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これしか浮かばねえ


 月曜日となった。


 夏休み期間中、平日は詩冬が朝食を用意することになっている。といってもパンやシリアルが多く、詩冬がやることといったら卵やベーコンを焼いたり、スープなどを温めなおしたりするくらいだ。


 朝食の準備ができたので、食卓で皆を待つ。

 深雪と卯月がやってきた。


 詩冬がイラッとする――。

 二人ともデリカシーがないなぁ。髪くらいかしてから来てほしいものだ。


 ちなみに夜でも眠ることのない柚香は、朝っぱらからどこかへフラフラと出かけていることが多い。今朝も単にそうなのだろうか……。


 柚香を除く三人で食べ始める。


「なあ、卯月。玖波究院の海道さんの連絡先、知ってるか?」

「わざわざ携帯電話で連絡とったことはない。だから知らないし、登録してない」

「そっかぁ」


 会話を聞いていた深雪が首をかしげる。


「それがどうしたの?」

「ううん。ただ訊いてみただけ」


 詩冬は決意した。これから海道と会うために玖波究院へ行こうと。


 むろん柚香のことを相談するためだ。柚香には消えてほしくない。

 霊についての研究をやっているのは、日本ではたぶん玖波究院くらいだろう。


 だが高いリスクを孕んでいる。詩冬自身が世にも珍しい霊的陽性の人物であり、研究用サンプルとして彼らに欲しがられているのだ。


 それでも行かずにはいられなかった。

 朝食を済ませ、一人で家を出る。


 玖波究院へ行く前に、カフェ・ラナへ寄ってみることにした。

 元研究員の華之江とも相談してみようと思ったのだ。


 うまくすれば海道の連絡先も聞きだせるかもしれない。

 もしそうなれば、わざわざ危険な玖波究院まで行かなくても済む。



 カフェ・ラナに到着。

 残念ながら店は閉まっていた。


 別に朝早すぎたためではないようだ。

 入口に『本日臨時休業』の札が掛けられている。


 ――何もこんな日に。

 仕方なくそのまま桃園郷へと向かった。



   ◇



 電車で桃園郷駅に到着。

 ハイキングでもないのに丘をのぼっていく。たった一人で。

 大自然の美しさなど、いまの詩冬には関係ない。


 玖波究院の門の前までやってきた。海道はそこにいるはずだ。

 そこで腕を組んで考える――。



 ああ、どうやって海道さんと会えばいいんだろう?


 施設内にこっそり侵入?   ―― オレのやり方じゃない(×)

 海道氏が出てくるのを待つ? ―― 日が暮れてしまう(×)

 普通に正面から入っていく? ―― これしか浮かばねえ(○)


 よし、やってみるか。

 オレの顔なんてイチイチ覚えていないだろう。

 びくびくしてたら疑われる。堂々としていれば案外バレないものだ。



 門を通り抜け、正面玄関に入っていく。

 受付窓口の前に立つ。受付の若い女と目が合った。


「すみません。海道一登さんに面会したいのですが」

「お名前をいただけますでしょうか?」


 実に事務的だった。


「さ、更科です」

「アポイントはとられていますか?」


 アポイントときやがった。

 そんなものをとっているわけがない。


「えっと……。はい、約束しています」


「そちらにおかけになってお待ちください」


 受付窓口の前のソファーに腰をかけた。

 十五分ほど待たされたあと、白衣を着た中年の女がやってきた。


 海道ではなかった。

 詩冬は急に不安に駆られた。


 中年の女がじっと詩冬の顔を眺めている。

 眼鏡をかけているが、例の白っぽいものではない。


「応接室へ案内します」


 詩冬の返事を待つことなく、くるりと背中を向けた。

 そのまま歩いていく。


 詩冬は中年の女についていった。


 応接室に通され、ソファーに腰をかける。

 中年の女は応接室から出ていった。


 海道が来るのを一人で待つ。

 応接室には窓がなかった。イザというときに逃げられそうもない。


 やがてガチャッと音がした。


 応接室のドアが開けられたのだ。ノックなどなかった。

 十数人の男たちがいっせいに入ってくる。ドドッと押し寄せてきた。


 しまった、と思ってももう遅い。

 詩冬のことはバレていたようだ。


 たちまち囲まれてしまった。

 その中から長髪の男が前に出る。


「驚いたよ。サンプル候補クンが自ら戻ってくるとはねえ」


 ニヤニヤと笑っているが、この長髪の男は何者なのか。

 その男が他の者たちに指示する。


「彼を取り押さえてくれ。逃げられないようにカセに括るんだ」


 たちまち詩冬は手足を、縄とカセで拘束された。


「くっそ、身動き取れねぇ」


 長髪の男が周囲の男たちに告げる。


「皆、よくやってくれた。もうこのサンプルは逃げられまい」


 大勢の男たちは長髪の男を一人残し、ぞろぞろと応接室から出ていった。嵐のように騒然としていた応接室は、やっと静寂をとり戻した。だが詩冬は捕らえられている。


 歯を食い縛る。

 考えが甘かったようだ……。


 正面には長髪の男が立っている。

 詩冬は男の顔を見あげた。


 長髪の男が溜息を吐く。


「困るんだよね。こんな堂々と来られたら、君を助けようがないじゃないか。君の顔はここのみんなに知られているんだよ」


「えっ?」


「俺は海道の同僚ってところさ。君を助けてやりたいとは思うけど、こうなっちゃねえ、ちーと難しいかもな。でも卯月ちゃんの居場所については、死んでもここの連中に話すんじゃないぞ。どんな拷問を受けようともね。君も男だというのなら、一人の少女の命を体張って守ってみなよ」


 詩冬は鳥肌が立った――。


 ちょっと待ってくれ。この男は何を言っているのだ?

 てか、オレは拷問を受けて殺されるのか。そんなことって。


「さてと。君を試験室に運ばなければならない」


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