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ラビリンスで待ってて  作者: 南 晶
第3章 -悠樹-
30/63

20話

 初めて好きになった女性が目の前で実のお兄さんと性行為をしていたらどうする?

 しかも、そのお兄さんが自分が尊敬する職場の上司だったら?

 それが今、目の前で繰り広げられている。

 

 ぼくは必死で今の状況を分析しようとしていた。

 まず、第一にアダルトビデオ以外で他人が性交渉に及んでいるところを見たことがない。

 いや、それはぼくだけではない筈だ。

 殆どの一般人はリアルに他人の行為を見たことはないに違いない。

 目の前で行われる男女の光景を、ぼくは呆然と見つめていた。

 最初は彼女が無理矢理コトに及んで、ぼくを失望させようと試みているのだと思った。

 だけど相手の男、高田主任は慌てることなく彼女を受け止めそして・・・。


 まるで日常茶飯事のようだった。

 いや、そうなんだろう。

 二人の動作は自然だった。

 当然のように抱き合い、一つになって、そして認めたくないけどお似合いだった。

 きれいだとさえ思ってしまった。

 そこにぼくが入れる余地は全くないのを見せ付けられたのだ。

 それならそれでいい。

 ぼくの完敗だ。

 普通の男女だったならそう思って潔く身を引いただろう。


 でも。

 でも、あんたたち兄妹じゃないのか?

 こんなのアリか?

 ぼくは姉さんとこんなことできるだろうか。

 絶対無理だ。

 二人いるぼくの姉は、弟にとっては人ですらなかった。

 ヤツらは弟のおやつやお小遣いをくすねていく、油断のならない天敵だ。

 どうしてこんなことができてしまう?

 しかもこの半裸の男性は、昨日一緒に営業に行った高田主任だ。

 この現実をどう受け止める?



「岡崎?」


 主任が彼女に絡みつかれたまま、ぼくに聞いた。


「はい。岡崎です。」


 ぼくは何を言ったらいいのか分からなくて、我ながら間の抜けた返事をした。

 おもむろに床に落ちた携帯電話を拾い上げてズボンのポケットにねじ込む。


「すみません。分析に時間がかかりますので今日は失礼します。」


 ぼくは頭を下げ、まだ抱き合ってる二人の前を通って部屋を出た。

 表情が少ないぼくは、多分いつもと同じ顔をしていただろう。

 でも、人生初めての出来事に動揺していた。

 靴を履かずに出てきたことに気付いたのは、車に乗ってアクセルを踏んだ時だった。


◇◇◇


 初めて彼女、高田玲さんを見たのはBlueMoonで誕生日会をした時だった。


「オレ、妹の誕生日間違えて花買っちゃったんだよな。」


 職場で何気なく口にした高田主任の言葉に女子社員が食いついた。


「え~!ありえな~い。かわいそうですよ!」

「主任、リベンジするべきです。記念日にしてあげなくちゃ!」


 こいつらは主任と飲める場所が欲しいだけだ。

 主任に気のある女子が言い出すと、今度は彼女達と一緒に飲みたい男性社員が援護射撃する。


「そういうことなら、オレ達企画しますよ。」

「盛大にやりましょうよ。」

「場所は、岡崎、おまえ選んでおけよ。」


 突然、自分に白羽の矢が立ってぼくは困惑した。

 まあ、いい。

 友人が勤めてるあの店なら気が利いてるし、料理もそこそこだ。

 何より売り上げに貢献してやれる。

 ぼくは幹事を請け負った。

 それがイレギュラーなど皆無なぼくの人生を根底からひっくり返す出会いに繋がっていくとは、その時はまだ思ってもみなかった。




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