表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

08-新たな力と泉の魔物

色々あって遅れてしまいました。申し訳ありません。

《ブラウンウルフの毛皮》

品質未鑑定

草原や森に生息するブラウンウルフの毛皮。

一般的に出回っている毛皮と強度はさほど変わらず、手触りも少しゴワゴワしている。

基本的に価値は低い。


《ブラウンウルフの牙》

品質未鑑定

草原や森に生息するブラウンウルフの牙。

大型の肉食獣に比べれば小さいが、それでも強度はそれなりにある為、武器の強化や装飾品等にも使われている。


障気に感染していた影響だろうか?4匹は最後まで逃げずに襲いかかってきたが、アニキの奮闘もあって何とか倒すことができた。

資料には障気が馴染んで禍獣化が始まると素材も変質すると書かれていた。

かなり凶暴化しているように感じたのだが、普通の素材を落としたと言うことは4匹はまだ感染して間もない個体だったらしい。


「コイツらが来た方角に向かえば、一気にボスに近付けるかも!」


「確かにそうかもしれんが、大丈夫なのか?」


テンションを上げるイツキとは対称的に、アニキは少し不安そうだ。

確かに、このウルフ達の来た方に向かえばブラッディベアには近付けるだろう。だが、同時に凶暴化した動物達に襲われる頻度も上がるはずだ。


「そんなの全部経験値に変えてやれば良いんだよ!」


ハイテンションにイツキは即答する。

言い方はバカっぽいが、確かにイツキの言う通り目的が凶暴化の原因そのものである以上、どうあがいても戦うしかない。

だが、今のままでは増加する敵の攻撃に耐えられるかは正直怪しい。さっき4匹を相手にした時も、アニキが盾で庇ってくれなければ私は深傷を負っていた可能性が高い。


「チバ、どうする?あまり敵が増えると守りきれなくなるぞ?」


アニキが心配そうにこちらを見る。敵が増えて一番危ないのは自衛する能力が低い私だ。


「…行ってみようアニキ。少し試してみたい事もあるしな。」


正直悩む質問だった。だが、少し怖いが私は進むことに決めた。

いい加減私も足を引っ張ってばかりでは無いと言うことを証明してみせなければいけないだろう。

根拠も自信も無いが、それでもあらゆる手を尽くして自分に出来ることを示して見せる必要がある。二人の為だけじゃなく、自分自身の為にも。







『称号《魔力の使い手》を獲得しました。』


『技能《属性変換・闇》を獲得しました。』



今の力が足りないのなら、そこから何とか成長するしかない。

私はひたすら魔力にイメージを練り込むことで、どうにか魔力に闇の力を持たせることに成功していた。

最初から《闇の心得》があるのなら闇属性は自力で何とか出来るはずだと考えたのだが、修得できて本当に良かった。


森の奥は予想以上に敵が多く、大型の敵も出るようになってきたから全く油断できない。


「熊まで来たか、俺達は先に狼を片付けるぞ!」


「ちーちゃん、足止めよろしく!」


目の前に現れたのは数匹のブラウンウルフを従えたブラウンベア。

障気に感染した獣達がダラダラ涎を垂らしながら唸り声を上げる姿は脅威そのものだ。

魔見眼で魔力を見てみると、障気が混じるどころか完全に変質し、全ての魔力がドス黒い色に変化している。どうやらコイツらは禍獣化が始まっている個体のようだ。


体長が2メートル近くあるブラウンベアは元から強敵なのだが、今回の相手はさらに手強そうだ。

乱戦状態でこの熊を相手にするのは確かに不味い、私は気を引き締めて魔力を練り上げる。


「暗く深い闇に閉ざせ……夜雀!」


突き出した右手に集めた魔力が私の声に呼応するように闇の塊へと変化し、そこからさらに小鳥を形作り敵へと飛び立つ。

飛び立った鳥達はブラウンベアが振り回す腕をすり抜け、その顔面に到達すると再び闇に戻り視界を黒く塗り潰す。

使いづらいと言われているらしい闇魔法だが、意外にも私は少なからず扱えるらしい。


「流石ちーちゃん、カッコイイ!」


「うるさいちーちゃん言うな!良いから集中しろ!」


視界を封じられ暴れる熊に注意しつつ、こちらを茶化すイツキに怒鳴り返す。

私だって別に好きであんな格好つけたセリフを言った訳ではない、ああやってイメージを言葉にした方が魔法の成功率や効果が高いのだ。


これは属性魔法を使うために色々試していて解ったことなのだが、どうやらこの世界で言葉が魔法に与える影響はかなり大きいようだ。

無言では必死にイメージしても中々闇に変換できなかったのだが、言葉にしたらすぐに変化の兆候が見られた。

そこからさらに試行錯誤した結果、どうやら魔力を練り上げながら発した言葉は、それだけで呪文のような物になる事が解った。

無論ただ言葉を発すれば良いと言うわけでは無い。より適切で相応しい言葉を選んだ方が効果が高くなり、不適切な言葉を選ぶと一気に魔力が霧散する程の悪影響がある。

それらの結果を元に私が作ったのが、この闇魔法《夜雀》だ。

最初はダークとかブラインドとか適当な感じでやっていたのだが、面白半分で暗闇の妖怪の名前を使ってみたら劇的に効果が上がったのだ。


「ガァァァッ!!」


ブラウンベアが闇を振りほどこうと暴れるが、闇はまるで張り付いたかのように頭から離れない。

これも色々試していて解ったことなのだが、魔法は魔力弾のように完全に自分から切り離してしまうと短時間しか効果を発揮できない。

だが、魔法に魔力を糸のようにして繋げておくと、手元から離した後でもある程度制御出来るのだ。

この糸を通してブラウンベアに張り付いた闇にイメージと魔力を補強し続けることで、私は単独で敵を半無力化することに成功した。

もちろん、少しでも集中が切れると接続が切れてしまうから注意が必要だ。


「チバの魔法が続いているうちにさっさと片付けるぞ!」


「そうだね!それじゃあガンガンいこうよ、お兄ちゃん!」


我ながら劇的に進歩したと思うのだが、それを平然と超えてくるのがこの兄妹だ。


「パワースマッシュ!!」


「必殺ビリビリ突き!」


アニキがオーラのような物を纏った一撃でウルフの頭を潰し、イツキが電撃を纏った槍でウルフを貫き感電させる。

イツキが使ったのは私と同じく属性変換だが、彼女の場合は攻撃力が高そうな雷だ。例のごとく私のやり方を見聞きしただけで覚えたのだが、彼女の場合はさらに武器に纏わせる事に成功している。

そして、アニキが使ったのは魔法とは全く別の技能だ。

そのままパワースマッシュと言う技能らしいのだが、どうやら一撃の攻撃力を上げる効果があるようで、ウルフより屈強なブラウンベアを倒すために気合いを入れて殴ったら出来たそうだ。

私が見る限り確かに魔力を使っておらず、本人が言うには体力の減りが早くなったらしい。どうにも肉体系の技能っぽい。


「これでラストッ!」


「あとは熊さんだけだね!ちーちゃん、やっちゃっていいよ!」


元々二人とも強かったのだが、技能を身に付けてからはさらに磨きがかかっている。

あっという間にウルフを片付けると、さっそくこちらに次の手を催促してきた。


「消費がでかいからあんまり使いたく無いんだけどな…」


確かに目潰しされた熊は闇雲に暴れて危ないから仕方無いのだが、個人的にこの魔法は好きじゃない。


「…魔角砲!」


私は扱えるギリギリの大量の魔力を練り上げる。


本来、個人が素手で扱える魔力量は多くない。

普通は掌に納まる魔力弾を作る程度の魔力が限度であり、それ以上の魔力を扱うには杖などの専用の魔力を留める媒体が必要になるのだが、魔呪族の場合は違う。

魔呪族である私の場合、杖がなくても頭の二本角が魔力媒体になるのだ。


「準備はいいよちーちゃん!」


「いつでも行けるぞ!」


イツキの槍が雷を纏い、アニキがオーラのような物を発動したのを確認した私は、練り上げた魔力を自らの角に収束し、黒い魔力弾に変えて一気に放った。

魔角砲なんて名前はつけてみたが、実際のところは単なる大きい魔力弾なのだ。


「ガウッ!?」


とはいえ、通常の魔力弾数十発分の魔力を込めている。

致命傷には程遠いが、目が見えないブラウンベアの体勢を崩すくらいの威力はある。


「サンダースピアー!」


「パワースマッシュッ!!」


体勢を崩したブラウンベアの隙を突いた兄妹の一撃がそれぞれ急所である胸部と頭を捉え、禍獣化ブラウンベアは成す術もなく倒れるのだった。



《禍々しい熊毛皮》

品質未鑑定

完全に障気に犯されたブラウンベアの毛皮。

通常のブラウンベアの物よりも高い強度を持つが、まだ障気の影響が残っている。


《禍々しい狼牙》

品質未鑑定

完全に障気に犯されたブラウンウルフの牙。

通常のブラウンウルフの牙よりも大きく鋭くなっているが、まだ障気の影響が残っている。


一応浄化されてるはずなのに、何だか危なげなアイテムが取れてしまった。まだ本番の相手じゃないのにこの有り様とは、なんだか先が思いやられる展開だ。


「チバ、まだいけるか?」


「正直キツいかな、そろそろ休憩しないと魔力も心もとない…」


アニキの問いかけに私は正直に答えた。体力も大分消耗したらしく、体も重く感じる。

派手に使った割には余裕はある気はするが、魔力もかなり使ってしまったはずだ。

さっき二時間経過の通知があったから、帰りの事を考えると少し時間が厳しいが、一旦休憩して体勢を整えなければボスに挑むなんて到底無理だ。


「でもさ、どこで休憩するの?この場で休む訳じゃないよね?」


イツキのいう通り、木々や茂みに囲まれたこの場所で休むのは難しいものがある。こうも視界が悪いと、いつ敵に不意打ちされるか解らない。

せめてもう少し視界の開けた場所でなければ、まともに休むことは出来ないだろう。


「なら、さっきから水の匂いがしているから行ってみないか?…近くに泉か何かがあるかもしれない。」


狼の能力で察知したらしく、アニキがそんな提案をしてきた。


「水場か……」


確かに、もし泉があるのならば、此処よりも視界は開けているはずだ。水を飲みに来る獣に遭遇する可能性はあるだろうが、そんなのは今更だ。


だが、水場と言えば魔物が現れるという道具屋の話を思い出す。

もし魔物が出るのなら、ボスと戦う前にそんなのは相手にしたくないが、此処はゲーム内時間で二時間は歩かなければ辿り着けない場所だ。

近場の水場という話だったし、恐らくは違う場所の事だろう。


「そうだな。じゃあ、行ってみて休めそうなら、そこで休憩しよう。」


ほんの少し迷ったが、こうして私達は水場を目指して歩き出した。






水の臭いがするというアニキの案内を頼りに私達が辿り着いたのは、透き通った綺麗な水で満たされた小さな泉だった。

人の手が入っているのか泉の周囲に背の高い植物は存在せず、青々とした草花が芝生のように生えているだけだった。


「あれ?あっちのほう何か道になってない?」


イツキの声に促されそちらを見てみると、軽自動車なら何とか通れそうな幅の道があった。


「…どうやら此処は水汲み場か何かになっているようだな…ん?どうしたチバ、急に黙り込んで。」


この時になって、ようやく私は此処が例の水場ではないのかという考えに至る事ができた。


地方の田舎育ちとはいえ、所詮私達は現代社会に甘やかされた日本人だ。

私達の感覚だと徒歩2時間はかなりの距離があるように感じてしまうが、車も無い徒歩が中心の世界でなら、歩いて二時間は十分に近場の範疇に入るのでは無いだろうか?


それに、私たちは此処に辿り着くまで禍獣の痕跡を追って道なき道を歩いて来たから二時間以上かかってしまった訳で、もし道が整備されているのならもっと早く辿り着けるのでは無いだろうか?更に言うなら、この世界には軽自動車は無くても、馬車ならあるんじゃないか?整備された道を馬車を使って移動した場合、此処までどの程度の時間がかかるだろうか?


「……ごめん、二人とも…私ミスったかも…」


完全に私のミスだ。少し考えれば解ることなのに、他の事に手一杯で頭が回らなかった。せめて二人に話しておけば回避できたかもしれないが、話したらイツキが暴走しかねないと思って黙っていたのが仇になってしまった。


「実は二人には言って無かったんだけど……」


此処は例の水場とは無関係かもしれないし、もし仮にそうだとしても、今からでも説明すれば魔物に襲われる前に何か対策出来るかもしれない。

そう思って直ぐに二人に事情を説明しようとしたのだが、そんな甘い考えはこの世界では許されていないようだ。


「許可無く我等の縄張りに立ち入るのは誰だ…」


声の主は泉の中から現れた。

直ぐ様反応したのはやはりアニキだ。私達を庇うように魔物の前に盾を構え立ちはだかる。


「おお、でっかいワンコだ!」


緊張する私達とは対照的に、イツキは目を輝かせた。


「我は犬ではない。誇り高き妖精族の守護者、ブルー・クーシーだ。」


意外にも律儀に応えた主は、イツキの言う通り大きな犬の姿をしていた。

クーシー…確かヨーロッパの神話や物語に登場する犬の妖精のはずだ。

私が本で読んだ記憶が確かなら、クーシーは手を出さなければ無害だが、一度牙を剥けば人間にとって恐ろしい脅威となる存在だったはずだ。


「アニキ、盾を下ろしてくれ…戦っちゃだめだ。」


クーシーが纏う魔力量を見た私はすぐにアニキを止めた。

見魔眼が捉えた魔力量は私達の軽く数倍はあり、明らかに私達とは格が違う。


「ふむ…野蛮に武器を振り回すだけの愚者では無いようだな。」


ゆっくりと尻尾を振りながらクーシーが低い声で答える。どうやら最悪の事態は一先ず回避できたようだ。


「見た目は可愛いのに声はダンディなんだね…」


「イツキ、ちょっと黙ってな…」


確かにイツキの言う通り、ブルー・クーシーの見た目は水色の巨大なゴールデンレトリバーみたいで可愛い。すごいモフモフで抱きつきたいくらいだが、今はそれどころでは無い。すごいモフモフだけど。


「……モフモフ」


「ちーちゃん、不用意に近付くと危ないよ?」


ハッ!?いつの間にか無意識にクーシーに近付いていたらしい、なんて恐ろしいモフモフなんだ!

そう言えば毛並みで思い出したが、クーシーは本来の伝承では濃緑色だった気がする。

わざわざブルーと名乗ってるなら、もしかしたらこの世界では複数のバリエーションがいるのかもしれない。



「早々にこの森から立ち去れば、今回は特別に見逃してやろう。」


今の所私達を攻撃するつもりは無いようではあるが、やはり友好的と言うわけでは無いらしい。

戦って勝てそうにないし、交渉の材料も思い付かない以上、大人しく言われた通りにするしかないのだが、そんな考えをイツキが受け入れる筈もなかった。


「無理!まだ目的の熊さんと戦ってないもん!」


止める間も無く返答するイツキ。一瞬襲われるんじゃないかと私は個人的にビクビクしていたのだが、クーシーの反応は全く予想しなかったものだった。


「ほぅ、貴様等ごときがあの堕ちて狂った熊と戦うというのか?」


忠告を無視した私達を咎めもせず、クーシーはむしろ興味深そうに聞き返してきた。


「そうだよ!ちゃんとギルドから依頼も受けてるし!」


「奴は貴様等のような駆け出しが相手するような雑魚とは違う、捨て駒にされているだけではないのか?」


クーシーの言葉は当然私も考えた物だった。だが、ギルドが何を考えていようとも、イツキにとっては関係無い。


「そんなの向こうが勝手に思ってるだけでしょ?私達が本当に勝っちゃえば良いだけの話だよ!」


渾身のどや顔と共にイツキはクーシーに答える。どや顔は若干ウザいが、確かにイツキの言う通りなのだ。向こうに何らかの悪意があろうとも、このクエストはギルドが正式に依頼を出し、それを私達が正式な手順を踏んで受領した事になっている。

私達が本当にターゲットを倒してしまえば、ギルドは規定にしたがって私達に報酬を出すしかないのだ。


「フッ、面白い。良いだろう!本当なら我が片付けてしまおうと思っていたが、特別に貴様等に獲物を譲ってやろう、存分に挑むが良い!」


「やったぁ!ありがとうクーシーちゃん!」


クーシーの言葉にイツキが嬉しそうにその首に抱き付く。 

元々妙な展開になっていたのに、イツキのせいで何故か更に妙な展開になってしまったようだ。とは言え、こちらとしても好都合な展開ではある。


「だったら悪いが少し頼みがあるんだけど良いか?」


「良いだろう。所詮は無謀な戦いだ、少しくらいなら手を貸してやる…」


こちらに興味を持ってくれたようなのでお願いしてみたのだが、思った以上にクーシーは私達に協力的なようだ。

折角の機会だ。別に悪い事をするつもりは無いし、たっぷりと手を貸してもらうとしよう。





クーシーの協力を得た私達は、ひとまず当初の予定通りに交代で休憩を取ることにした。

まず私が休憩に入ったのだが、どうやらクーシーの影響のせいか休憩中全く敵が来なかったらしいので、兄妹には一緒に休憩に入ってもらった。

休憩中に時計を見たら既に深夜と呼ぶべき時間になっていたが、普段はこういうのに口煩いアニキも初日と言う事で密かにテンションが上がっているのか、ゲームの続行に珍しく協力的だった。




「マジか…魔呪族って妖精族と仲悪いのかよ。」


「大きく見た場合はそうなるな。個人で見れば貴様や我のような例外はいくらでもいるが、魔術で精霊を縛る事を得意とする魔呪族に、我々妖精族が良い印象を持っていることは極めて稀だ…我等妖精族と精霊は兄弟のようなものだからな。」


兄妹を待つ間、私はブルー・クーシーと会話をして過ごしていた。

普通NPCとは此処まで複雑な会話は出来ないのだが、クーシーはどうやら独立した知能と思考を持ったユニークNPCらしく、普通に会話できてしまっている。

こういった人間同然の思考力を持ったNPCは最近のゲームでも滅多に登場しないものなのだが、こんな初期段階で出会ってしまう辺りにアナザーワールドフロンティアというゲームの底の深さを感じる。


「つまり術式魔法を使うのがよく無いって事か?」


「そうではない、術式魔法で精霊を強制的に従わせるのが問題なのだ。そう言う意味では妖精族は魔術師嫌いと言えるが…我の知っている術者は精霊を縛らぬように式を工夫していた。要は使い方の問題だ。」


初めはもっと色々クーシーに協力を取り付けようと思っていたのだが、難易度が下がりそうと言う理由でイツキに禁止されてしまった。

それで話すべきことも早々に片付いてしまい、こうして雑談しているのだが…このクーシー、昔は主である妖精と世界を旅していた経験があるとの事で、会話していて凄く面白い。

魔術の事や種族の特徴や歴史などを、懇切丁寧に教えてくれる。

因みにサービス開始したばっかりなのに昔もなにも無いだろと言う突っ込みは禁止だ。そんな事を言う人間にファンタジーを楽しむ資格はない。


「精霊に嫌われてしまうと当然精霊魔法の使用は大きく制限されることになる。魔術師としての幅を狭めてくなければ、貴様もせいぜいよく考えると良い…」


「まだ自律魔法しか使えないんだけど…まぁ、覚えとくよ、ありがとうクーシー」


特に魔法の話は興味深いものばかりだ。こんな初期段階で様々な話を聞けたのは、今後の大きな助けになるはずだ。



「お待たせちーちゃん!クーシーちゃんと仲良くしてたかな?」


「その犬に変な事とかはされなかったか?」


雑談しているうちにあっという間に時間が過ぎたらしく、イツキとアニキが復帰してきた。


「我は犬ではない。誇り高きブルー・クーシーだ…生意気ばかり言ってると噛み砕くぞ小僧。」


「やってみろ、ただではやられんぞ?」


復帰早々睨み合うクーシーとアニキ。この二人、何故か相性が良くないようだ。


「やめろ二人とも、これからターゲットに挑むのに無駄な体力消耗するような事をするなよ。」


「ちーちゃん、そこは私の為に争わないで~って言うところだよ?」


なんでやねん。何が悲しくてワンコ2匹(※妖精犬と人狼です)にヒロイン染みた事を言わなきゃならんのだ。

そもそもそう言うのは趣味じゃないし、ヒロイン役はイツキの方がお似合いだろう。

ふざけるイツキをたしなめつつ、私は今後の作戦を確認する。


「まず、ブラッディベアの居場所まではクーシーが案内してくれるんだな?」


「うむ。だが、その後は金髪の小娘との約束通り手は出さんぞ?無論、撤退するのなら手伝いくらいはしてやっても良いがな。」


クーシーは本当に最低限の手伝いしかしてくれないようだが、それだけでも十分ありがたい。いざという時に撤退の手助けがあるのなら、多少の無茶はできそうだ。


「で、発見したらまず私が夜雀で視界を封じる。そこを…」


「私とお兄ちゃんがガツンとやっちゃえば良いんだね!」


作戦と言ってもやることは今までの戦闘と殆ど変わらない。


不意討ちからの速攻。


まだ手札が少ない私達には、それが最善で限界という結論に至ったのだ。


「それで決められたら話は早いんだが、そう簡単にはいかないだろうな…」


「何度か攻撃してみて、通じないようなら撤退か…」


少し不満げに呟くアニキに私はしっかりと頷いて見せた。

これまでの戦闘を見る限り、アニキでもブラウンベアの攻撃を受け止めるのは難しいようだった。

ならば、それ以上の強さを持つブラッディベア相手に防御や持久戦は不可能と判断するべきなのだ。


「それじゃ、出発だ。頼むぞクーシー。」


兄妹に無茶はしないように改めて念を押して、私は出発を宣言した。

再三確認はしたが、それでもこの兄妹は無茶しかねない…私がしっかりしないと!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ