恋愛シュミレーションゲーム
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去年、小さなゲーム社会に就職し、今のところ特に目を見張るようなこともない人生を送っているのは、この俺、如月英士だ。
「おっ、いたいた。英士、また仕事を頼みたいんだが・・・・。」
「また、新しいゲームをやっての感想、ですか?」
「ああ、そうだ。今度はシュミレーションだが、やってくれるか?」
目の前の部長、川原竜は、元は、同じ大学の先輩で、俺がここに入る二年前に入社し、今ではもう部長という地位にまでなっている。
俗にいう、デキル男だ。
(この前に受けた仕事ももうすぐ終わるし、別に大丈夫だろう)
「わかりました、引き受けます。ソフト、今持っていますか?」
そう言うと、部長は思い出したように、持っていた大き目めの茶封筒の中からケースに入ったディスク
と書類などを俺に渡す。
「いやぁ、助かるよ。じゃあ、一週間ぐらいで頼むよ。」
「はい、わかりました。」
部長が言ったのを確かめると、俺は持っているディスクに目を落とす。それは透明なケースに入っており、ディスクの表面には、『隣の双子ちゃん』と殴り書きされている。
「・・・ハァ・・・。」
久々にこんな仕事が来るとは・・・。恋愛的なゲームは苦手だが、仕方ない。一週間以内にさっさと終らせてしまおう。俺は帰り仕度をすませると、会社を後にした。
俺は家に着くと早速パソコンを起動させて、そのゲームを始めた。今まで事務所的な文字例しか映されていなかった画面は一転し、可愛いらしい2人の女性と明るい漢字の文字で映し出されたタイトルが現れる。俺がすぐに、『ゲームを始める』をクリックすると、次の場面で、恐らくヒロインの『双子』らしき女性に名前を聞かれ、苗字と名前を分けて打ち込んだ。再度『ゲームを始める』をクリックすると、先程から出てくる双子と、その親らしき人物が並んで出て来た。それと同時に、画面の下にそれぞれのセリフが出てくる。
楓「始めまして、隣に引っ越してきた、楓です!」
理奈「え・・・えっと、理奈、です・・・。」
顔は同じだが、楓と名乗ったほうは髪が短かく、活発で明るい女性ということがハッキリわかる。
だがそれとは対照的に、理奈と名乗る女性は髪が長く、おとなしい性格である。
(最終的にはこのどちらかとハッピーエンド、もしくは誰とも結ばれずにバットエンド、の3つか・・・)
俺はまだまだわからない結末に胸踊らせることもなく、そのまま、だらけた手つきでゲームを続けていった。
次の日、俺は目の下に大きな隈をつくって会社に出勤した。
「おぉ、英士。おはよぅ・・・って、なんだよ、その顔!?はっはーん、もしかしてお前、あのゲームにハマったのか?」
「な!?・・・そ、そんなワケ・・・。」
「わかるわかる、楓のほうなんか、モロにお前の好みに作ってあるからな!」
「だから違いますって!」
・・・なんでそこまでわかったんだ、部長。
部長の言葉を否定し続けてはいるが、実は全部図星だった。始めたばかりの頃は楽しくも何ともなかったが、段々と、俺は楓を目で追うようになった。元々の顔が美しく可愛いせいでもあったが、それ以上に、楓の表情が忙しいほどによく変わるのを見るのが楽しかった。俺の前で少しはにかんで見せたり、本気で怒ったり、涙ぐむほど悲しんだと思えば、空が晴れわたる程に顔いっぱいに笑う。目が回りそうぐらいだ。
「よしっ、じゃあ楓とハッピーエンドだったら、俺から、特別にボーナスをあげてもいいぞ!だからもし理奈とくっついたり、バットエンドにでもなったら、・・・そうだな、お前のおごりで焼肉な!よし決定!」
「ええ!?ちょっ、何勝手に決めてるんですか!!って、無視しないで下さいよ!!」
「ああ、ちなみに今回のは、楓にしても理奈にしても、難易度高いから、とりあえず頑張れよなー」
・・・そんな無茶苦茶な・・・。
その夜も俺はパソコンに向かい、あのゲームを始める。昨日の夜、詳しくいうと今日の明け方までやっていたデータを開き、保存された所の続きから始まる。
(昨日保存したのは確か、3人で海に行って遊んだ帰り、理奈と楓、それぞれに告白されたトコだったよな・・・その後に、俺が慌てて・・・というより、ビビって終わらせたんだっけ・・・)
情けない・・・ゲームが終了しれば、必然的にこのソフトは部長に返さないといけない。
そうなれば当然、もう、楓を見る事が、楓に会うことができなくなる。それを、少しでも長い時間、自分の物として持っておきたいなんて・・・俺はガキか。
『カチッカチカチッ』
保存したデータを開くと、『続きから』と、『初めから』、の表示が出る。
(いっそ、初めからやり直してしまおうかな)
しばらくして俺は、『続きから』の表示をクリックした。
画面にあらすじが出る。俺は適当に読んでそれをスキップする。すると急に、次の日の朝になり、『A、理奈』『B、楓』『C、どちらも選ばない』の選択肢が出てきた。その下に小さく、『誰を呼びますか?』と出ている。俺は、小さく深呼吸する。
(俺が選ぶのは・・・俺が好きなのは、楓だ。でも、選んでしまえばもう、このゲームは終わる)
『カチッ・・・』
俺は、ゆっくりと、『B、楓』と表示された文字でクリックした。
俺が楓を選んでから、ゲームは淡々といい方向へ流れていった。
「さよなら、・・・楓・・・」
いつの間にか、俺は泣いてしまった。その時の画面は、明るいハッピーエンドの文字と、ウエディングドレスを着て笑っている、楓の姿が映し出された。
次の日、俺はゲームのことや結果などを書いた書類を持って、部長のいる会社へ行った。
「おはようございます、部長。この前頼まれた書類、出来ました。」
「おぉ、おはよう!もうできたのかぁ・・・。んで、結果は・・・?」
そう言うと部長は、ニヤニヤと笑いながら俺の表情を窺う。俺は軽く苦笑いを浮かべると、その結果を告げる。
「・・・楓と、ハッピーエンドでした。」
「おぉ〜やっぱりそうだったか〜!じゃあ、約束してたボーナス・・・ほら!」
部長はその場で何か携帯番号のような数字を小さな紙に殴り書いて、俺に渡す。
「は?ちょっと部長、これって・・・。」
「お前がやってたゲームに出て来てた楓は、実在の人物をモチーフにして作ったんだ。会ってみたくないか?」
それは唐突すぎて、俺はなかなか理解する事ができなかった。
「ゲームのじゃない本物の楓は、大学の時のお前の後輩でな、お前が卒業してもずっと忘れられないって、俺に頼んできた。その子、すぐそこの公園で待ってる。」
「ありがと先輩!!。」
俺は、全速力で階段を駆け降り、自動ドアを走り抜ける。
「・・・先輩じゃなくて部長だっつの。」
外に出てすぐの公園。
そこに見える人影。
「楓!!・・・さん!!」