表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラビリンスで待ってて  作者: 南 晶
序章 -玲-
4/63

4

 あたし達は圭介のシングルベッドに横になっていた。

 腕枕してもらって、あたしは彼の胸にぴったりと耳をつける。

 こうすると彼の鼓動が頭に響く気がするのだ。

 ちょうど、ヘッドホンから聞こえる音楽が頭の中で流れているみたい聞こえるあの感じ。

 圭介のもう片方の手はあたしの体をまだ弄んでいる。

 くすぐったくて、あたしはその手を掴まえてそっと噛んだ。


「・・・って」


 少し笑って圭介はあたしの両腕を掴まえ、あたしの頭の上で押さえつけた。

 両腕の自由を奪われたあたしの唇にまたキスをする。

 忘れることのできない体が溶けるようなこの感覚。

 あたしは胸が締め付けられるような幸福感を味わいながら圭介に身を任す。


 でも、この夜の圭介はいつもと違った。


 いつもの優しい顔に、悲しいような、困ったようなあの表情が浮かぶ。

 色素の薄い茶色の瞳であたしを見つめて、彼は思い切ったように言った。


「ねえ、玲」

「え?」

「お前いつまでこの関係続けたい?」

「は?」


 あたしは露骨に嫌な顔をした。

 不倫してる男女みたいなチープなセリフ。

 一番圭介の口から聞きたくない、そしていつか聞かされるだろうと恐れていたセリフだ。

 圭介は覚悟を決めていたようにゆっくり話し出した。


「オレは男だからいいけど、やっぱり玲には普通の結婚して欲しい」

「・・・普通って何?結婚なんてしたくないし」

「じゃ、結婚しないで仕事に生きる?進路も決めてないのに?」

「・・・」


 担任の先生みたいに痛いとこ付いてくる。

 あたしは言い返せなくて圭介をただ睨んだ。

 圭介は優しい顔のまま更に残酷なことを続けて言った。


「オレとは戸籍上できないよ。子供もつくれない。おかあさんにだって言えないし。・・てか、誰にも言えないよね。バレたら二人とも変態扱いされるし、オレは犯罪者だな。これってAVだと近親相姦モノ・・・」

「やめてよ!!」


 あたしは思わず大声を出した。

 勝手に涙が溢れてくる。


「そ、そんなこと、言われなくても最初から分かってる。なんで今更意地悪言うの?」

「オレがお前をダメにしてるって思ったから。」


 圭介は優しい顔のまま静かに言った。


「このままダラダラ付き合っても出口がない。でも未来もないけど終わりもないじゃん。オレは玲が結婚もしないで、仕事もしないで、どんどん年取ってくのは良くないと思う。」


 あたしは沈黙していた。


「オレは昔から意志が弱くて流されちゃう人間だから、ここまで来ちゃったけど。どこで終わらせたらいいのかきっかけもなくて・・・。でも、玲が卒業しても、あのコンビニでバイトしながらまだここに通ってたら、オレのせいだ。それだけは避けたい。」

「・・・それって別れたいってこと?」


 圭介は苦笑した。


「お前とは別れられないよ。妹だからな。でも、お前が普通のヤツと付き合って、結婚するなら・・・。」


 圭介が言い終わる前に、彼の頬にあたしの平手が飛んだ。


「偉そうに言わないでよ!何だかんだ言って、面倒な女と付き合うのが嫌になったんでしょ?変態はお互い様じゃない。今更、見え透いたこと言わないで・・・。嫌いになったんならそう言って・・・」


 ボロボロ涙が落ちてくる。

 もうあたしの感情は暴走してしまって止めようもなかった。


「玲、落ち着いて聞いて」

「は、離して!要するに変態プレーに飽きたんでしょ?もう、無理しないでいいよ!」


 暴れるあたしを圭介はものすごい力で抱きすくめた。

 あたしの顔に圭介の顔がぴったりくっ付き、耳元で低い声がした。


「嫌いな訳ない。好きだから言ってる。でも、玲は妹なんだから幸せになってもらわないと困るんだ。」

「なんで・・・?なんで圭介と一緒じゃ幸せになれないの?」


 あたしは子供のようにわあわあ泣き出していた。

 圭介は黙ってあたしの髪をなでていた。

 顔は見えなかったけど、彼も泣いていることは分かっていた。




 終わりのない迷宮。

 あたしは出口なんか求めてなかったのに。

 このまま二人でいつまでも迷宮で暮らしていたかった。

 でも、そこから最初に出ようとしていたのは圭介だったんだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ