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留理の思い

犯人の手掛かりが掴めないまま十日が経った。

篤史は眠れない日々が続いた。

「篤史、昨日の寝てへんの?」

授業の休み時間、里奈が聞く。

「うん。事件の事が気になって仕方ないねん」

篤史は赤くなって目を里奈に向けて答える。

「それでもちゃんと寝ないと。寝てへんせいで体調悪いって昨日言うてたやん?」

「そうや。オレ、保健室で寝てくるわ」

篤史はそう言うと立ち上がる。

「ちゃんと寝ておいでよ」

里奈は忠告する。

「わかってるよ」

篤史はそう言い残すと教室を出て行った。

その姿を里奈はやれやれ…といった表情で見ていた。








昼休みになると学食は生徒達でごった返していた。

里奈と育江、向かいには留理が座る事になり、やっと席が取れたというところだ。

あの後、篤史は四限目の始まりには早退し、同じクラスの里奈は篤史に渡されたメモを受け取り、三人は事件の事を話題にしていた。

「小川君って事件で疑問に思ってる事をいつもメモにしてるの?」

育江はメモを見ながら留理と里奈に聞く。

「今回だけや。ね、留理?」

「うん。今回は事件は時間がかかりそうだからって言うてたし…」

二人からメモに目をやって答える留理。

「こんなメモ渡されても事件の事は小川君にしかわからないからね」

育江は最もな意見を述べる。

「確かにそれは言えてる」

里奈も育江の意見に同感したようだ。

「ねぇ、広代さんをバラバラにした場所ってさ…」

留理は何かを言いかけて止める。

「何よ?」

「ううん、なんでもない」

留理は自分の思い違いかもしれないと思い、自分の中で否定してしまった。

二人は首を傾げたが、また三人は考え込んでしまった。






放課後の音楽室。

雅代と波代は学内にある殺害現場とは別の音楽室で、コンクールの練習をしている。

「波代、広代が死んで良かったって思ってるんやないの?」

雅代は波代を揺さぶるようにして波代に聞く。

「そんな…。雅代姉さんはどうやの?」

波代はそんなふうにして聞かれるのは心外だというふうにして雅代はどう思っているのかを聞いてみる。

「私は当然、広代が死んでくれて良かったって思ってるで。ライバルが一人減ったんやもん。波代もはっきり言ったら?」

雅代はイスから立ち上がり、波代の前まで来た。

「私はそんなこと…」

「はっきりしないところが腹立つねんな!!」

雅代はそう怒りを露にすると、波代の頬を叩いた。

「何するん!? 雅代姉さん、みんなからどう思われてるのか知ってる!?」

波代もカッとなり言い返す。

「気分屋で性格が悪くて、人の嫌なことを平気で押し付ける最低な女やって思われてるんやで!」

波代は幼少期からの雅代の友達から聞いた事を雅代に告げる。

「な、なんやって!? 姉に向かってよくもそんなこと…」

雅代は波代の胸ぐらを掴む。

そこに中川先生が音楽室に入ってくる。

「君達、何してるんや!?」

「先生! 波代が…」

雅代は中川先生の背後に回る。

「波代、雅代に何したんや?」

中川先生は波代にキツイ口調で何をしたかを聞く。

「私は何もしてへん。そういうところが嫌われる理由なんや!」

波代は雅代にそう言い放つと、大きな音を立ててドアを開けて音楽室を出て行った。

「フン…。アンタだって人のこと言えへんやないの…」

雅代は独り言のように呟いた。






早退した篤史はせっかくベットの中に入っているというのに、事件の事を考えていた。

(広代さんを殺害した犯人もわからへんかったら証拠もわからへんねんな。何一つ手掛かりがない状態やもんな。一体、どういう理由で広代さんを殺害したんやろうな)

そして、篤史は今までにわかっている事を整理してみることにした。


一、雅代さんと波代さんにも広代さんを殺害する動機があるということ。

二、中川先生の話によると、音楽室から物音がしたかどうかはわからない。

三、殺害の動機はなんなのか? そして、殺害理由はなんなのか?

四、遺体を捨てる空白の三時間はなんなのか? 何の意味があるのか?

五、広代さんのオリジナル曲『光と月』の六枚目の楽譜が音楽室に落ちていた事。


(今のところ、これだけしかわかってへんけど、『光と月』の楽譜が落ちていたのが府に落ちひんな。事件当日にあったら鑑識が気が付いたら持ち帰ってるはずやけど、全く手付かずやったし、警察が引き上げてから犯人が音楽室に戻ってきたんやな。でも、広代さんだけで事件が終わると限らへん。いや、終わらせなければいけへんのや)

その時だった。

篤史の携帯が鳴る。

「もしもし?」

「篤史? 留理だけど…」

「どうした?」

「里奈から早退したって聞いたで。大丈夫なん?」

心配する留理だが、その声はどこかおかしい。

(なんか変や…)

留理の声を聞いて、そう直感した篤史。

「なんとか大丈夫や。留理、オレに何か話があって電話してきたんやろ?」

「え? バレた?」

篤史の質問に、簡単に白状してしまう留理。

「バレれるで」

「実はね、殺人現場って…」

昼間、里奈と育江に言いかけたことを篤史の話した。

「留理、オレの助手になれ」

篤史は留理の話を聞いてから言った。

「助手に…?」

「お前の推理、当たってるかもしれへんで」

「ホンマに?」

「あぁ…。だから、今回、オレの助手になってくれ」

必死に頼み込む篤史。

「いいよ」

「ありがとうな、留理」

篤史は留理に礼を言うと、事件の事を考え始める。

(殺害現場はわかったけど、そんなものなかったで。もう一度、学校内を調べたらわかることか)

「篤史…?」

留理は色んな思いがある中、電話の向こうの篤史に声をかける。

「ん? なんや?」

「もしかして…」

留理は自分の中にある思いを言おうとして止める。

「え?」

篤史は留理の声が聞こえず、携帯の受話器を強く耳に当てる。

「ううん、なんでもない」

言うのを止めて、笑ってごまかす留理。

今、言ってしまうと篤史を困らせるだけになってしまうため、やっぱり事件が解決したら言おうと思ったのだ。

「なんやねん? 気になるやろ?」

「なんでもないねん。私の思い違いやから…」

留理はそう言葉を濁してしまう。

「そうか。何かあったら言ってな」

「うん、わかった。じゃあね」

留理は携帯を切ると、深いため息を一つついた後、考え事をする。

(結局、あの事聞けへんかった。でも、篤史が肯定したらどうしよう…? 肯定したら、私の気持ちは…)

そんな切ない気持ちを胸に留理は自分の部屋のカーテンを開け、窓の外を眺めた。










翌日、町田警部の命令で公園と音楽室に来た水野刑事。

先に公園に寄った後、反岡高校の現場となった音楽室へとやってきた。

「広代さんを殺害した凶器が出てこないんだよな。犯人が持ってるかもしれないし、もう捨ててるかもしれないって言ったのに、警部は聞いてくれないしなぁ…」

ピアノを見ながら、育江同様、東京出身の水野警部はブツブツと独り言をぼやく。

「今日は諦めるしかないか…」

水野警部はそう言いながら、音楽室を出ようとすると、ある物が目に留まった。

「こ、これは…?」

そのある物をに手を伸ばそうとした瞬間、誰かが水野刑事の背後から鈍器のような物で水野刑事の頭部を殴った。

水野警部はその場で倒れると、遠退く意識の中で立ち去っていく犯人の後ろ姿を見ていた。

(もしかして、犯人は…。まさか…。…だ…誰かに…早く…知らせなくては…)

自分の血痕で犯人の名前を書こうとしたが、それは出来なかった。






ここは総合病院の廊下。

水野刑事が手術室で手術をしている最中だ。

あの後、水野刑事が襲われてすぐに雅代と波代が音楽室に用事があり、中に入った時の発見したのだ。

手術室の前では町田警部と水野刑事の妻である多佳子が、水野刑事の手術が終わるのを待っていた。

多佳子は膝の上で手を組み、少し俯き加減で涙ぐんでいた。

「多佳子さん、スマンな。自分が一人で水野を現場に行かせてしまって…」

町田警部は自分も一緒に現場に行けば良かったという気持ちで多佳子に謝った。

「いいんです。結婚が決まった時に、警官は怪我をする時もある。だから、僕が殉職する事も覚悟しておいて欲しい、って言われていましたから…」

多佳子はハンカチで涙を拭いた後に答えた。

「警部!」

水野刑事の事を聞きつけた篤史達は病院内で町田警部と多佳子の姿を見つけた。

「小川君達来てくれたのか?」

町田警部は篤史が来てくれた事でホッとした表情を見せた。

「うん。水野刑事は?」

篤史は町田警部から手術室のほうを見て聞く。

「まだなんや」

町田警部は答えると手術室のほうを見る。

しばらくして、手術室のランプが消えて、中から医者が出てくる。

「先生、どうなんですか?」

真っ先に聞いたのは、多佳子だった。

「一命を取り留めましたが、今のところはなんとも言えません。二、三日がヤマというところでしょう」

医者が一命を取り留めたという言葉に、多佳子の緊張の糸がプツリと切れた。

「一命を取り留めたのはホンマですか?」

「はい。安静にしていなければいけませんがね」

医者は安堵の表情を見せて答える。

「助かったなら大丈夫やで」

里奈もホッとした表情で言う。

「そうやで」

篤史も同感していた。




篤史達四人は病院に少しいると、また学校へと戻る事にした。

町田警部と多佳子はもう少し病院にいると言って残っている。

学校に戻ると、時刻はすでに午後五時を回っていた。

「ここが刑事さんが殴られた場所よね?」

育江が水野刑事が倒れた場所を確認しながら篤史に聞く。

「恐らくな。きっとこれを開けて見ようとした時に誰かに背後から襲われたんやな」

篤史は水野刑事が見ようとしていた物を見ながら答える。

水野刑事が開けて見た物は、音楽準備室に置いてあった段ボール箱のことだ。

「別に何も入ってへんやん。なんで、段ボール箱見て襲われなアカンの?」

里奈は段ボール箱に何も入っていないのを確認すると、意味がわからないというふうに篤史に聞く。

「それは言えてる。篤史、今回の事件、無差別事件やんな?」

留理も里奈と同じ疑問を持ったようだ。

「無差別といえば無差別やけどなぁ…」

適当に返事した篤史だったが、違和感でいっぱいだった。

(無差別事件…。ホンマにそうなんやろうか? ちゃんとした理由があるはずや。無差別に見せかけたホンマの理由が…。でも、なんで水野刑事は襲われたんや? このダンボール箱に見られたくない何かが入ってて、それを見られたせいか?)

「篤史、これ…」

里奈が壁についた黒ずんだ染みを指差す。

篤史は里奈の指差したほうを見てみる。

「血と違うか?」

「ヤダ。気味悪い」

育江は身振りしながら言う。

「もしかして、水野刑事はこの血を見たから襲われたとか…?」

留理は壁に付着している血痕から目を離して自分の考えを言う。

「いや、違う。この血痕を見たんやったら、今オレらが立ってる場所に水野刑事も立ってて殴られたはずなんや。なのに、このドア付近で倒れていた。恐らく、このダンボール箱がドア付近にあって、それを見たから襲われたんや」

篤史は留理の推理を否定しながら、三人のほうを向く。

留理達三人は篤史の言ってる事がよく理解出来ずに不思議な表情をしている。

「つまり、ダンボール箱には犯人を示すような何かが入っていたんや。それやったらわかるやろ?」

補足として篤史は話す。

「うん。その何かがダンボール箱に入ってたってことなのね?」

「そういうこと。きっとこの中身には犯人に繋がるような物証が入ってたんや」

再び、壁の血痕に目をやる篤史。

(犯人はこの血痕を拭き取るのを忘れてたんか? いや、そんなわけがない。血痕を残すようなバカな犯人やない。それに、この段ボール箱の中身だって…)

「小川君、わかったことがあったらなんでも言ってよね。私達も協力するから…」

「そうそう。篤史っていつも一人で考え込んでしまうもんね」

育江と里奈が交互に言う。

「留理以外に手伝って欲しくないわ」

ボソッと呟く篤史。

「何か言った?」

「い、いや…別に…」

苦笑いの篤史に、里奈と育江はジーッと篤史の顔を見る。

「な、何!?」

「なんでもない。ちゃんとわかったことを教えてよね」

里奈は催促するように自分も事件解決に協力すると篤史に言う。

「わかったことというよりわからへんことばかりや」

篤史は途方に暮れたように頭を掻く。

「わからへんことって…?」

育江はどういうことなのか篤史に聞く。

「広代さんの事件では五つ。水野刑事の事件では二つ。それだけで教えられる事はないやけど…」

篤史はそれだけ言うと黙ったしまう。

「案外、水野刑事が犯人の顔見てたりしてね」

留理はポツリと呟く。

「それはないでしょ? 背後から襲われてるんやし…」

里奈は留理が言った事を否定する。

「そうやんな。そんなわけないやんな」

留理はしゅんとなってしまい、自分の考えを否定した。

「確立少ないけど、意外と見てるかもしれへんで」

篤史は留理の言った可能性も少なくないというふうに言う。

「見てるかなぁ…?」

一筋の希望が出来た留理だったが、不安になってしまう。

「倒れた拍子に一瞬だけ見てるかもしれへん」

篤史は力強く頷く。

「水野刑事の回復したら聞きに行ってみようか。見てても覚えてるかどうかやけどな」

続けて、里奈は一度は否定したが、一つの希望を持って言った。

「そうやね。次の被害者出ないためにも何か一つでも手掛かり探さないとな」

気合を入れて言った篤史の顔をまじまじと見てしまう留理。

「なんや? 留理」

「ううん、なんでもない。早く犯人捜さないとね」

「そうやな」

元気よく返事する篤史。

その反面、留理は、

(こんな時に私ってば何考えてるんやろう? そんなこと、絶対にないって思いたいのに…)

篤史に対する不安な思いを抱えていた。

篤史は留理の不安そうな表情に気付いて、留理の事を気に止めていた。

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