすごい。


「触手が再生するということは、あの露骨に大きな目玉を叩くしかないが……。君、『飛べる』か?」

「はい、いけます。飛行魔法はキャンセルされなかったっす。放出系だけ無効とかですね。」

「魔力に余裕は?」

「半分以上残ってます。大技もいけます」

「重畳」(よろしい)


 赤井太陽は、大剣を正面に構えた。


「道は、私が作る。触手の森を吹き飛ばすから、最短最速で奴の『眼球』をやってくれ」


 アンタが全部やった方が早いのでは? とは言えなかった。

 こちらを見る顔が、純粋に信頼で満ちていたからだ。



 何で、初対面の相手を、そこまで信じられるんだか。


「『聖騎士』(パラディン)の持ち技に、遠距離物理があるとは知りませんでしたよ」


 偉大な先輩の言葉が嬉しくて、にやける顔を隠そうと軽口を叩く。


「なに、さっき何本か斬った感触だと、触手だけならいける」

「ですか。では」


 ステッキを構える。

 短距離走のスタートめいた、前傾姿勢になる。


「こっちで勝手に合わせるから、好きなタイミングで飛びたまえ」

「はい。……赤井さん」

「何かな」


「万が一の時は、俺ごとで構いませんので」

 後の事は、お願いします。


 一瞬だけ、彼(パラディン)の表情が歪んだ。

 そういう顔も出来たんだと思う間も無く、戦場の顔に逆戻りしたが。


「やれるさ、君は。だが、万が一は引き受けたし、背中も任せたまえ」


 今度は、こちらを鼓舞する笑み。

 元の作りが良いとどんな顔も似合うなあと思いつつ、その気持ちは表に出さないよう、前を見据える。



「……行きます」


「ああ」



 目指すは、怪物の眼球、ただそれだけ。


「『飛翔』(フライト)!、『加速』(ブースト)!!」

 紡ぐ魔法の言葉。

 包まれる無重力感。


「暴風剣!」(ストームスラッシュ)

 響く剣技の言葉。


 触手の海が、大きく割れた。

 俺と『一つ目』の間には、もう何もない。


 心おきなく、飛ぶ。



 ふと、嫌な予感。



 下を向いた瞬間、地面が割れた。

 極度の集中で、スローモーションになっている視界に映る、地面から突き出してくる触手。


 伏兵。


「なぁ(舐)! めぇ(め)! るぅ(る)! っな(な)!!」

 その声は、口に出していただろうか。


 間延びした主観時間なら、ギリギリ余裕。

 矛盾してるような気がするけど、それはそれ。


 肉薄した触手を。

 蹴りつけて。

 踏み台に。


「『最加速』(アフター・バーナー)ッ!!」


 切り札その一、超短時間の爆発的加速。

 加速でかかる負荷で全身の骨がきしむが、我慢。

 上段にステッキを構え、怪物に肉薄。



 その時、俺は見た、気がする。


 『一つ目』の眼球を、半透明の硬質な膜が覆ったのを。



 次の瞬間、大きな目蓋が閉じられた。


 何が起きた?

 俺は何を見た?あの覆いは?斬れるのか?何が起きた?目蓋だけでも硬そうなのに?何を見た?さらにもう一枚?いけるのか?半透明も斬れたとして?何が起きた?その下の眼球を?さらに下に存在するはずの?何を見た?弱点まで届くのか?いけるのか?



 そこから先は、無我夢中。


「魔法杖(ステッキ)! 剣モード(ソード)から(・トゥ・)槍モードへ(ランス)!!」

 上段に構えたステッキを、眼前に突き出す形に。


 ゆっくりと進む時間が、今はもどかしい。


 間に合え。


 構えが間に合ったとして、武器モードの再設定は間に合うのか。


 間に合え。


 巨大な眼球は、もう目の前。


 ステッキの力場が、刃を思わせる薄い三角形から、針先を思わせる鋭い円錐形に変わった。

 気がする。



 接触。



 深々と突き刺さるステッキ、と、俺の両腕。


 吹き出す青い体液。


 やったか、と思いかけたが、出血が少ない。

 突き込んだ両腕も締め付けられるような感触があり、内部の損傷は大した事がなさそうだ。


 直感を裏付けるように巨大な目蓋がうごめき、両腕を逃すまいと締め付けてくる。


 …。


 ……。


 仕方ない。


 気が進まないけど、他に切れるカードが無い。


 覚悟を決めて、深呼吸。



「『全力全開(マナバースト)魔力炸裂』(・フルバースト)ぉぉぉおお!!!!」



 切り札その二、接触しての爆破攻撃。

 消費魔力に対して驚くほど効率よく爆発力が引き出せる必殺技。


 なお、対象に触れていないと行えない、自爆技めいた欠陥品だったりする。


 頼むぜ、『一つ目』の目蓋、と透明な防御膜。今度は俺を守ってくれよ。

 あと、視線の魔法無効、眼球を破壊しても生きてるとか無いよね?




   閃  光  。




 意識を取り戻すと。


 俺は、お姫様抱っこされていた。



 またかよ。




 ■ ■ ■




「しかし、君も無茶をしたね」


 ズタボロの俺を地面に下ろした『聖騎士』は、治癒魔法を施しながら、そう言った。


「いやぁ、あのバケモノ、思ったより固くて。このままだと殺しきれないかなー、って」

 あと、死ぬにしても、自爆の方が残された者への負担が減るかな、とかも少し思ってた。


「…………。……そうかい」

 これは、余計な考えまで見透かされてる、かな?


「まあ、自爆前までの動きはすごく良かった。不意打ちへの対応、相手の防御を見ての武器の切り替え。あの一瞬でよくやったものだよ」

「お褒めにあずかり光栄っす、先輩……。痛(ぃっつぅ)!」

 褒められたのが嬉しくて笑みがこぼれかけたが、その拍子に傷が痛んだ。


「これ、まだ途中なんだ(治してる)から大人しくしてなさい」

「ウっす、赤井先輩。」

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね。僕の方はもう知ってるか。赤井太陽だ、よろしく。……君は?」


「俺は。……」


 ふと、思い出した。

 今日が魔法少女のデビュー戦の俺は、アルファベットと数字を組み合わせた、パスワードめいた名前しか与えられていない。


「?」


 小首をかしげ先を促す『聖騎士』赤井太陽。


 さて。

 どうしたものか。


「俺の」


 この戦いだけで何度も助けられた恩人に、味気ない、記号めいた名前を名乗るのもどうかと思ったので。



「俺の名前は、――――」



 TS魔法少女になる前の、男としての、本名を名乗った。




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