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戦いの魔法 戦いの時間  作者: 落ちこぼれ星
王都セルクカム編
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第5章:卵は黄身より白身が本命

 《二刀流》

 古来より受け継がれている伝説の流派、と言うのはもはや言うまでもないほどの語り草となっている。

 数ある流派の中でも最強と吟われているが、そんなシロモノは当然、使用者を選ぶ。

 なにせ、両手に握られた二本の剣を高速で、なおかつ自分の意のままに操るというのは、非常に困難極まりないことだからだ。

 いわば、先天的な戦闘のセンスを持つ、一種の天才のみが使う流派。

 使える流派。

 故に伝説。

 故に最強。

 ――故に、絶滅奇遇種。

 天才は、そうそうはいないのだ。

 現在この流派を完全に使いこなせる者は、数えても片手に収まるほどしかいない。

 といっても俺は残念ながらまだまだ卵の存在で、当然、片手の内には入らないが……。

 下手をすれば、極平凡な流派の、極平凡な強さの、極平凡な奴に、極平凡に負けることだってざらにある。

 それくらいの、卵の黄身のような存在。

 いや、むしろ存在価値が問われる白身かもしれない。

 そしてそんな伝説級の流派を人目に晒すと、どう転んでも大抵は厄介なことになってしまうのだ。

 以上のことが理由で、俺は普段は片手剣使いに徹している。

 二刀流を使うのは、人目に付かない場所か、アキさん相手の模擬戦をする時。

 あるいは。

 追い込まれた状況の時だ。


 ◇



 ――まず、一枚っ!

 心中で喝采するが、ここで喜んでいるほど俺には余裕の心を持ち合わせてはいない。

 間髪入れずに一瞬だけ体に力を溜め、左肩から体当たり気味に相手に突っ込んでいく。

 全体重を乗せたタックルに、ブラックリバーは耐え切れずに姿勢を後ろに崩した。

「―――!」

 無言の気合と共に右手を閃かせ放った高速突きは、蒼の軌跡を描き、惜しくも奴の肩を掠めていった。

 当たり判定は、出ない。

 舌打ちをしながらすぐに一撃せんと走り寄るが、それよりも先に奴が動いた。

 たん、とバックステップで下がると同時に風魔法を消費して一瞬だけ爆発的加速を生み、距離を離した。

 だが俺は、間合いから逃げ切られないように、ピタリとその影に引っ付いていく。

 驚くのは、ブラックリバーに付いて行けたアルカナの身体能力よりも、ここで距離を離すと再びあの高速の突進攻撃が開始されると瞬時に判断したことだろう。

 白銀の和太刀のリーチよりもさらに内側に入り込み、今までの借りを返すべく、強引にラッシュを開始する。

 右手を斬り下ろし、左手を斬り上げ、両手を交差させた状態から大きく斬り払い――。

 体に染み込まれるほど熟練した一連の剣技だったが、ブラックリバーは一握りの刀で全てを捌ききった。

 内心毒付きながら、舌を回す。

 「風流剣 双乱刃―――!」

 剣技には、風魔法を付加させることによって恐ろしい速度を可能にする。

 が、その速度故に、無理な動きが入ると体に大きく負担がかかってしまう。

 それを解消する方法が、あらかじめ型、つまり剣技を作っておき、その動きに被せるようにして被せる方法だ。

 これなら、魔法の詠唱も剣技の名前さえ覚えおけばそれだけで済む。

 防御は全て捨て、両手を素早く動かすことに我武者羅に集中した。

 どちらもなかなかの長さと重さを誇るロングソードを閃光と錯覚してしまうほどの速度で振るう両腕と、果敢にステップし続けている両足が悲鳴を上げるが構わずにさらに加速させていく。

 ――絶叫上げていたのは、俺か、それとも奴だったか分からない。

 金属音が激しく打ち鳴り響き、互いに螺旋を描き、やがて豊かな一つの音楽を奏でる。金属音はビブラフォン、足音はティンパニ、歓声は、オーケストラそのものだった。

 ……俺はオーケストラより吹奏楽の方が好きなんだが――

「――なっ!」

 なおも剣技の途中であったにも関わらず放った咄嗟の足払いには、超絶反応速度を持つブラックリバーでも反応しきれずに堪らず足をもつれさせた。

「しまっ――!」

 動く暇も与えずに右手の剣で奴の腹部目掛けて一文字に凪ぎ払った。

 二度目になる攻撃。防御魔法(リフテクト)の、まるでガラスを叩き割ったような破砕音が街の建物に反響するのを、他人事のように確認していた。

 互いの視線が交錯する。

 ブラックリバーは、なおも余裕を失っておらず、片頬には獰猛な笑みを浮べている。

 そして、強い目をしていた。

 まるで、得物を見つけたときのような。

 むしろ。

 猫が鼠を見つけた時、といった方が正しかったかもしれない。

 そう思ったのと、奴が風魔法を詠唱し始めるのとが同時だった。

 「汝、風よ」

 極短い詠唱。

 詠唱とも言えない様な、ただの単語。

 強力な魔法ほど詠唱は自然と長くなってしまうのが普通で、ならばこの短い詠唱では貧弱な魔法しか繰り出すことは出来ないはずだ。

 だが、それでも俺は理屈よりも勘と本能に従い地面を力強く蹴り大きく後ろへと飛び退いた。

 ほぼ同時にして勢い良く風船を叩き割ったような破裂音が聴覚を大いに刺激させた。

 ――アキさんが良くおふざけで、ガム風船を、魔法を使って一メートル位まで膨らませた時に勢い良く破裂した時の音に良く似ていた。

 確認すると、さっきまで俺の立っていた場所、というより奴の半径一メートルの地面が深くえぐられている。

 咄嗟に飛び退かったら、今頃はあの地面のようになっていたことだろう。当たり判定があるから大丈夫だが。

 ともかく。

 互いに間合いの外に出た。

 距離にして最初の立ち位置くらい。つまり、二十歩分くらいの距離だ。

 だが、その距離は必殺の突進攻撃を開始するには充分過ぎる距離だった。

 ーーーどうする。

 互いに残機は一つ。

 向こうもそろそろ余裕を無くし始めた頃だ。

 どんな攻撃をしてくるか分からない中で、その攻撃を避けきる自信も無い。

 奴が動き出す前に先手を撃つーーー。

 そう腹を括り、腰を落とした時だった。

 突如にして、あまりに唐突にブラックリバーは驚くべき行動に出た。

 投げたのだ、刀を(、、、、、、、、、)

 弾丸のような速度で飛来する刀だが、さして難なく右へと弾いた。と、同時に

 ――視界に奴の姿は無かった。

 ぞわり。

 本能的な恐怖が背をなぞり、心を握り潰されたような感覚に飲み込まれる。

 咄嗟に振り向いた時には、もう勝負は決していた。

 目前では、体を大きく捻り、渾身の肘打ちを放とうとするブラックリバーの存在。

 俺は、ただただ呆然と迫り来る腕を凝視するしかなかった。

 

 

終わりほど呆気ないとは、よく言うものだ。

 


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