表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦いの魔法 戦いの時間  作者: 落ちこぼれ星
王都セルクカム編
10/14

第9章:よくある話

 舞台は数年前。

 ミラージュとの大規模な世界戦争が行われていた当時。

 世界中をまたにかけて、四人の部隊隊長がその激戦区で活躍をしたことが、あれから十年以上経っている今でも伝説として語り継がれている。

 そしてその伝説の中には、四人の隊長に引けを取らない、否、それ以上の活躍をしたある一人の幼い少女が登場する。

 その少女は、両手に溢れんばかりの輝きを放つ剣を両手に持った、美しい夜叉(、、、、、、、)だったそうだ。



 ◇



「ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ・た…」

 全てを言い終わらない内に静かに自分の部屋のドアを閉めた。

「……」

 いや、誰が宿屋の自分の部屋で美人のおねーさんがお出迎えしていることを予想出来るというんだろう。

 ちなみに繰り返すが、自分の部屋だ!

 本当にアキさんはどうしてこうも人を驚かせるのだろう。

 出会った日から、今日という今日までの全てが驚きに包まれていると言っても良い。

 それだけの、無軌道、無修正、無茶をしてこれたからこそ、伝説に名を残しているのかもしれないが。



 人類最強の魔法使いこと、アキさんはつまるところ、昔話に出ている伝説の英雄だ。

 本人はあまり気にしていないようだが、戦争について知っている者なら、彼女について

 知らない人はいないほどの活躍ぶりだそうだ。

 ちなみに、10年以上昔の時は幼い少女だったということから、俺はアキさんが20歳以上と割り当てられることが出来た。

 そして、人類最強の魔法使いで昔話に出てくる伝説の英雄が、ドアの前でいじけている座り込んでいる状態だ。

 ……。

 いや、何様だよ、俺。

「ご飯は食べましたし、お風呂も入りました」

「じゃあ残るはあ・た…」

就寝(しゅうしん)ですね。寝ましょう」

 めげずに言うが、それすらも蹴散らす。

 時刻は11時を回った所で、心地よいほどの怠惰感が体に纏わりつき、眠気が南中していたところだった。

 今日はとにかく色々あったなぁ、と考えもなしに考えてみる。


 ―――バチスターさんは、どんな最期だった。


 脳裏でマニザールさんの言葉が掠れてすり抜けて行く。

 それの回答も――出さないといけない。

「ということでアキさん、もう俺は寝ますんで、アキさんも寝てください」

 そう言って、アキさんが動き出すのを見守るが、一向に動き出そうとしない。

 いじけて動かない、または拗ねて動かない――というわけでもなさそうだ。

 おかしいな。

 いつもなら、

「え、一緒に寝て欲しいの? 照れちゃうな、てへっ!」

 とか言いそうなのに。

「うんあぁ……えっと……アルカナ君、ちょっと」

 そう言って部屋の奥へと、手招きしてくる。

 ……。

 正直、最大限の誠意を持って慎んで辞退しておきたいが、そうもいかないらしい。

 今は真っ盛りの夜中なので、当然、部屋はお化けでも出てきそうなほど真っ暗だが、気にせずにさらに奥へと足を踏み入れていく。

 がちゃり――鍵を閉める音がした。

 ……まあ。

 まあまあ、取り立てて驚くほどのことでもない、言ってしまえば、よくある話だろう。

「まぁ、そこのベッドにでも座って」

「それは自分の部屋に招き入れた時に言う台詞ですが……」

 そう言いながらも、手探り状態で暗闇の中を歩き回り、ベッドに座った。

 カーテンが風に揺れて、微かに床へと月光が照らし出される。

 どこかで狼が吠える声がした。

 今日は満月だ。

 考えていた途端、3時の方向から熱元が探知された。

 もとい、体温が感じられるほど至近距離でアキさんがベッドに座る気配がした。

 ……まあまあ。

 これも実によくある話で、美人の女性に密室へ連れ込まれさらにベッドで肌が触れ合うほどの距離で腰かけるなんてことは、誰だって一度は経験する出来事だろう。



 アキさんと共にすると、このようなイレギュラーな事態に陥るということはこの体を持って重々と身に染みている。

 身に染みているからこそ、すっかり慣れっこだ。

 どんなことでも繰り返せば慣れてしまう。

「……」

 突然暗がりに連れてこられたものだから目がまだ暗闇になれきっておらず、うっすらと浮かぶその緩やかな体の輪郭が動き、ゆっくりと立ち上がり離れていくのが辛うじて確認出来た。

 窓際まで移動すると、何をするのかと思いきや、カーテンに手をかけるところまで確認できた。

 その時になって初めて気付く。

 何の考えも無しに部屋に入った時点で。

 俺は引き返すべきだったのだ。

 強引にでも打ち切るべきだったのだ。

 そしてそのせいで、愚かな俺の考えなしのせいで。

 何の前触れもなく、俺に見せ付けられる。

 まざまざと。

 どうどうと。

 でれでれと。

 どくどくと。

 おろおろと。

 鮮明に、焼き付けさせるように――見せ付けられる。

 カーテンを開けた窓から見える月光が照らすのは、えも言えないような美しさを誇っているアキさんであり、ただの馬鹿なアキさんであり、天然なアキさんであり、人類最強なアキさんであり、俺がよく知っているアキさんであり、――黒い尻尾が生えているアキさんだった。

 黒い、尻尾が。

 黒い、尻尾が、生えていた。


next→

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ