応援(3)
(3)
卒業式の前日に、信也は図書室に行こうと私を誘った。
告白されたら、どんな顔をすればいいのだろうとドキドキしながら 信也の背中をみながら廊下を歩いた。
期待と不安、そしてはっきりしない自分の気持ち。私は校庭の隅に ある桜の木を見ながら、ぐちゃぐちゃの気持ちで図書室にまで歩い た。
「見つけたんだ、ずっと探していた本」
信也が見せてくれたのは、本ではなく図書カードだった。
「お母さんが、ここに来た証拠だ。一年間探したのに見つからなく て、昨日偶然見つけたんだ」
私が期待していた種類の告白とは違っていた。 信也の母親は、信也が三歳のときに家を出て行った。それから、信 也はおばあちゃんの家でずっと育ち、父親との思い出もないという。
自分がどうして生まれたのか、いったい自分を産んだ人が本当に居る のか。そんなことをずっと考えていたらしい。 そして、母親と同じ中学校に入学した信也は、中学校の中で母親探 しをしていた。
図書カードだけでない、校舎の裏の落書きや記念樹、 それを探していて授業に遅れていた。 信也は照れくさそうに、そんな話をしてくれた。
思いもよらない告白に、何も言えず息を止めていた。
「応援してくれてありがとう。試合にはでなかったけど、お前の声援が聞こえたら頑張って良かったと思ったよ。応援してもらうのっ て、嬉しいもんだな」 さらに、そんなことを言うから息継ぎが出来ず苦しくなった。
誰もいない図書室からは、三月の夕焼けが差し込み私の右の頬を暖 める。陽のあたっていない方の頬からは、私よりも背が大きくなった 信也が、キスをしてきた。
ずっと、息をしていなかった私は胸がくるしくなって、初めてのキ スがどんなものなのかも分からないまま、ただ信也の腕をぎゅっと掴 んでた。
卒業式の日、信也も私も「好き」とも言わず、目も合せなかった。
友だちと別れるのは、悲しくて他のこと同じように泣いた。信也の ことが大好きだと気づいたのに、もう会えなくなるのが悔しくて泣いた。
そして、お母さんがお洒落をして来てくれたことが嬉しくて、やっ ぱり泣いた。