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ラビリンスで待ってて  作者: 南 晶
第2章 -圭介-
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18話

「圭介は動物に喩えると黒豹だね。」


 動物占いなる変な本が流行ってた時、玲が言っていた。


「オレってそんなにワイルド?」


 気を良くしたオレが言うと玲は残念そうに首を振った。

 木にダランと寝そべっている時の豹が、オレがダラダラしてる姿に似ているそうだ。

 オレは大いにガッカリした。

 かく言う玲はオレに言わせればシャム猫だ。

 我儘で気が強くて、でも一人で何にもできない。

 気まぐれで、寂しがりで、愛されてないと生きていけない愛玩用小動物。

 奈津美さんは、玲と対極にいる女性だ。

 女性に対して失礼だけど大型草食系動物、言わば象みたいだ。

 大きくて、優しくて、その大きさでつまらない物なんか跳ね返してしまう。

 一人で生きていける野性の強さを、この人は持ってる。



 温かい緑茶をお替りしながら、オレは結局その後も雨を眺めながら彼女とたわいもない話を続けた。

 ふーん、とか、ほんと~とか、適当に相槌を打ちながら奈津美さんはオレのヨタ話を楽しそうに聞いてくれた。

 雨が本当に強くなって外が真っ暗になった頃、オレはようやく立ち上がった。


「そろそろ帰るよ。これ以上いると明日まで帰れなくなりそうだ。今日は本当にありがとう。また改めて御礼にくるから。」


 オレは右手を差し出した。

 奈津美さんも立ち上がって、オレの右手を握り返す。

 温かい大きな手だ。

 かなり長身の上、肉付きが良いせいで、一回り大きく見える。


「奈津美さん。」

「なあに?」

「デカイですね。オレもデカイけど、こんな女性初めて見・・・ぐ!」


 オレの腹にパンチが入る。


「も~よく言われるんだから、言われなくても分かってますって。」


 奈津美さんは殴るマネをして舌を出す。

 冗談のパンチなんだろうけど、半端でない腕力にオレは少し咳き込んだ。


「車まで送るね。そのバスローブは貸しとくから着て帰っていいよ。」


 彼女は車のキーを掴んでウィンクして見せた。

 オレはバスローブの中は全裸だったのを思い出し、慌ててはだけた両襟を合わせる。



 玄関を出た途端、すごい雨が顔を叩きつける。

 奈津美さんが開いた傘が風に煽られ、逆の方向に開いている。。


「もう、走るしかないよ。圭介君、あそこまで走って!」


 奈津美さんは傘を捨て、草むらに止めてある軽自動車に向ってダッシュした。

 オレも後に続いて雨の中に飛び出した。

 何とか車の中に入った時には、二人ともずぶ濡れだった。


「あーあ、もうしょうがないな。車どこに置いたの?」


 濡れた髪をかきあげて、彼女は助手席のオレを見た。

 生地の薄いドレスが雨に濡れて体に張り付いている。

 体の線がはっきり見えてオレはあることに気付いた。


 ノーブラ・・・?


「え、ああ、車ね。臨海公園の駐車場。」


 赤面しながら、オレは前を向いて返事をした。

 中学生みたいだけど、スケベだと思われたくない。

って、36歳にもなって何言ってんだ、オレ。


「え~、こっから少し距離あるよ。結構流されて来たんだね。」


 奈津美さんはオレの動揺に気付いた様子もなく、エンジンをかけた。



 臨海公園の駐車場にはポツンとオレの車だけが止まっていた。

 その横に奈津美さんは軽自動車を横付けする。


「もう暴風警報でてるよ。気をつけて帰ってね。」


 彼女は手を振った。


「またバスローブ返しに来るよ。御礼もしたいし。あの・・・」


 オレは口ごもった。


「なに?」

「本当はすごくヤケになってた。まさか死にかけるとは思ってなかったけど。でも、何か落ち着いた。ありがとう。」

「人生、そんな時もあるって。」


 奈津美さんはオレの肩をポンポン叩いた。


 自分の車に乗り移って、彼女の車が雨の中去っていくのを見届けた後、オレは取り合えずTシャツとジーパンに着替える。

 時計はもう4時を回っていた。

 この雨の中、急いで帰っても多分6時だ。

 玲は今日何か食べたかな。

 オレは奈津美さんの温かい味噌汁を思い出した。

 今日は玲の為にオレが料理してみようか。

 上手いかどうか分かんないけど。

 

 オレはそんなことを考えながら、嵐の中を高速に向って車を走らせた。





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