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ラビリンスで待ってて  作者: 南 晶
第3章 -悠樹-
31/63

21話

 ぼくにとって、高田主任は尊敬する上司であり、男として憧れる人物であり、いつか越えたい目標だ。

 だから、たかが誕生日会の余興のライブでもピアノで彼のギターに負けるわけにはいかなかった。

 冷静を装いながら、僕はかなり必死に弾いていた。

 その演奏の最中に彼女と目があった。

 きれいな女性だ。

 漆黒の長い髪、白い肌に切れ長の目、細い首筋。

 何より気を引いたのは何故か悲しげなその雰囲気だった。

 

 この女性は本当の孤独を知っている。

 ぼくが待っていたのはこの人だったのかもしれない。

 いろんな所で孤立した存在だった僕にはそう思えてしまった。


 でも、ホントに似てないな。

 それも正直な感想だった。


 それから思い切って主任にアドレスを聞いた。

 それが昨日の営業車の中のことだ。

 主任は案外あっさり番号とアドレスを教えてくれたのだ。

 ぼくは主任が応援してくれるのかと、期待さえしてしまった。

 その晩、ぼくはBluemoonに彼女を呼び出し、告白した。

 ぼくのピアノが好きだと言ってくれたし、帰り際に友達からならと、一応了承は得た筈だ。

 ぼくは本当に友達から始めるつもりでいた。


 翌日の昼過ぎ、ぼくは改めてお礼の電話をした。

 台風が接近していて、かなり雨が強くなっている。

 まさか外出はしていないだろう。

 昨日はお疲れ様、今度はいつ逢えます?なんて月並みなことを聞く予定だった。


 長いコール音の後、やっと携帯が繋がった。


「あ、玲さんですか?」

「・・・うん」

「昨日はお疲れ様でした。」

「・・・うん」


 元気のない彼女の声にぼくはすぐ気付いた。


「玲さん、何かありましたか?」

「・・・」

「もしかして、泣いてます?」


 ぼくの質問の後、電話の向こうから彼女が声を声を殺した泣き声が聞こえた。


「どうしたんですか?」

「・・・圭介が・・・いなくなったの。起きたらもういなくなってたの。」


 彼女のすすり泣きをぼくは何と言ったらいいか分からず、黙って聞いていた。


「もしかして、ぼくとの交際のことで、何かあったんですか?」

「圭介は付き合えって言ったわ。でもごめんなさい。あたし・・・」


 ぼくは慌てた。

 何があったか知らないが、ぼくの事で主任が彼女に辛く当たっているなら放っておけない。

 この先、深い付き合いになったら主任はぼくのお兄さんになるのだから。

 ここは良好な関係を保っておきたいところだ。


「分かりました。今からすぐにそちらに向います。詳しい事情はその時に」


 ぼくは携帯を切って車のキーを掴んだ。


 交際を反対されたんだろうか。

 だったら、昨日何故ぼくにアドレスを教えてくれたのだろう。

 とにかくぼくのせいで、二人の関係が悪化するのは耐え難い。

 ぼくは昨日彼女を送ったマンションに向って、雨の中車を走らせた。



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