永遠(1)
胸の中に残る想いを感じながら、また、新しい想いを重ねる。
卒業のたびに心の中に折り重なる想い出。
ずっとそこには居れないけど。ずっと
【永遠】
(1)
高校に入ってからも、雪乃のことをときどき夢に見た。 夢の中の雪乃は、僕と同じように成長して子供からブラジルで高校 生三年生になっていた
成長した雪乃を、僕はすぐに見つけることが出来たのに、雪乃は僕 に気づかず、電車に乗って行ってしまった それは、あの時僕の手を握った新宿駅のホームでのことだった。
僕は今でも、雪乃が赤いマフラーをして立っていた場所を通ると き、そして新宿駅の雑踏で無意識に雪乃を探してしまう。
私は高校に入ってから暫く、信也のことばかり気になっていた。
早く仕事がしたいと言って、信也は定時制高校に行きながら知り合いの工務店で働いていた。ちゃんと、学校に行っているのだろうか?不器用なあいつが大工さ んなんて危なくないのだろうか。
そんなことばかり考えていた。
サッカー部を一年で辞めた僕は、天文部に入った。星に興味があっ たわけではなく、運命の意味を知りたいと思ったからだ。 人の運命は宇宙の始まりから決まっていると、科学雑誌で読んだ。 難しくて全部を理解することは出来なかったが、それいらい星空を眺 めることが増えた。
そして、僕が見ている星を雪乃は地球の反対側からみているのだろうかと思うと不思議な気分になる。
信也が働いている工務店も、信也が通っている定時制高校も、私が 通う高校とは反対にあり、三年間すれ違うことはなかった。
一年生の時に、バレーボール部の練習試合で一度だけ信也の学校に 行った。信也に会えるかもしれないという不安で、前日の夜は眠れな かった。でも、定時制に通う信也には逢えるはずはなかった。
そして、二年生の春に肩を痛めた私は、そのまま試合に出ることも なく部活を辞めた。
高校に入ってすぐに携帯電話を買った。ショップで最初に聞いたのは 国際電話の掛け方だった。 アドレスも番号も分からなかったが、いつか雪乃に電話を掛ける日の ことを考えていた。
高校生になった時に買ってもらった携帯電話で、信也に電話をした かったが、誰も信也のアドレスを知らなかった。 電話帳にはメールアドレスも電話番号もなく、名前だけが登録され ている。
「ねえ、天文部って面白いの?」 バレー部だった根岸夏実が話しかけてきた。三年になって初めて同 じクラスになった根岸とは、話したことがなかった。
「面白いと思えば面白いよ」
僕は母親にも同じように答えていた。中学受験で失敗した僕は、公立の中学に進み、そのまま公立高校に通うことを選んだ。 母親が思うほど僕は頭が良いわけでも、勉強が好きなわけでもな かったので、それで満足していた。
「じゃあ、私も面白いと思えると思う」
根岸は、母親と違って素っ気ない僕の回答に、もう一度質問してきた。
「運命ってさ、宇宙から始まってるんだ」 僕は科学雑誌で読んだ記事を、僕なりに理解して根岸に教えた。
「へえ、そんなことってあるの?」
根岸が僕の話をどれくらい理解できたのか分からないが、一生懸命 理解しようとしているのは分かった。
私が興味があったのは天文ではなく、斉藤幸樹にだった。
入学した 頃は、信也のことが心に残っていたが、少しずつその想いは底の方に 沈み、その上には他の男の子が薄い膜のように何層も折り重なった。 ただ、その想いはひらひらと重なるだけで、ドカンという感じにはならなかい。
信也への想いは、私が気づかないうちに私の心の中に入 り、最後にドシンと音を立てて落ちてきた感じだった。
斉藤くんは、一年生の頃から、ときどきひらひらと降りては積もることなく消える。そんな人だった。
中学、高校と好きになった女子はいた。特にタイプとかはないよう で、なんとなく気がつくと気になる女子になり、それを「好き」と理 解するまで時間がかかった。 何度か告白めいたことをされたこともあったが、僕にはそれに応え る術がなかった。きっと、簡単なことだと思う。一緒に下校したり映 画見たり、それだけで良かったのだと思う。
キスをしたこともあった。映画を見た帰りに遠回りをした代々木公園は、高校生がキスをするにはちょうど良い暗さと、木々があり、僕 以外にも、そこでキスをしたクラスメートを何人も知っている。