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04-壁とスラムと不本意な初戦闘

光に飲み込まれて僅か数秒後。顔に風を感じた私は、しっかりと閉じていた両目をゆっくりと開いた。

今回はチュートリアルの時のように地面に叩きつけられる事もなく、目をギュッと瞑っていたおかげか視力の方も何とか正常な状態を保っている。

周囲を確かめるように見回してみると、少し離れた所に巨大な防壁がそびえ立っており、さらにはそれに沿うように簡素な建物がいくつも立ち並んでいた。

私達が立っていたのは、女神を模したと思われる石像が置かれた広場のような所だった。

ちょうど此処がリスポーンポイントになっているのか、すでに死に戻りして転送されてくるプレイヤーの姿もあった。

恐らくはチュートリアルや準備もせず、とりあえずフィールドに出てしまったのだろう。


「意外と殺風景なんだな…」


すぐそばから聞こえた声の主はアニキだ、どうやら無事はぐれずに転送できたようだ。

確かにアニキの言う通りいまいち魅力にかける風景が広がっているが、公式の事前情報の通りなら、開始地点にはちょっとした仕込みがあるはずだ。


「ねえ、私達が今いるの壁の外側だよね?もしかしてに壁の内側を目指せば良いのかな?」


流石と言うかなんと言うか、アニキと同じく無事に一緒に転送できたらしいアインは、すでに自分達の状況を大まかに理解したようだった。

ここまで来たならネタばらしをしても問題ないだろう。


「正確に言うなら…壁の内側に居るっていう高貴な御方とやらに会うのが最初の目標らしいぞ?それと、今いるのは開始地点で流民や訳有りな人達が住むって設定のスラム街のはずだ。」


二人に説明しつつ、何か情報を探せないかとメニューから色々操作してみるが、現在地の名前すら表示されていない。

セージさんからゲームが始まればゲーム的な表示はほとんど無いとは聞いてはいたが、まさかプレイヤー名すら表示されないとは思わなかった。

きちんと顔を見て覚えろと言う事なんだろうけど、私みたいにゲーム内でのコミュニケーションにばかり慣れた人間からすれば結構大変そうに感じる。


「もう!設定とか言わないでよちーちゃん!萎えるじゃん!」


ネタばらしした事自体は怒られなかったが、言い方の方で怒られてしまった。

確かにアインのような感情移入しやすいタイプの人間にとって、雰囲気を壊す言い方だったのだろう。

今回は確かに私が悪い。アインはそこまで怒っていないようだが、反省して今後は注意するとしよう。


「まずは教会に行くと言う話だったが、何処を目指せば良いのか?」


「ん~、そこまで詳しく説明されてた訳じゃないんだよな…」


アニキの問いかけに、私は曖昧に返すことしか出来ない。

公式サイトの情報では物語を進めるためには壁の内側を目指す必要があるとまでは書いてあったのだが、具体的な手順や目的地までは書かれてなかったのだ。

だが、セージさんのアドバイスを考えると、目的地に行くためにもまずは教会を探すのが正解なのだろう。


「とりあえず、"あっち"の方に行くだけ行ってみればいいんじゃない?近くで見てみたいし!」


考え込む私とは対照的に、特に何も考えてなさそうな感じで言うアインが指差したのは嫌でも視界に入る程に巨大な防壁のある方角。

確かに今のところこれといった手がかりは無いし、防壁に近付いてみる事で何らかのイベント等があるかもしれない。

改めて防壁の方に目を向けてみると、ちょうど女神像の広場から真っ直ぐ伸びた道の先に、大きな門らしき物も見えた。

武装した門番らしき人影も見えるから、彼等に話を聞いてみるのも良さそうだ。


とりあえずの目的地も決まり、期待と共に早速歩き出したのだが、そこで早くも邪魔が入った。


「なあ、そこの綺麗なお嬢さん達、そんなに急いでどこに行くんだぁ?」


「せっかくだから俺等にも教えてくれよ?」


現れたのは趣味の悪い似合わない金髪と赤髪の二人組の男達だった。

あまりにも古典的なチンピラの登場に軽くドン引きしつつも、私は大きな失態をしていた事に今更ながら気付く。


(しまった、念のためイツキの顔を隠しとけば良かった!)


心の中で自分自身に舌打ちしつつ、私達を庇うように前に出たアニキの背後に隠れつつアインの手を掴み抱き寄せた。

チンピラ共は私達と同じ服装をしている。

ほぼ確実に彼等もプレイヤーである以上、これは用意されたイベントではないはずだ。



「おお!ちーちゃんがデレた!?」


「違うわ!ちょっと、大人しくしてろ。」


抱き寄せた時にちょうど旅人の外套にフードが付いていることに気付き、ついでにそれもかぶらせた。

アインは性格は少しアレだが、見た目だけならそこらのアイドルでは太刀打ち出来ないほどの美少女だ。

初めて知り合った時の私はその美少女っぷりにむしろ遠ざけて関わらないようにしようと思ったが、当然このチンピラ共のように下心を持って近付こうとする輩も少なくない。


「俺達に何の用だ?話だけなら聞いてやる…。」


背中越しに聞こえたアニキの声は、驚くほどに低く重いものだった。

ヤバい、早くもアニキの中で戦闘スイッチが入ってしまったようだ!

これだからシスコンは困る!


「な、何だよ!やんのかコラァッ!?」


「や、やめとくなら今のうちだぜぇ?この辺りじゃあ、喧嘩くらいじゃ騒ぎにもならねぇらしいからなぁ!」


何でこんな典型的な不良がこんなゲームに参加しているのだろう?この手の輩はアニキとは相性が悪過ぎる!

向こうは明らかにアニキの怒気と存在感にビビっている様子だが、チンピラにもチンピラなりにプライドがあるのか退こうとする気配は無い。

むしろ脅迫するように怒鳴り付けて来る。

私的には結構恐いのだが、この程度で退く男がアニキと呼ばれるはずもない。


「もう一度だけ聞いてやる…用件を言ってみろ。」


味方のはずなのに私までアニキの方が怖い気がしてきた…


険悪なムードの中、さっきよりも強い口調と共にアニキが一歩踏み出す。


そして、この一歩でチンピラ達の中でギリギリ堪えていた何かが決壊してしまったようだ。


「な、ナメんなぁぁぁッ!!」


昔何かの本で読んだ話だが、圧倒的な脅威と相対した時。人や動物は時として視野狭窄に陥り、飛び掛かることしか出来なくなる事があるという。

逃げよう避けようとしか思わない私にはまるで理解出来ない心情だが、恐らくはチンピラ達はそんな事態に陥ってしまったのだろう。


変な口調の赤い髪の方のチンピラがアニキに殴りかかるが、それに対しアニキはむしろ踏み込んだ。


「脇が甘いぞッ!!」


素早く相手の懐に潜り込み片腕を取ると、相手を体ごと捲き込むようにその場で反転しチンピラの身体を勢い良く跳ね上げた。


「……は?」


高く体を浮かされたせいか、一瞬赤髪の呆けたような声が私にまで聞こえた。

素人目に見ても綺麗だと解る見事な一本背負い投げ。


そして、アニキはそのまま容赦なく赤髪を地面へ叩きつけた。


「ゴガァッ!?グッ…ゲホッ…」


私もさっき似たような体験をしたから解るが、背中をおもいっきりぶつけるととても痛い上にまともに呼吸が出来なくなる。

私の時は柔らかい草原だったからまだいいが、此処は荒れ気味ではあるが石畳だ。尋常じゃない痛みと苦しみが彼を襲っている事だろう。

アニキが意図的に頭から落としてたら、普通に死に戻りする羽目になっただろう。


一瞬の沈黙。


「テメェッ!良くも相棒を!」


一瞬の間を置いて、再起動した金髪が激昂する。

そして、よりにもよって腰の剣に手をかけた。

その行動に、いつの間にか集まっていたギャラリー達がどよめく。


「それを抜いたら喧嘩じゃ済まないんじゃないか?」


アニキが怯む事無くそう言葉を返すと、金髪が僅かに怯む。

そういえばこの辺りでは喧嘩くらじゃ騒ぎにならないとか、妙にこの辺りの事情に詳しいが、すでに何かやらかしたのだろうか?


睨み合う金髪とアニキ。未だに起き上がることが出来ない赤髪。

そして、なんかお腹が痛くなってきた私……。


この状況は非常に不味い。私達が悪役にされるような事はまず無いとは思うが、完全に悪い意味で目立ってしまっている。


例え悪意がなかろうと、トラブルメーカーというのは敬遠される物だ。

アニキが負けることはまず無いだろう。だが、このまま金髪を倒せばこの状況を終わらせることは出来るかもしれないが、私達まで厄介なプレイヤーとして他のプレイヤー達に認識されてしまう可能性がある。

コミュニケーションが重視されるオンラインゲームで、しかも序盤でそんな事になれば、今後に大きな影を落とす事になってしまう。


「むぐ!?」


考えろ、何とかこの状況を好転させる方法を考えなければ…。


「むぐぐ…」


アニキと金髪は今にも激突してしまいそうだ。

早く、早く考え付かないと…。


「むぐぅぅ…!」


遠目に門番達の様子が慌ただしくなり始めるのが見えた。

不味い、最悪NPCの評価まで下がってしまうかも知れない。

金髪が剣を抜こうと本格的に構え、アニキが盾を構える。

ヤバい!まだ何も思い付いていないのに!


「覚悟しやがれ!このや…」


「死んじゃうよぉぉぉぉぉぉ!!」


金髪の言葉を遮って、突如大声を上げるアイン。

金髪も、アニキも、ギャラリーのプレイヤー達も、全員が呆気に取られた様子でアインを見る。


一斉に視線を受けながらも、何故かゼェゼェと呼吸を整えているアイン。



「えっと…皆、ゲームは楽しくやらなくちゃだよ?」


フードを外したアインは、リアルとは違う黄金の髪を揺らしながらそう言って微笑んだ。

状況が解らず、とりあえずとった行動なんだろうが、美少女はそれだけでも妙な説得力があるからズルい。


そして、私はと言うと…、


いつの間に尻餅をついたのだろうか?

ペタンと地面に腰を落としたまま、呆然とその様子を眺めるのだった。





「ちーちゃん大丈夫?」


ため息を漏らす者、息を飲む者、この場のプレイヤー達が様々な反応を示す中、アインはそれ等を気にする事もなく普通に私に話しかけてきた。


「ギュッとしてくれるのは嬉しいけど、流石にいきなり窒息死するのは嫌だったから…ゴメンね?そんなに強く押したつもりは無かったんだけど」


アインが申し訳なさそうに手を差し出してくる。

どうやら無意識のうちにアインを押さえる手に力が入ってしまっていたらしい。 

そして、緊迫して余裕の無い最中でアインに振りほどかれ、驚いた私はその勢いのまま尻餅をついてしまったという事のようだ。


「こっちこそ悪かった……苦しかったのに気付かなくてゴメン」


「いや〜、息苦しいのを除けば柔らかかったし割と天国だったけどね!」


私も謝りながらその手を取り、アインの助けを借りながら立ち上がるのだが、彼女を見るプレイヤー達の視線が私にまで集まって何だか居心地が悪い。


結果的に最悪の事態はアインの横槍でひとまずは止まったが、まだ状況が解決した訳ではない。


赤髪の方は先程のダメージがよほど大きいのか、起き上がってはいるものの立ち上がりもせず、一応は大人しくしている。

金髪は剣を抜くタイミングを失い戸惑っているようではあるが、アニキを見る目に宿る敵意は全く衰えてはいない。


今のうちに何とか説得出来ないだろうか?

難しい事だとは思うが、さっきまでよりも状況はマシだ。

何とか交渉材料を見つけて、この場をおさめなければ……。


「大丈夫?ゴメンね、うちのお兄ちゃん容赦無いから…」


「お、おう!このくらいどうって事無いぜぇ?」


私が色々考えているというのに、アインは何故か赤髪の方へと話しかけていた。

何をやってるんだ、あの子は……今はまず金髪の方をどうにかしないと大変な事になるかもしれないというのに。

美少女に話しかけられて嬉しそうではあるが、赤髪も予想外のことに明らかに動揺している。


「でも、凄い噎せてるの聞こえたよ?ほら!お兄ちゃん謝って?」


「断る、先に手を出してきたのソイツ等だ…。」


金髪への警戒を残しつつも、妹の言葉を即座に却下するアニキ。

確かに、アニキは自分からは一切手を出してない。


「やりすぎッ!お兄ちゃんならもっと優しくできたでしょ!だよねっ?ちーちゃん!」


「ちーちゃん言うな!でもまぁ、確かに石畳に叩きつけたのはちょっと引いたな…アニキなら盾で普通に防げただろうし。」


金髪対策を考えたいから話を振って欲しくないのだけど、正直赤髪にはちょっと同情していた。私もさっき似たような目に遭ったし。


「むぅ……、解った。確かに力が入りすぎてしまっていたようだ、こんな場所で投げ飛ばしてしまって悪かったな。」


私がアインに共感を示したからか、アニキは少し迷ったようではあるが、座り込んだままの赤髪の前で片膝をついて視線を合わせ謝罪した。


「へへッ、下手に余裕見せつけられるよりもスカッとしたッスよ。先に殴りかかったのは俺だし…こっちこそスンマセン!」


驚いたことに赤髪の方もアニキに頭を下げてきた。

アインに良い顔をしたかっただけかもしれないが、何か妙な展開になってきてないか?


「お、おい!何をそんな野郎に謝ってんだよ!!」


困惑した様子で赤髪に怒鳴る金髪。

頭に血が昇っての行動とはいえ、彼は一応赤髪の為に剣を抜こうとしていたのだ。アニキと赤髪がお互いに頭を下げ和解してしまったら、金髪が怒る理由も矛先も無くなってしまう。


「落ち着けよ相棒。さっき俺が見事にブン投げられたの見たろぉ?俺達じゃこの兄さんに敵わねぇって…。」


理由が無くなろうと、怒りの感情までが一緒に無くなってくれるわけでは無い。

凄い剣幕で金髪が赤髪に迫るが、赤髪はむしろ金髪を宥めてくれようとしているようだ。


「ふざけんな、何言ってんだよ!このままナメられたまんまで引き下がる気かよッ!?」


「向こうのが強いのにナメられるも何もねぇだろぉ?第一、お前俺より喧嘩弱いくせにどうする気なんだぁ?」


あ、赤髪の方が強かったんだ。

図星なのか赤髪の言葉に金髪が言葉を詰まらせる。

見た目的には金髪の方が強そうなんだけどな…。


「うぐッ!で、でもよ……。」


「それにアイツも言ってただろぉ?他の連中と騒ぎ起こすなってよう。」


どうやら金髪と赤髪には他に仲間がいるらしい、最初の振り分けで別の場所からのスタートになってしまったのだろうか?


「ところでお兄さん達、私達に何か用があるんじゃなかったの?」


睨みあっている金髪と赤髪のチンピラコンビに、マイペースなアインが検討違いな質問を投げ掛ける。

奴等が最初に声をかけて来たときの事を言ってるのだろうが、あれはアインに近付く為の口実だったはずだ。


「あぁ、そういやぁそうだった!実は俺らぁ二人、ゲームを始めたのは良かったんスけど……何故かいきなりダチの一人とはぐれちまいましてぇ。」


アレ?何か赤髪がマジな感じで語り始めたんだけど?


「色々ぉ歩き回って、何とか此処が防壁の北側だっつぅのが解って、中にダチを探しに行こうとしたんスけど、今度は門番に邪魔されやして……無理矢理ぃ通ろうとしたんスけど、逆にボコボコにされちまったんスよぉ。」


なるほど、妙にこの辺の事情に詳しいとは思ったけど、その時に色々知ったのだろう。


「そんで、いったん休もうと広場に戻って来たらぁ、そっちの姉さんが話してんのがぁ聞こえて……そしたらぁ来たばっかりだってぇのに、妙に色々詳しいみたいじゃあないスか!」


そう言って赤髪が視線を向けたのは、なんとアインでは無く私の方だった。


確かに広場でアイン達に色々説明はしたが、まさかそれが原因でこんな事になってしまうと思わなかった。


「この手のゲームはぁ自由なのが売りだっつうのは聞いてやすが、俺等も最初のヒントくらいは欲しい…そんで、その…まぁ、一番話やすそうなお嬢さんに……ねぇ?」


あ、金髪は知らないけどこの赤髪はやっぱり下心有りだな。視線が泳いでるし。

確かにアニキは見るからに堅物だし、私も目付きが悪い根暗ではあるけど、別にアインが一番話しやすそうって事は無いだろう……たぶん。


「だったら普通に聞いてくれれば良かったのに……」


「す、スンマセン…その、そっちの兄さんがぁ…えっと…あんまりにも強そうだったんでぇ、つい(おとこ)(さが)で!」


不思議そうにするアインの問いに、赤髪は照れているのか恥ずかしいのか、しどろもどろになりながらも明らかに嘘臭い言い訳をする。

不良のプライドだろうか?アニキが恐くてつい手が出てしまったとは言えないようだ。

能天気なアインはなるほどと騙されてしまっているが、この件は私も黙っておくとしよう。


よくよく思い出してみると、コイツ等は確かに見た目はアレな感じではあったが、暴力的な感じやアインに何かしようという感じは確かにあまり無かったかもしれない。

シスコンスイッチが入ったアニキは鬼のようになるからな……この二人には私達の方が悪い事をしてしまったのかもしれない。


「じゃあ、せっかくだから情報交換しておこうか?話しちゃっても良いんでしょ?ちーちゃん。」



どうやらアインの中では対チンピラ問題は解決した事になってしまったらしい、意識が今後の為の情報収集へと切り替わってしまったようだ。

確かにチンピラコンビからも、周囲に残ってるギャラリー達からも、先程までの緊迫した雰囲気はほとんど感じない。

私が散々頭を悩ませていたのはなんだったのだろうか?微妙に納得出来ない気持ちだけが胸に残ってしまった。


「良いんですかい?俺等ぁ大した情報持ってる訳じゃあ無いですぜ?」 


「別に問題ない。私が知ってるのは一応公式サイトに載ってる情報だし……一度ログアウトして確認してくれば解る情報でしか無いぞ?」


赤髪の変な口調での問いかけに、私は頷きながら問い返した。


この時、私の話が聞こえたのだろう。ギャラリーから数人ログアウトしていくのが見えた。

随分と気が早い連中も居たものだが、残りのギャラリー達も少なからずざわつき始めた。どうやら私が思っていた以上にプレイヤーに事前情報が行き渡っていないようだ。


「場所を変えますかい?俺がぁ言えた事じゃねぇが、どうにも性質(たち)が悪い連中がいるようですぜ?」


意外と律儀な性格なのだろうか?赤髪が顔をしかめながらそう提案してきた。どうやら何も言わずにログアウトしていった人達の事が気に入らないようだ。


「あ、あの!私も参加させてもらって良いですか?」


最初に手を挙げてそう発言したのは女性プレイヤーだった。赤髪の発言で情報源が居なくなると焦ったのか、そこからギャラリーにいたプレイヤー達が次々と声を上げる。


「お、俺は街の外に行ってきたぞ!」「自分は買い物できる場所を知っている!」「死んだけどモンスターと戦闘して来たッ!」「私は宿屋の場所ならおしえられます」「何も知らないけど参加して良いですか?」「後で御礼はするから混ぜてくれ!」


何というか勢いが凄い。街の外縁部に降りたって一時間と経ってないのに、何だか大変な事になりそうだ。


「凄いね、ちーちゃん!これは情報交換大会になっちゃうね!」


無駄に賑やかになってきた状況に、アインが楽しそうに笑う。

私としては、むしろそんな展開は無かったことにして欲しいのだが、今更そんなことを言えるはずも無い。


………このカオスな状況、誰が面倒見るの?


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