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Actually love   作者: はるあみ
9/9

永遠(3)

 

(3)


 天文部の流星群観察を母に伝えると、嬉しそうに「私も行きたい な」と笑った。

  バレー部を辞めてから、なんとなく母と話をしなくなった。

 私を応援するのが好きな母に後ろめたかったのかもしれない。

「来てもいいよ」 私がからかうと、「じゃあ、制服を借りなきゃね」と言って大笑いした。

  当初、流星観察は那須高原でする予定だったが、学校の許可が下り ず、三鷹の天文台で行うことになり、副部長は三十分も不満を言い続けた。

 夕方に中央線の改札で待ち合わせた私たちは、ホームから空を見上げて雲の行方を気にした。

 三人の男子高校生と一人の女子高生が上を見ているのを、小学生らしき男の子が真似をした。

 天文台では、学芸員の人から説明と注意を聞き終えると、すぐに芝 生の上にレジャーマットを引いて寝転んだ。 東西南北に四つの頭を向け、カウンターを持ち月のない空を見上げる天体観測。

 南の方角には私の頭。そして東の方角には斉藤くんがいた。

「ねえ、寝たらどうしよう」 東の方を向いて言った。

「僕が根岸の分を数えるよ」 東から風にのって聞こえてくるゆっくりとした声は、本当に子守唄のように聞こえ た。

 カチッという音がして部長の「北」という声は、私の眠気を吹き飛ばす。

 天体観測というのは、もっとロマンチックなものだと思っていた。

 斉藤くんと天体望遠鏡を覗き、いつまでも星と運命の話をしようと 思っていたのに、流星観測は違う。

 流れる星の数と方角を寝転んで数えるのを、母に教えたらきっと大笑いして喜ぶだろう。

「東に二」「南一」「西二」「北二」 どれくらいの時間、そうして夜空を凝視していただろう。生まれて 初めて長い時間空を見つめた。

 そうすると、東京でも星がたくさんあることに気づく。ちょっとだ けでは分からない小さな星が、ちゃんと輝いている。

 斉藤くんにそのことを言いたかった。 「小さな星がたくさん見えるよ。あれが、何千年前の光なんでしょ う。何千年もかけて、地球に光を届けるなんて、やっぱり運命は宇宙 で出来てるんだね」

「僕と根岸が見ている流れ星は、何千年も宇宙を旅して燃え尽きるん だ。ちゃんとそれは計算で分かってることなんだよ。 どんなに偶然のように思えることも、ちゃんと決まってることなんじゃないかと思うだろう」

  斉藤くんは小声で答えてくれた。

「そうなんだね」 そう言ったあとの記憶は、空が薄明るくなってからだ。 部長と副部長は懐中電灯の下で、数えた星をノートに書き込んでい て、斉藤くんは赤くなり始めた空を見ていた。

 私はボサボサになった髪を手で押さえて、斉藤くんの横に立ち、同 じ空を見た。 それは、信也と図書室から見た夕焼けの色よりも赤く、照らしてい るのも反対の頬だ。 もしも、横に立っているのが斉藤くんではなくて、信也だったらきっと私は、こう言った。

「ずっと、信也のことを応援してるから、どこにいても、いくつに なっても夕陽にむかって『頑張れ』って信也のことを応援してるから」 やっと、私はあの時言いたかった言葉が分かった。


 卒業式の日、私は斉藤くんに手紙を渡した。

 メールではなく手書き の手紙を渡したかった。 字の下手な私は何度も書き直し、短い手紙をかきあげた。

  <手紙>

  半年間、とても幸せでした。まさか、斉藤くんから告白をしてもらえ るなんて思っていなかった私は、嬉しくてなんて言ったのかさえ憶えていません。 でも、初めてのデートで行った東京タワーの展望台から見た夕日は、きっと一生忘れないと 思う。もう会えなくなるかもしれなくて、寂しくて寂しくて苦しく なったら、きっと、また東京タワーに行くと思う。

 そこに、斉藤くんがいなくても、東京タワーに向って言うよ。 「頑張れ!頑張れ」って応援するから。

  だから、斉藤くんが元気がたりなくなったら、東京タワーの方をみ るといいよ。 斉藤くんと私の運命が半年なんて思わない。

 ずっと、ずっと逢えな くても運命で繋がってる。 私はそう信じてるから。


<手紙>

  夏美から、手紙を交換しようと言われた時は驚いた。僕も同じこと を考えていたから。 高校を卒業してアメリカに行くことは、高校に入学した時に決めて いたんだ。

 僕の生まれて初めて告白に、夏美は「知ってたんだ。好きになる運 命だって」そう言ってくれたね。

 そう、僕は夏美を好きになる運命。そのことに、気づいてよかった よ。


  I actually love you


 東京タワーから見た東京。夕日が照らしてた夏美の顔。 背中を叩いて「頑張れよ」って言ってくれた泣きそうな声。 柔らかい唇の感触。 抱きしめた時の髪の香り。


 それは運命がくれた素敵なプレゼント。ずっと大切にするよ。


  さよならじゃないよ。ずっと、ずっと

いくつもの想いが重なって、新しい出会いがあります。

それは見えない糸でちゃんと結ばれている運命。

出会い、再会。

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